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蒼海の戦士ナイトブルー 泡沫より登場! 3


 さて、もういいだろうと退場しかかった。が、タイミングが悪かった。


血相変えた御者さんが、お嬢様が消えたと叫びながらデイに駆け寄った。


 戻るのが遅かったなり。


処分とか嘆願とかの言葉が飛び交っている。私、そんなに重要人物でしたっけ? ま、いいか、ブルーが退場してサユが登場すれば、御者さんも安泰。こっそり麒麟に乗ったら、デイがブルーの腕を掴んだ。逃がすものかの形相だった。かなりびびった。組み手に移りそうだったから。主にブルーが仕掛けた(なぜ)。ここでさっそく嫁入りかけて決闘か状態。ほんと、なにしてんだ、自分。


冷静さを取り戻し、

「サユは俺が匿っている。連れてくるから待っていろ」


しかし、腕は放されず、

「ご同行します。サユ殿をこの目で見るまでは安心できません」

ひたむきに見つめてくる。


「来なくていい」

負けるものかと睨み返す。


「いえ、ご同行します」


掴まれた腕が痛い。こちらも負けじと力を込める。いい度胸だ。多少の怪我は目を瞑れよ……って戦闘モード入ってる入ってる!


 ヴヴヴ ヴー


また麒麟が切れそうだ。やばい。そういや麒麟の上で攻防していた。麒麟は唸りながら首を振り、デイに退けと意思表示をした。


「サユのことは麒麟が責任を持つそうだ。大人しく待て、だと」


通訳してみる。わからんけど。


そこでようやくデイはブルーの腕を放した。


 どうして? ねえ、どうして、ブルーは信用できなくて麒麟ならいいの? 


なんて思っているうちに、足下から大量の水が跳ね上がり、麒麟とブルーを包んで地へと沈んでいく。


 これが退場? さっきのおっぱい星人の元へ行きそうだけど大丈夫? つうか、竜の仲間と思われてもしょーがないじゃん!!  


 うわー、とパニクっていたら、浮かんだ一文。自然と口にする。


『泡沫より来し者、泡沫へと還る』


そうか、あぶくとなって消えるのであって、地に潜るわけじゃない。


走り去る(ユニコーン)、飛び去る(ペガサス)、消え去る(麒麟)か。


これはブルーの退場のセリフだった。水上でやったら尚よかったんだろうね。どうでもいいね、うん。


 麒麟も心得たもので、人目の無い場所で、再びの水柱とともに現れていた。濡れてないよ。潜った感覚もない。水しか見てない。水の幕が上がったら場面が変わっていた。これを瞬間移動というのかも。


「おまえ、常にサユの側に付いてくれるか?」


武装変身を解く前に麒麟に触れてお願いしてみる。ブルーの言うことなら聞いてくれそうだったから。

 

 ちらっと頭を過ったのは、麒麟って何食べるんだろう? というものだった。どうでもいいな、うん。


そして、ブルーのお願い通りに、生身のサユを背に乗せて、麒麟は走ってくれた。結構遠かった。視野広がる大地で隊列から見えないところまで移動したとなるとこのぐらいの距離は必要だろう。消えて現れるのは便利だけど武装してないとダメらしい。しかもブルーに武装。ホワイトではどうかと提案したら拒否られた。あくまでも飼い主はブルーなんだな。同じだっていうのに。


そうして隊列に戻った私は姫様馬車に軟禁となった。


 皆、さっきから一言も喋らない。


 姫様馬車は広い。姫様と私と、スナイフにトッテン、侍女さん二人。でもまだ余裕がある。足も伸ばせる。お尻も痛くない。デンセンは馬に乗って馬車横。デイは相変わらず先頭。しんがりは南の大隊長らしい。顔は見たことないから知らない。麒麟は、デンセンの後ろを歩いている。王都に着いたらしばらく消えていてもらおう。善良な一般市民を脅してはいけない。


 無言が辛い。この張詰めた空気は何? やっぱり荷馬車に帰りたい。


ちらと姫様を見たら、目があった。


「サユ様」


姫様がそっと私の手を取る。


「デイユーキ様は、わたくしとサユ様がお話をすることにあまり良いお顔をなさいません」

「は?」


なんなんだ、あいつ。でも、デイって姫様より偉いの?


「何を言われたくないのやら、見当もつきませんけれど」


ふふふ、と姫様が笑う。それは見当がついている顔だ。


「気にしなくていいのではないですか?」


デイのことなんか、と言って様子を見る卑怯な私。


「そうですわねえ」


姫様は外を窺う。そこには東の大隊長デンセンが居るはずだ。


「話題を選べばいいのですよねえ」


そして今度はトッテンとスナイフをちらちら見る。牽制してます、視線。牽制された二人はそれぞれあらぬ方へと顔を向け、暗黙のうちに「何も言いません」を確約させられていた。


 それから、質問責めにされるかと思いきや、姫様はまずは私、サユの立場を説明してくれた。


そうだよ、迷子には位置確認が必要なんだ。誤解や遠回りになる原因は早々に取り除いたほうがいいに決まってる。


 姫様は言う。私がただの『サユ ササヤマ』であったなら。


あの町に残るも王都へ行くも自由にできた。デイユーキがそうしたいのであれば、保護するも野放しにするも彼個人の一存でできるし、それに従うも逆らうも私個人の判断に委ねられる。


 だが『サユ ササヤマ』は、力あるアーマーだ。


他国兵団の一員の疑いは晴れた、と思いきやそうではなかったらしい。こちらの言い分はわかった、だけの話。あの場に居た者達は疑ってはいないが、公ではそう簡単に結論付けることはできない。他国に加担していないとの確証はどこにもない。何事も国王陛下の判断に寄るのだと。が、これについては姫様は心配していないとのこと。陛下も必ずや姫様と同じ判断を下すはず。問題は、その後のサユの処遇。陛下は『お願い』の形でサユに国内に留まるように要請し、場合によっては国のために働くよう『お願い』するだろうと。


 そのうえで、『サユ ササヤマ』が奇跡の一族、デンセン言うところの奇跡のアーマーであったなら。


 奇跡の一族、それはおとぎ話のように曖昧な存在。絶大な力を持つ故に、人目を逃れ隠れ生きる言われている。都に紛れて、または人里離れて、あるいは騎士の中にも、その力を隠して生きている者がいるとまことしやかに囁かれている。もはや都市伝説級。


 サユがその奇跡の一族だと、デンセンが指摘するまで、姫様は思い付かなかったと言う。


 指摘も気付くも、そもそも違います、人違いですってば。と言えば、そうでなくても同じ事。奇跡の一族とは、世間が勝手に付けた呼称であって、確定的な一個一団体を差すものではない。絶大な力持てば、すなわち奇跡の一族なのだと。


 日本でいうならば忍者。日本人なら恐らく(観光忍者を除いて)99%以上の人が「いないいない」と首を振る。残りの1%は、自身が忍者修行を独自に行っている方々なのだと私は思っている。


 だが、竜が居るこの世界なら、どこかに奇跡の一族やらも居るかもしれないと思う。ブルーの時に垣間見た戦いで、異様に素早い騎士もいたし、剣先が光っている者も居た。この世界では剣術も極めれば成り得るのだろうと。デイやデンセンなどは言うに及ばずその極み。


 そこで、ランカワンマクスラルス国の方策として。


 意に従わせることはままならない奇跡の一族だが、我国はサユという足がかりを得た。サユを懐柔すれば、サユを溺愛する他2体の奇跡のアーマーも手に入る。そのための尽力を我国は惜しまないだろう、と。


 姫様が、ここまではっきり言うことに感心した。また感謝もした。これなら私も判断できる。溺愛は違うとは思うが。


「デイが私と結婚したがるのは、そのためですか?」


デイと結婚すれば私もこの国の民になる。都合が良いだろう。姫様には聞き難いことだが、前提がそれならデイが私に持つ感情は愛情よりももっと利己的な執着に近いものとなる。そこは、私もはっきり聞いておいたほうがいい、と思った。


「デイユーキ様は、サユ様が奇跡の一族だと最初から思ってらしたのかしら?」

「そこが謎なんですが」


デイは『おかしな術を使う』とは言っていたが、ここまでおかしな術だと思っていたかどうか。


忍者呼ばわりされたと私が感じたのは、ただの偶然だったのか、それとも危険信号だったのか。


「タツキ様は……」

「へ?」


急にその名を出すからびっくりした。


「その、タツキ様は、普段、何をしてらっしゃるの?」


俯き加減で姫様が問う。なにと言われても、


「働いてますよ。割とハードに。休みもあまり無いようです」

「まあ、それはおいたわしい。さぞかしお忙しく飛び回っておいでなのでしょうね。お体は大丈夫なのでしょうか?」

「………うーん」


ちょっと考える。体は丈夫だ。瑞樹兄ちゃんと違って、がっしりしてて男らしい体格だし、背も高い。学生時代はラグビーの選手だった。プロにでもなるのかと思っていたら、プロはプロでも、プログラマーとして普通に就職した。それを意外に思わなかったのは、竜樹兄ちゃんは、ラグビーの練習や試合以外では外出しない男だったからだ。休みの日には必ず家に居る隠れインドア派だ。本棚には本でなく、コレクションケースが並んでいる。今は赤い瞳の猫娘が心の癒し。二次元ではぺちゃ鼻の眼鏡っこが好みだと積まれた雑誌が主張している。


 それでもたった一度、彼女らしき人を連れて来た事がある。リビングに通すように勧めたのに、自分の部屋に招き入れていた。その日以降、彼女を見た事は無いし、別の女の人を連れて来たこともない。


「サユ様? いかがなされました?」

「あ、その…」


イカンイカン。竜樹兄ちゃんの将来を勝手に悲観して落ち込んでどうする。

気を持ち直して、


「いえ、兄は頑丈なので体の心配はないと思います」

「そうですか。ご自愛くださいとお伝えください。その、たいそう、女性から人気もおありでしょうね。良い人はいらっしゃるのですか?」


なんだか唐突の様な気もするけど、問題はそこ。


「それが居ないんです。誤解されやすいのが原因だと思います。兄は口数は少ないけど、底抜けに優しいし、頭いいし、たくましいし、頼りになります。兄を本当の意味で理解してくれる人が現れると良いんですが」


姫様が真剣な顔で頷いている。


でも、自信がなくなってきた。瑞樹兄ちゃんとは違うと信じたいけど(すっかり腹黒い人決定)、今度ブラックになりきったら新事実が白日の下に晒されるのかもしれない……。





◇◇◇◇◇






 ようやく着いた宿場町は規模が小さく、全員が泊るほど宿の数もなかった。兵士の殆どは町の外で露営となり、宿へは王太子と姫様の護衛及び侍従のみが泊まることになった。


 私? そりゃ当然麒麟と露営のつもりだった。麒麟を枕に一人で毛布に包まる予定だったのに。


特上の宿の特上の部屋を王太子、その次を姫様、で、その次が私だと。


 身の置き所がない。せめて普通でお願いします。もう逃げちゃうぞ、ほんとに。


私の部屋は決して豪勢豪華ではない。いくらか小奇麗だと感じるぐらいのツインルーム。元が田舎町の小さな宿だ。王太子も姫様も部屋に大差はないと思う。もてなしも全く差がついてない。


 せめて兵士か、侍女になりたい。少なくとも守られたり大事にされる立場じゃない。


窮屈で仕方ない。散歩でもしよっかと腰を上げた。気分転換は大事。


 部屋を出て、フロントへ。宿屋の責任者らしきおやじさんに、出かける旨を伝える。


途端にどやどやと足音が聞こえ、私の両脇にデカイ男共が張り付いた。知らない顔だ。トッテンやスナイフの部下かもしれない。だからといってどうということもないが。


「なんですか?」


つっけんどんになってしまった。


「お出かけでしょうか?」


質問を質問で返すな。でも、私は大人なので、

「はい」

簡潔に答えて、宿屋のおやじさんに会釈。さっと踵を返して扉を……こら、行く手を阻むな。


「お待ちください。今、確認して参ります」


誰に何を確認するって?


 あ、イライラしてる、私。


まずいなーと思いつつも、

「私に護衛は必要ないです。しばらくしたら戻るから一人にしてください」

護衛じゃなくて見張りだとは思うけど、一応。


「お待ちください。お願いします」


勝手に私が歩き回ると、この人の首が飛んじゃうのかな。

それは可哀想か……とそんなことを考えなきゃいけないのもストレスだー!


「じゃ、デイユーキ将軍に確認してください。いえ、私が、確認します」


トップに話をつければいいんでしょが。


ゴネていたら、デンセンが現れた。やめてーと固辞する私を彼がデイの元まで直々に送ってくれるという。またこんな特別待遇だよ。王族警護の責任者に送らせるってどうなの?


「一人でいいですよ。麒麟も居るし」


麒麟は足音がしない。コンパクトにまとまっていて街乗り可能。


「いえ。そういうわけには参りません」

「警護でなく、見張りですか?」


デンセンは緩く首を振り、

「あなたを懐柔するのは、特にデイユーキ将軍でなければならないとは決まっておりませんよ」

なぜか艶やかに微笑む……。


姫様馬車での話は外に聞こえていたらしい。聞こえると姫様もわかっていて、外に目を向けていたんだ。とすると、この男が聞いても良いことを喋ったわけで、私が慌てる必要もない。そして意味のわからない色仕掛けに乗る必要もない。


「そうですね。懐柔される方も私でなければならないとは決まってませんしね。兄

も居ますしね」


ブラックでもブルーでも好きに懐柔してみなさい、両方私だけどな! と心の中で喧嘩を売ってみる。


「いえ、それはいいのですが」


なにがいいのか、にっこりと笑う優男。剣の腕は確かだ。多少は見直している。外見だけで見損なっていた私もどうかと思うが。


「将軍があなたに聞かせたくない話のほうは、興味はありませんか?」

「無いです」


それ、姫様の様子からして、どうせたいした話じゃない。だからきっぱり断る。


「ないですか? 本当に?」


しつこい。


「ないですけど、聞いた方が良いですか?」


デンセンの細い眉がクイと上がる。


「その方があなたのためだと思います」


と思わせぶり。やっぱり、私にとってどうでも良さげな話だ。


「では、デイに会ったら聞いておきます」

「いえ、こういう話は当事者以外からも聞くほうが良いですよ」


なんだそれは。話したいなら、さっさと話せばいいじゃない。回りくどい。


「それではお聞きします。話してください」


デンセンは薄く笑んで、ゆったりとした歩みに変えた。






◇◇◇◇◇






長い隊列は、ほぼ長いままで夜の闇に佇んでいた。途中途中に火が見える。デイの居る場所は旗が立っているそうだ。


 なぜそうも狙ってくれ目標を立てたがるか。


「そこです。先触れしたのですが、仮眠を取られているかもしれません。お待ちください」


デンセンの指差す先に幌馬車があった。意外と質素だ。私もこれでいいのに。


デンセンと二人で待っていると、しばらくして一人の従騎士が案内してくれた。目と鼻の先なのに。自分で出て来ればいいのに。


「失礼します」というデンセンに、幌の中からデイの短く返答する声が聞こえた。デンセンは幌をあげて、どうぞ、との仕草をした。


 なんだか緊張する。


デイは蝋燭の薄明かりの中、桟敷の上に座っていた。横に毛布があるところから、このまま寝てるのだろう。固そうで痛そう。


「突然ごめんね、あの…」


どうやって切り出そうかと次の言葉を考えていたら、


「寂しかったのか?」


仕方ないやつだと言わんばかりに鼻で笑った。


 ……なんだこいつは。


「や、そうじゃなくて、私は、外に…」

「そんな所に突っ立ってないで入れ。サンデンセン、ご苦労だった。もう下がっていいぞ」

「はっ」


敬礼してすすっと後ずさるデンセン。それをぼーっと眺めてる私。


「サユ、入れと言ったろう?」


そうだった。目的を忘れるところだった。


「私は散歩の許可を貰いたくて来ただけ。ここでのんびりしようと思って来た訳じゃないから、って、なにすんのっ、ちょっとっー」


ずるずる引き摺られ、結局連れ込まれてしまった。

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