四話 社会の授業みたい
俺は応接室での話のあと、病院を出て家に帰ろうとした。
しかし、バスは既に発車してたので、宇宙の話を聞きながら箱崎さんに車で家まで送ってもらっている。
宇宙の話というが、現在の仕組みなどについての話なので社会の授業みたいなものだ。
「じゃあ宇宙同盟についての話をするわね」
「お願いします」
「まず、この同盟は先の戦争において結果的にバルバの占領した全ての星が参加しているわ。盟主は当然バールバトア星の女王よ。そして、その下に地球が来るのはさっきの話から理解できるわよね?」
「はい。戦争の立役者であるバルバがトップ。その最初の支援者である地球が二番になるのは道理でしょうね」
戦勝国というものだ。
戦後すぐだとそこが力を持つのは俺の知っている方の歴史が証明している。
「でも同盟には多くの星が参加しているの。だから、この二つと色々な面で考慮して強力な三つの星を足して五大星という同盟の首脳陣を決めたの。それがセーベ、アプラ、マルシアという星よ。ああ、別に星自体が大きいというわけではないわよ?」
なんかスケールのデカい話になってきたなーと思いつつも続けるように促す。
「まずセーベね。この星は宇宙で最も科学力が発達した星よ。同盟参加星の全てに、衛星軌道近くに移動用のワープゲートを作ってくれた功績と、その高い科学力が評価されて全会一致で序列三位に選ばれた星よ」
「へえ。全会一致ですか。すごい星ですね。他にはどんな物を作ってるんですか? そんなすごい星があるのに、地球の科学はそれほど発達してないように見えますけど、交流はしてないんですか?」
今乗っている車も別に空など飛んでいない。普通にタイヤで道路を走っている。せいぜいエンジンが少し静かなくらいだ。
彼女は続ける。
「作っている物は多岐に渡るわ。中でもAI技術は最高ね。反逆などされないように、絶妙な調整をしているの。バルバの侵攻をオートマトンによる防衛装置だけでどの星よりも長く防いだのよ? あと、地球に技術を下ろさないのは、同盟の条約でみだりに他星の技術を使用しない決めたからよ。交流はしているのよ? いきなり最高の物をそのまま持ってくるのでなく。少しずつ自分たちの技術を上げていく形にしているの。特にセーベの科学力は高すぎて今の地球人には危ないのよね」
「そうなんですか。よく考えられてますね」
高すぎる科学力で自らの首を絞めないようにしているのか。
創作だと、これが原因で文明崩壊などはザラだがそういうことが起こらないなら安心だ。
「まあね。次はアプラ。この星の住人はほとんどが体に何らかの機械化処理を施しているのが特徴かしら? 星の環境が悪化したり、外敵に対抗するためにそうなったらしいわ。元々、体が丈夫な人種らしいから、下手な発明を作るより都合が良かったみたい。特にすごいのが、バルバの女王とただ一人まともに戦えた戦士がいたことよ。それは見事な戦いぶりで、それを気に入った女王が指名して四位の序列に着いたわ」
「機械化ですか?」
「ええ、中には首から下が全部機械の人とかもいたらしいわよ」
全身機械か。似たような話があるが、まあ宇宙とくれば機械だよな。
「じゃあ最後の星ね。ここは他の星とは事情が違うのよ。マルシアはバルバの侵攻が始まる前から周辺の星々の侵略していた軍事惑星なの。さっき言ったアプラの外敵の一つね。軍事力という力もある星だし、ここの処遇は当時かなり揉めたらしいわ」
「でも今の五大星の一つなんですよね?」
「ええ。科学力、軍事力ともに高くてね。侵略して併合した星の住人も含めると人口もトップなのよ。幸い、戦争の時にバルバ女王の本気で、主力艦隊が文字通り全滅したから、しばらく経った今でもおとなしいけどね」
「まあ、軍事国家はどこもめんどくさいものですからね」
「え? まあ、そうなのかしらねぇ?」
あ、そういえばこっちの地球ではほとんど戦争が起きなかったんだった。
「ゲ、ゲームでそういう話がでてきたんですよ! その国が色々邪魔ばっかしてくるんですよねーアハハハ。そういえば、そこの星の人たちも俺たちと近い姿なんですか?」
誤魔化すために焦って早口で捲し立てる。
「んー? 私はバルバの人以外は直接見たことがないのだけど。同僚から聞いたところによるとセーベはほぼ一緒らしいわ。アプラも生体部分は同じね。マルシアは個人によって全然違うらしくて一概には言えないわね」
「へえーそうなんですかー。ありがとうございます」
何とかうまく誤魔化せたか?
これ以上ボロは出さないように気を付けないと。
「では、他の星の話を聞かせてもらってもいいですかね?」
「ええ、いいわよ。 じゃあどこの星にしましょうか? あ! そうだわ。多分あなたもお世話になるだろうし、ソファラスって星が医療が発達しててね………」
激動の一日の夜は穏やかに更ける。
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彼を家に帰し、私は一人車内で通話をする。車内に残る彼の香りが私を何とも言えない気分にさせるが仕事が残っている。
気が緩んだのを自覚して気合を入れるため、軽く頬をはたく。
どうやらちょうど繋がったようだ。
「箱崎です。ただいまをもって任務を完了しました」
『そう。ご苦労様です。それでどうなりました?』
「なんとか了承していただけました。私は今後はどうしましょう?」
『……そうね、あなたは一度こちらに戻ってきなさい。今日からしばらく忙しくなるわよ。彼には出立まで普通の少年のままいてもらいたいですからね。こちらで色々根回しをしなければなりません』
「了解しました。私も同感です。それでは失礼します」
私は来た道を一人戻る。さっきまでは楽しかった。男性とまともに会話したのは何年ぶりだろうか。政府関係者になればモテると聞いたが、やはり嘘っぱちだったらしい。
「はあ。早く結婚したい……」
一人ぼやく。
既にアラサーだ。これでは嫁の貰い手が少ないだろう。地球は男性が多いと聞くがそれでもやっぱり少ないと思う。
いくら一夫多妻といっても誰かが売れ残るのは世の常だ。むなしい……。
「いやいや。せっかく彼の為に働けるんだから頑張らなきゃ! どうせ働くならやっぱ男の子の為よね! うんうん」
強引に自分を納得させ、一刻でも早く仕事を進めるためにアクセルを強く踏む。
管理官、箱崎ワカ。アラサー独身。
彼女は男に貢ぐことに喜びを見出すタイプの女であった。