三話 剣と魔法がないのなら、宇宙に行けば良いじゃない
「なるほどねぇ」
「黙っていてすいませんでした……」
その後、俺は結局、昨日から少し記憶が混乱してるんですよねー。と現状を濁して伝えた。
なので、応接室をそのまま借りてこの世界の常識について教えてもらっていた。
この世界は、ただ男女比が変わってそれに付随する事柄が変化しただけでなく、歴史自体も大幅に変わっているようだった。
こちらの歴史書に世界大戦の文字は載っていない。名前が変わったわけでなく、そもそも勃発しなかったらしい。
こちらでは、俺の世界よりもいち早く世界は話し合いのテーブルにつけたようだ。
だがその結果、世界的な男の減少が発覚。
一部の国では男の取り合いという、俺からすると何とも情けない理由の戦争が起きたらしいがすぐに鎮火する。
それから各国は手を取り合い、対策として医療技術、特に生殖関連の分野が発展した。
しかし、それでも現在の状況を見ればそれはあくまで延命にしかならず人口は緩やかに減ってるらしい。
そのため人類はもう一つの可能性、地球外の男を求めて宇宙を目指したらしい。
近くにいないなら遠くの男を。と、何とも単純だが実際に人類種はかなり危ないところまで来ている。
なので、その判断は間違いではなかっただろうと俺は思う。
その後は、結果的に夢に溢れた宇宙進出のプロジェクトの方が先に上手く行った。
外宇宙にまで進出できる艦を製造した人類は、世界を背負うにふさわしい女性たちに命運を託し、宇宙規模の男漁りに出発させた…………。
ところが、出発したほぼ直後と言っていい時期にある異星人と遭遇した。
通称バルバ。
それが現在、この宇宙を統べる惑星バールバトアに住む、宇宙最強の種族バールバトア星人だったらしい。
地球人はその探査艦に強力な武装なども積んでなかったため、あっさり降伏。
後のバルバの全宇宙を股に掛けた征服劇の最初の家来となった。それからの地球人はそれはもう忠実に働いたという。
その結果、わずか数年で目ぼしい知的生命体がいる星の征服が完了した宇宙において、地球はバルバ最初の仲間として高い地位を築くことができたらしい。
ちなみにこれは後に確認したが宇宙史という教科書に丸々載っていた。俺はそんな教科書があったことに気付けなかったんだが。
バルバはその戦いにて圧倒的な力を見せ、常に先陣を切って戦い、地球人はその後方支援や補給などをこなし、彼女らが存分に戦えるよう支えたと書いてあった。
ここからはスーツの人。
もとい、地球連邦日本支局の管理官をしているという箱崎さんから聞いた裏話的なもので、公になっていないことだ。
宇宙は統一され星々は話し合いのテーブルについた……。
だが、ここでまた衝撃の事実が判明した。なんと宇宙でも男性の衰退の事実が明らかになったのだ。
俺はここで正直ギャグかと思った。
わざわざ宇宙に出てきたのに宇宙にも男がいない。それどころか地球は人数的にも男女比的にも他と比べて多いくらいだったのだ。
この話はこの世界での青い鳥か何かかな?と本気で思った。結局、話が地球規模から宇宙規模に変わっただけなのだから。
そんな事になってしまったが、地球はただでは転ばなかった。
その逆境を地球は利用して、同盟にてナンバー2の地位を盤石にした。他の星にとっては非常に貴重と言える男性を外交に使ったのだ。
まあ惑星の存亡がかかっている以上、仕方ない部分もあるだろう。この話をするとき箱崎さんすごく申し訳なさそうだったからな。
当然男として色々と思うところもあるが、人類種の為と言うなら俺は許してあげよう。
だがまたまた問題が発生した。それが先程の俺の資質の話とつながるらしい。
やっとか俺の話になるのか。いやー長かったわ。
手始めに繁殖に必要な男性の精液を外交の道具として利用しようとした時、ここで初めて宇宙線の問題が発覚したのだ。
宇宙線にあてられて男児の生まれなくなった精液など大して価値はない、と一蹴されると当時の人は考えた。
ならば、と男性自体を直接運ぼうとしたが、それも同じくダメだったのだ。
しかもより深刻で、宇宙に一度でも出た男は精巣に悪影響が出るのか著しくその後の生産にも障害が残るらしかった。
ちなみに他の星の男性も調査の結果、同じく宇宙線に耐えられなかったらしい。
人類は色々と方法を模索したが全滅。
仕方なく一部の有力な星の種族には地球に来てもらって直接やり取りしているが、その数はこなせないので、いずれは地位が落ちること想定して恐れている。
というのが地球の現状らしい。
「まあ話はわかりました。それで、俺に何をさせたいんですか?」
この話を聞く限り、俺はこのまま子種製造機にでもされるのではないかと思った。
はっきり言ってそういう流れだろコレ。
だが、予想に反して箱崎さんはおもむろに床に膝と頭をついた。
そう、土下座である。古式ゆかしい土下座を彼女は迷うことなく流れるような動作で行ったのだ。
「お願いします! 七里さん! 地球の一員として、他所の惑星との外交官になってください!!」
「ちょっと!? 頭上げてくださいよ! なんでそんな話になるんですか!?」
すったもんだの末頭を上げてもらい、改めて話を聞く。
地球はこのまま解決策が出せなければ、最悪他の惑星から侵略を受け、抵抗できずに滅ぼされてしまう可能性があるらしい。
地球は軍事力的にも弱く、強みは地位と外交による友好関係だけなので、多くの国とより強固な繋がりが欲しいとのこと。
そこで俺が有力な星々のお偉方と交流する。
あわよくばその星の次代の後継者となりそうな者と『仲良く』なってもらいたいそうだ。
男という存在そのものが貴重になったこの世界において、俺は名実ともに地球から出せる最高のカードと言ったところだろうか。
「本当お願いします! あなたしか宇宙に出れる男性がいない以上! 地球を救える人はあなただけなんです!!」
「ちょっと! 土下座やめてくださいよ! それにそのお偉いさんなり、後継者ってのを地球に呼べばいいじゃないですか! それなら俺じゃなくても良いでしょう!?」
「それじゃダメです! 地球人は引きこもりのネクラとか宇宙で言われてるんですよ!? 一度公の場で大きく牽制しておかないとなめられるんですー!」
彼女はまるで自分が言われたことのように否定する。
事実そういうことも言われてるんだろうが、なんとなくこの人の私怨も混じっている気がする。
なんとなくわかるぞ。
またしても衝撃の展開だった。ここで少し落ち着いて考えよう。
別に俺は宇宙に出ることが嫌なわけではない。権力者とお近づきになるのも少し不安ではあるが、けして悪くないだろう。
何よりも地球が滅ぼされるのは非常に良くない。その為アリかナシかで言えば、アリだろう。
しかし一つだけ気になることがある。それは俺として、男としてとても大事なことだ……!!
「そちらの要求は解りました。ただ一つ聞かせてください」
「グスッ。はい、何でも聞いてください…」
気が付いたら泣いてた箱崎さん。
流石に泣かれるとなんか可哀そうになってきた。やはり異星間での交流は苦労が多いのだろうか。
それとも単純に上司にでもいびられているのだろうか。
「俺、宇宙人って聞くとわりとグロテスクな化け物だったり、何かキモいのを想像するんですが。そういうのとは仲良くなれそうもありません。そこのところはどうなんでしょうか?」
男として一番大事なことだろう。
折角、この世界では普通に生きているだけで女の子を選び放題なのだ。
それが何故わざわざ、クリーチャーしかいない苦行の道を歩みかねない仕事をせねばならないのか、というのが現状の俺の懸念事項である。
考えてみてほしい。
エイ■アンやプ■デター、グ■イ、火星■を愛せるのか?
俺には無理だ。キツイ。
モンスターな娘ですらちょっと……って子もいるのに人間要素が人型以外一切なし。
確実に無理だろう。
だからそこんとこは凄い気になる。というかむしろそこ以外に気にするようなことはないだろう。
「その点に関しては大丈夫です! 不思議なことに、宇宙でも有力な種族は身体的に人間に酷似していますから! そもそも、そうでないと取引など成立しませんよ!」
「……なるほど、確かにその通りですね」
そう言われるとそうだ。
先程の言葉から察するに、生殖用として精液のやりとりをしているのだろう、遺伝子的には近いはずだ。ならば容姿も似かよるというのは筋が通っている話ではある。
これはきたか!?もう進路決めちゃうかー!?やっべえオラわくわくしてきたぞ……!
そして俺の反応が悪くないのを見てか、彼女はダメ押しとばかりに続ける。
「はい。私がこの目でしっかり見たので確かです! 少なくともバルバは人間そっくりです!」
まあ角とか翼とか尻尾とか生やせてビームとか出しますけど……と小声で聞こえないように言う。多少の嘘は仕方ない。地球のためなのだから……。と彼女も必死なのだ。
「……わかりました! 俺で良ければその大役引き受けます!!」
「本当ですか!? 良かった~」
俺は彼女からも提案を承諾する。
異世界と言ったらファンタジーを想像していたが、SFってのもまた一つのファンタジーだ。
剣と魔法がないのなら、宇宙に行けば良いじゃない。
かくして、少年の将来の道はここに決まったのだった。