表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/23

天空の戦士ナイトホワイト 華麗に参上! 3 



 たった二日で、怒濤の展開。


 唯一良かったと思うのは、あの時、たまたま頭をよぎったヒーローが、この世界に合っていたということだ。これが、いくら正義の味方とはいえ、凶悪顔のどでかい怪獣や恐竜だったりしたら、目も当てられない。ドラゴンより強いモノ!とでも念じていたら、きっとそうなっていたはず。それは存在するだけでキツイから、いきなり討伐対象になってもおかしくない。そうなれば、むしろ、親分格ドラゴンを制して竜の世界で君臨し、どなたにとってもそこそこな均衡を保ちつつの微妙な世界平和に向けて私は努力しなくてはならなかった。どこに居ても、やっぱりそこそこになってしまうところだった。本当に良かった。


 そんなことを、自分を慰めるためにつらつら考えていた。だって、他にすることないし。


 ランク中の上の宿屋のロビー。長椅子に横たわっているのはホワイト衣装のままの私。ご丁寧にイケメン特別仕様にて兜も脱げている。デイは、私をトッテンとスナイフに託して、再び翼竜の元へと向かった。


 視線が痛いの。


 すったもんだして、ようやくこの状態に落ち着いた。私だってわかってる。息も絶え絶えに苦しむ人間がいたら、まず、窮屈な衣服を剥き、ベッドに押し込め、看病の名の下に屈服させるだろう。未だ不満の周りの空気も読める。でも、譲れない。


「わ、たし……は、だいじょ、ぶ、です」


 だから一人にして。かまわれると逆に回復が遅れると、ここまで言えたらいいのに、いつも途中で邪魔が入る。


「スナイフが医者を連れてくるから、それまで頑張って」


トッテンが私の手を取り言う。涙目だ。軽薄そうなのに意外と涙もろい。


 変身さえ解ければ治ると思うのに。困った。やっぱり一人にならないと解けないのか。どっちみちホワイトは正体が割れているのだから、いっそここで解けてもいいのに。とは思うものの、試す勇気も方法も無い。


「うっ、私、は、いい……デイ、を、たすけ…て」


うわあ、もうほんとめんどくさい。というか、君たち、デイの応援に行ってよ。中の上の宿屋に溜まってる場合ではないと思う。


「ご安心を。お嬢さん。名医です」


あなた、ズれてない? イマドキ騎士。名前なんだっけ? 聞いたっけ? まあいいか、東の隊長で。間違いじゃない。


 私の目線に不信が現れたのかもしれない。


「サン デンセン ミチコ フットレモン です。覚えてくだされば光栄です」


 初耳だ。絶対。


「叙勲冠は結構ですので、私のことは、デンセンとお呼びください」

「叙…勲?」


なんだそれ。でも説明いらない。覚える気は無い。


「大隊長、サユは叙勲のことは知らないと思います。僭越ながら自分が説明します。よろしいでしょうか?」


トッテンの進言に、大隊長デンセンが頷いた。だからいらんって。


「サユ、名前の頭に、サン が付くのは、武勲の証。大隊長のお父上がランバルクーエズの戦いで、敵の総大将を……」


 武によって叙勲されれば、いわゆる英雄だ。騎士の多いこの国ではかえって稀なことらしい。多少の武勇で叙勲していたら雨後のタケノコのように出るから、何十年に一人出るか出ないかの厳しい基準になっている。それほど希少なので、世の中に英雄が一人も存命していない事態も起こり得る。故に二代に渡って讃えられ、二代目は英雄の子といった位置付けになる。逆に言えば子がグータラでも、父親の功績だけで敬われる。が、デンセンは違う。英雄の子という無言の圧力に打ち勝ち、己の力でここまで上り詰めた素晴らしい騎士だ、とトッテンが力説した。頭にサン付けは強制らしい。


心底、どうでもいい。とにかくここから逃げなくてはね。


「私を…そとへ…」


出せ。さっさと出せ。そうしたら馬を呼んでみるから。


「行かなくていい、もう、喋るな」


トッテンは、いよいよ顔を伏せて肩を震わせている。死なないってば。死なないはず……だよね? みんながあんまりしんみりモードなので、ちょっと心配になってきた。


 どうしようかな。このままだと、もしかして彼女が出てくるのかな。でも、このホワイトの状態で、彼女が出て来たことは無いと思う。目に見えないことはしない。子供番組だから。特にホワイトは番組の終盤でヘロヘロになるのが定石。その後に彼女の出番を作ると尺が詰まる。番組前半でやられちゃった場合に出てくる。主にブラックの腕とかが飛んだ時だ。彼女、ブラックが好きで、ホワイトが嫌いで、ブルーが普通。とてもはっきりしている。ツンデレではない。子供相手にわかりにくい設定はない。


 うーむー。


でも、もし出てくるったって、誰が? 私? また? で? どうすんの? 彼女が私だったら、治す相手はもう居ないってことでは? それでは永久に彼女の出番はない。


 うーむー。


悩んでいても仕方ないな。まずは馬だ。ホワイトの馬はペガサスだ。来てくれるといいな。


「そと、へ、連れて、出て」


トッテンの手を僅かばかり握り返して懇願する。

宿屋をぶっ壊すわけにはいかない。同じ間違いはしたくない。


「そんな体でムリするな。デイユーキ様に任せておけばいい。なにも心配しなくていい」


そうじゃないんだよー、私はもう戦わないよー。ここから逃げるんだってば!


「それほど、デイユーキ様のことを…」


姫様、泣きそうな顔して言わないでください。そういう意味と違います、顔をしかめて首を弱っちく振ってみる、が、触ーれーなーい。ふいっと視線を外したような、微妙な感じに仕上がってしまった。


姫様、ますます泣きそう。


「それほどおっしゃるのなら、遠くから見るだけですよ」


見かねたのだろう。デンセンが私を抱え上げた。冥土の土産のつもりかもしれない。


 ああ勘違いが勘違いを生んでいく。


でもいい、外に出られればいい。


私を抱え、デンセンが扉を開けた。陽がまぶしい。思わず目を瞑ると、デンセンが私に影を落とすような位置に変わる。結構、優しい。最期の優しさかもしれない。


 と、感心しているヒマはない。姫抱っこされたまま、ゆっくり、ゆっくり手を挙げる。


「ペガ…サ…ス」


晴天だったのに、雲がささっと上空に寄り集まる。とても不自然。その雲の切れ間から日が漏れ光り、翼を持つ白馬が天使の梯子を駆け下りる。


 来たよ、うん。良かった。別に天使の梯子いらないけど、舞台設定は大事。


ヒヒンといなないて、私の真横に降りてくれた。そして地面に伏す。馬なのにとても不自然。それでもこうしないと、瀕死(違)のホワイトが乗れない。ヒラリと景気よく乗ったらそれも不自然。どちらの不自然を取るかで、馬の不自然を取ったのだと思う。


「の…る」


が、デンセンは動かない。顔色を伺えば、びっくりして固まっている。拒否ではなさそう。もう一押し。絶対的な存在を示してみよう。


「め…がみ…に…会う。…なおし…てくれ…る」


これ白馬でしょ、神の使いみたいでしょ、女神もいるかもよ、安心して。


「わ、私もご一緒します」


はっと気付いたように言うデンセン。来るなよ。姫様の護衛はどうする!


「だ…め」


と首を降る。また中途半端だ。


「のせ…て」


苦渋の決断といった感で、デンセンは私を馬に乗せてくれた。

たてがみにそっと顔をうずめると、ペガサスが立ち上がってくれた。馬なのに、すんなりと。やっぱり不自然。


「あ…」


口を開きかけたデンセンを置き去りに、ぶわっと羽を広げ、ペガサスは飛び立つ。



 よかったー。どうなることかと思った。人目のないところで降りて……くれるといいな。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ