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必殺! 天上天下無想無念 5




 本日は王妃様のお誕生日。ささやかにこじんまりと催すはずの宴が、開けてみれば、国をあげての大祝宴。お天気にも恵まれ、王宮ホールに面した中庭に残り陽がするすると影を引っ張っていく。宴はまだ序盤。これから主役の王妃様を中心にますます盛り上がっていく頃合。


なのに、祝宴に集った人々の視線はホール片隅、一組の男女に釘付けだ。私とデイだけどね。とても静か。ときおり鼻すすり音と、感極まった嗚咽音。


 みなさん、会話してください。楽団は仕事してください。陛下あなたもですか。王妃様、耳を露骨に向けるのは感心しません。本日の主役が何をしてるんです。楽しければいいですか? なにげに姫様と似てます。それなら廊下に待機している雑技団を呼んでください。王太子、こっちより、脇の許嫁殿を見てやってください。とばっちりはごめんです。


 この状態での、周囲観察にも飽きてきた。


「デイ、もう、わかったから、放して」

「おまえが安心するまで、ダメだ」

「安心って……」


 時と場合を考えよう。トンロート子爵の立場も考えてあげよう。これでは捨て台詞を吐いて立ち去ることもできないでしょうが。娘さんも真っ青だよ。可哀想だよ。彼女は悪くない。知らなかったんだから。知ってたら、最初からパイなんて贈らないと思う。


 誰が悪いって、そりゃ、ルーさんに決まってる。ひどいよ、これ。


パイだけじゃない。縁談を放置とかもやらかしちゃってる。縁談というからには、それぞれの立場が絡む正式なもの、だよね。この子爵も、伯爵の息子だからってエラそーにすんなって文句を言ったわけだし。親からもルーさんに話を通したんじゃないかと推測される。ルーさん、自分の首まで絞めてどうするつもりだったんだろう。


 ん? 王太子が歩いてくる。なぜだ。あなたはそこでじっとしていて欲しい。うわ、許嫁殿まで付いて来る。もういっぱいいっぱいです。姫様ー、と目線で応援要請。姫様は私に釣られて視線を流す。そしてムムっと口元を引き締め、ドレスを両手で掴んで、勇ましく歩き出した。よし、そっちはあなたにお任せ。


「帰ろう、サユ。おまえをここには置いておけない」


じゃなくて。心情的には全く問題ないけど、それが許される立場じゃないでしょ。


「サユ様っ」


なぜだ、なぜ、ここで王太子が私の名を叫ぶ。姫様は何をして…あ、掴んでますね。王太子の腰。凄い図だ。なにが起きた、どうしたいったい。


「私では、だめでしょうかっ、サユ様を娶れませんか」


 ってーーー、大丈夫か、頭。このシチュエーションでそれはない。絶対ない。策略か! 暗殺するのがめんどくさいので失脚狙いか。失う地位なんか私には無いぞ。第一、そんなこと一言も言ってなかったよね。白騎士の衣装が見たかっただけでしょ。ここで私をピンチに陥れてどうするんだ。


 ぐわ、デイ、力入れるな。ただでさえ、コルセットがきついのに、よせ、放せ。


「国のためには、私と白騎士殿が結ばれるのが一番です。違いますか」


 会場、いっきにざわつく。王太子、どこにツッコミ待ちなんだ? 私にこの国への義理は無い。国のためなんて知るわけない。


ぐいぐいと、デイの胸を押し、

「国のために、好きでもない人と結婚するのは、私は、ぜったい、いやです」


私はだだっこか。いや、ここはきっぱりしておくべき。私には気にしなきゃならないしがらみはない。


「いえ、国のためだけではありません。白騎士になられたサユ様はお美しかった。感動したのです。あなたのような方はどこにもいない」


 ぐううわああ、恥ずかしい。何を言ってくれちゃうわけ。ってか、苦しい。デイ、やめ、やめっ。


「あの時、ドラゴンさえ現れなければ、サユ様は……」


 あの時って? 


「王太子殿下、お席へ」


デンセンも加わった。よし、今度こそ任せた。私は苦しい。


「サンデンセン、下がれ。姉上、放してください、姉上だってそうおっしゃっていらした。サユ様を射止められたら好きにすれば良いと。それで馬車にお乗せしたのではありませんか」

「確かに言いました。しかし、もう期は過ぎたのです」


 なぜここで暴露? 姫様が王太子とグル? 王太子の馬車って乗っただけじゃないの? そーゆーことだった? え? もうなに? なにがなに? 誰かなんとかしろー!!


「姫、やはり図りましたね」


喉の奥から声を絞り出すとデイは私を横へと抱え直す。


姫様は、目を細めて、

「選ぶのはサユです。選ばれる自信が無いのですか? そんな方に遅れを取った王太子も良い面の皮ですね」


当たりです、姫。自信ないらしいです、この人。でも、弟の腰を掴んで言うセリフでもないです。そして後ろに付いてる許嫁殿はどうするんです? 


「サユ様、お初にお目にかかります」


王太子と同様の幼く丸い頬を火照らせて許嫁殿は進み出る。まるで私の心を読んだかのようなこの行動。怖い。この姿勢ではお辞儀を返すこともできない。


「サユ様には、年かさの妾妃として、後宮の雑事などしていただけたら幸いに存じます」


睨みつけられちゃったよ。お辞儀いらないね。うん。年かさに免じて、返事も勘弁してもらおう。友達は選べって竜樹兄ちゃんも言ってた。


「待て。私はサユ様を妾妃にとは望んでおらん」

王太子、焦ったように横から口を挟む。

「サユ様は七年前と変わらぬお姿とお聞きしました。長命種だとか。ならば、その長きに渡る生の一部だけで良いのです。私とともに歩いては頂けませんか? 私はまだ年若い。いつになっても構いません。十年後だろうが、二十年後だろうが、三十年後でさえも」


許嫁殿が息を呑んだ。私へ向けた棘を、王太子にはね返されるとは思ってもなかったんだろう。青くなってる。王太子も、三十年も後引かせてどうする。許嫁殿とはいっそ別れたいのか。私がダシか。わざとか。それとも許嫁殿に私を暗殺させたいのか。


そして被害者ぶってる私が、一番の加害者という落ち。ここで二人もお嬢さんを青くさせた。例え正しくたって、人を傷つけて正義を叫んじゃダメだと思う。だからこそ正義の味方はそっと去るものなんだね。もう帰ろう。私だけ帰るなら問題ない。ここに居る方が問題起こすよ。


とりあえず、デイにこそっと耳打ちしようと、背伸びした。忘れてた。高ヒールだった。カクっとよろけたところにデイの手が。


「なにしてるんだ、危ない」


横抱きにされた途端、ごぉん と地が響き、ぐんにゃり床が波打った。


 私のせいかと真剣に思った。ヒールで床を曲げたとか?


 体が面白いぐらいに浮き上る。違う、私のせいじゃないと、ここで思い直した。


 「じっとして」


デイは私の頭を胸に抱えて跪く。

ソヤンクワのおっさんが、デイに剣を投げ、揺れる床を蹴って、ホール出口へと向かう。行動素早い。おっさんのくせに。


 姫は? 王太子は? 


デンセンと、スナイフが同時に覆い被さってる。許嫁殿もその二人にちゃんと庇われてる。OK、いい仕事してる。


 直後、中庭に、見覚えのある腹が見えた。


「サン デンセン、王宮からの全人員避難誘導、ソヤンクワが退路を開いている、急げ」


 デイの命令。こんな時なのに、この声音が結構好きだなと思う。


頭の片隅でそんなことを思いながらも、諦観している。だって、間に合わないよ、そうでしょ? 全然間に合わない。なんであの竜の腹、赤いの? 姫様は何もしてないのに。どうして地竜が空から降ってくるの? 


 ぐらっと、ホールが揺れた。どこかでミシミシ軋む音がしている。


中庭のドラゴンが、ゆっくりと顔を上げる。赤い腹はぷくりと膨れている。エネルギーを溜めてきたんだな。王都では地脈に頼れないから。


 だから、ブラックにも頼れない。


「デイ、ごめん、眩しくなる」


姫抱っこのままで変身。まともに立てないから許して欲しい。


「天空の戦士 ナイトホワイト 華麗に参上!」


あんまり恥ずかしくない自分がかえって恥ずかしいという。慣れって恐ろしい。


体が浮く、光って、回って、はい、出来上がり。


「サユ、無理はするなっ」


床に転がる剣を拾い上げ、デイは叫ぶ。


無理はいつもしてないけど、いちおう、大人しく頷いておく。


さあ、どうする。どうやってこれを防ぐ? 人は後ろにたくさん居る。攻撃した途端に大暴発とかシャレにならない。ドラゴンの口を塞ぐ? いずれ大暴発しそう。…小石作戦再び、かな。腰にあるお飾りの剣を抜く。


ドラゴンの目の前を飛んで、反対側へ着地。


 やっぱり単純、ひっかかった。


引きつけるだけ引きつけないと、また向こうに気を取られる。


 ぱかあと、口が開く。ちょっと近かったか。すでに熱い。で、飛ぶ…


「サユ、おまえじゃっ、受けきれないっ」


受けるつもりなんかないと、デイを見た。滑る用な足の流れに目を奪われ、一瞬、動きを止めてしまった。足は数歩分しか進んでないように思う。なのに、デイはもうドラゴンの口に剣先刃を差し込んで、上向かせていた。


 花火のように真上に上がる火流撃。


デイも直接攻撃しない。考える事は同じだった。なんか嬉しい。このまま、追いつめる事無く、吐かせるだけ吐かせれば、腹に溜まった火流撃の元は減るだろう。そのうち燃料切れで終わり。そのうち…火事にもなりそうだ。それはやだ。


 「雹銛よ、貫け」


心で、できるだけでっかいヤツと思いながら。


雷鳴轟き、ドラゴンの尾と足を地面に縫い付けるように氷柱が突き刺さった。手をばたばたさせている。これで時間が稼げる。首も固定出来るといいんだけどな。暴発怖い。


 デイが、跳び、またもや火流撃の向きを変えた。


「サユ、ぼーっとするなら退け、危ない」


失礼だな。むかつく。のほほんとか、ぼーっとか。


ホールはどうなった? 王太子はまだ居るよ。姫様も? というか、みんな? 見てないで、早く逃げてよ。邪魔だよ。逃げられない? どうして? 天井見てる? ここ外だからわからない。外……ホールの屋根、ひしゃげてる。元は…回廊のとこ、出口のとこ、なんか乗ってる?


 乗ってるっ、潰してるっ。屋根ごと、下に落ちる。


「タツマキよ、走れ」


急速旋回飛びにて同時展開。真下に入る。そんな必要あるのかどうかわからない。けどいざとなったら直支え。ホワイトの浮力でなんとかなる…かも。


掌を上向け、全力。マントと羽飾りが下からの風に煽られて、はためく。


シャンデリアが割れた。これは私のせい。でも破片は落ちない。全部天井に張り付いた。その天井がもり下がって、ぴしっと亀裂が入った。


 力が、押し返されている。厳しい…


「今のうちにっ」


皆、彫像のように動かない。怖くて動けないのか? 


「この下から出てっ」


ホールの出口、出迎えと思しき騎士が現れた。ほっとしたのも束の間、招待客が出て行かない。こんな時、広いところから狭い通路へは行きたくないよね。


「中庭でもいい。デイが居るから大丈夫だからっ」


でも、出て行かない。火柱あげてるドラゴンの傍はいやだよね。


 なんて余裕があるとでも思ってんの?


「早くっ」


どっちも良くないなら、どっちでも同じじゃないかっ。早くどっちかにしろ。


「報告だっ」ソヤンクワのおっさんが戻って来た。崩れそうな廊下を走って。


こんな時に、こんなおっさんなのに、嬉しくなる。これが吊り橋効果か。どことなくかっこ良く見えるし。


「ドラゴンは二体。翼竜が投下した模様。飛影は逸失。王都に地小竜は確認されていない」つまり、とおっさんも剣を手に、「ここにいる二体だけだっ」


 だから、それが、一番の問題なんでしょーが!


「時間がない。北は、東と合同で王宮内全ての人間を外へ出せ。王都の民も、できるだけ王宮から離せ」


 デイが中庭から叫ぶ。


「おう、任せろ。こら、もたもたすんな。みな中庭へ出ろ。嬢ちゃんを潰す気か」


剣を振り回して追い払ってる。ちょっとやりすぎ。それなら私が吹っ飛ばした方がマシ。……違うかな。最近判断がつかないんだよね。どこまでが乱暴なのか。


 え?


熱い、熱気がこの天井から。


 上から火流撃? まだ、下に人が…


天井が、下がる。熱い。


 氷を撃ち込む? 

 麒麟の水流撃の方がいい? 

 飼い主でないと無理?


下がるっ。


 風力を上げ、私の浮力も合わせる。

 掌に氷玉、天井にギシと当てて。

 すごい水蒸気。


デイっ、だめ、もたない、私。


「サユっ、俺を飛ばせっ」


出来るわけない。こんな状態で、そんな繊細なこと。


「サユ、出来なきゃ、こっちへ来い。いいから、来いっ」


行けないよ、まだみんな下に居るよ。中庭のドラゴン……こっち向いてるっ、


「デイ、後ろーーっ」


気づいてくれた、よかった……安心してはいられないけど。


「タツキ様っ、呼べば良いとおっしゃったではありませんか、タツキ様っ、サユを助けてっ、お願いっ」


ごめん、姫様。それ私。この状態でチェンジは無理。


ああ。こんなに下がってる。だからって、逃げたりしないから。


「サユっ」

「デイ、来たらだめ。そっちを守ってっ」


私はここを退かない、絶対に。


一人で、わけわかんない世界に迷い込んで。


でも、一人じゃなかった、みんな優しかったんだよっ、だから逃げない。


「タツキ様、お願い…いつも、危ない時には、あなたが…」


また姫様を泣かせちゃったよ、いいの? 竜樹にーちゃん?


違うよ。私だよ。私が頑張ったんだよ。だから…だから、


「助けてよ。竜樹にーちゃん、助けてよ、瑞樹にーちゃん。ちょっとぐらい助けてくれたっていいじゃん。真樹ねーちゃんっ、無理だって来てくれたっていいじゃん。来いっ、ナイトブラック、ばかあっ」


涙が、零れる。


床が割れた。赤い溶岩がそれこそ涙みたいに流れ出ている……下から地竜?


笑っちゃう。終わりだ……。




 『大地の戦士 ナイトブラック ここに見参!』




竜樹にーちゃんの声だ。空耳かあ。私にもっとがんばれって?


「サユ」


うん、ありがと。励ましてくれるんだ。空耳でも嬉しいよ。


「サユ、上見ろ、上。とりあえず、風、止めろ。いくら兄ちゃんでもちょっと辛い」


「え?」


見上げたら、真っ暗だった。もう夜だっけ?


「アホ面晒すな。風を止めろ。盾が飛ぶ」


「ブラック? え?」


「それと、瑞樹を呼んでくれ。さっきは惜しかったと嘆いてたぞ」


「意味が……意味わかんないよっ、竜樹兄ちゃん?」


「おまえは、考えるべき時に考えないで、考えなくていい時に考えるよな。今は何も考えずに呼んでくれ。俺は、ここじゃ、そうもたない」


「瑞樹兄ちゃんを? どうやって?」


「なんでもいい、おまえの言葉で呼べばいい。だから、とにかく、風を止めろ。俺が盾を広げて天井を支えてる。見ろ」


「暗くて見えないよ」


「暗いんじゃない。これは大地の盾だ。わかった。もういい、サユ。俺の言葉を真似するんだ。何も考えるな」


「え? なに?」


「ナイトブルー、来い」


「ないとぶるーこい。で、いいの?」



  『蒼海の戦士 ナイトブルー 泡沫より登場!』



水が、床から吹き出した。凄い勢いだけど…蒼い影?


「待たせるなよ、兄貴。俺は短気なんだよ」


「文句はサユに言え」


瑞樹兄ちゃん? ナイトブルー? なんで?どうして?


ゴチっと頭にゲンコツが落ちた。


「サぁユぅ? 風止めろって言われただろ? 早く止めろよ」


「え、あ、ああ、ごめんごめん」


力が抜けた。ぺたんと座り込んでしまう。なに、この展開。


「わーっはは、ほんと、おまえ面白い。気づくだろ、フツー」


ばしんばしんと私の兜を叩く。


「瑞樹、それぐらいにしろ。俺はもたんと言っただろ」

「わりい。んじゃ、早速。サユ、見てろよ。俺的にはちょいキモイんだけど、兄貴が動けなくなると困るからな」


動けないと困るけど、なにをすると動けるの?


「瑞樹兄ちゃん、なにするつもり…」

「なにって、3人寄ればナントカって昔から言うだろ。合体に決まってる」


そう言って、ナイトブラックに背を向ける。


「瑞樹…」

「いや、さすがに、正面で抱き合うっての、俺、無理だから」

「抱き合う…」

「気分的に、だよ。んじゃ、兄貴、じっとしててくれ」


ブルーは後ろ向きにブラックにぶつかっていった。二人羽織?……入ったの? ブルーがブラックに入っちゃった? 


思い出せ、合体って? セリフって? ああ、全然思い出せない。なんだった? もう、これ、夢? ブラックの鎧、蒼い縁取りが出現してる。一回り大きくなってる。全体的にシャープになってる。 


「次はサユ」

「次って言われてもわかんないよ…」

「俺に抱きつけばいい」


 そうだ、少し思い出したけど。


「これって一度に三人じゃなかった?」

「頼むから、おまえは考えるな。話は後だ」

「……わかった。そんなふうに言わなくても」


 だから、考えない考えない。がばっと…


「兄上様っ、お待ちください。サユをどうするおつもりですかっ」


「煩いのが来た。サユ、早く」

「あ、うん」


「サユっ」


デイが手を伸ばした。


「すぐに戻すから心配しなくていい」


竜樹兄ちゃんは、私の腕をぐいっと片手で引いた。今更気づいたけど、さっきからずっと腕一本で盾(と天井)を支えてたんだ。すごいなあ、と思いながら、黒い胸へと吸い込まれた。


 鎧が白銀に変化した。白銀に蒼い縁取り。体もまた大きくなった。外の様子はわかる。中に入ってるというよりは、この体そのものが自分。でも、自分の意志では動かせない。これ、操縦権は竜樹兄ちゃんだけにあるらしい。


(俺たち、サユの中でこんなカンジだったんだぞ)


瑞樹兄ちゃんの声だけど、内側から聞こえるようだ。なんかヘン。


「瑞樹、話は後でまとめてだ」


(俺たちはヒマだからいいんじゃないの)


「急遽分離することもある。突然空中で放り出されたくなければ戦況を見てろ」


(わかった。俺、こーゆーの、あんまり詳しくなかったからさ。兄貴が詳しくて助かったよ)


「今から2匹連れて飛ぶからな」


(えー、二匹? 飛ぶの? どうやってやっつけるの?)

(サユは考えるなって)

(……はい)


「行くぞ」


盾を天井から外す。落ちて来たドラゴンの首を槍で串刺し。腹が赤かろうが大きかろうが関係なし。じたばた暴れるも関係なく、中庭まで引き摺り出す。


お客様団体は、ようやく中庭の半分ほどに固まって順に退場中。姫と王族の方は残ってるよ。一番先に避難しなきゃダメなんじゃないの? 責任取って? おかしくないか? そりゃ、デンセンも、東の面々も、北のソヤンクワおっさんも、居るけど。


巨大ブラックに駆け寄ろうとする姫様に、


「来るな」


と一言。声も反響して迫力UP。


姫様、さっきまでの威勢の良さが全くない。ただ心配。あなたが心配。そんな顔。


(竜樹兄ちゃん…もうちょっと優しく言えない?)

(なんだよ、兄貴、怒ってんの?)


「時間が無いだけだ」


言いつつ、中庭のドラゴンの首根っこを掴んで、引っ張る。ブラック、現在、このドラゴンの半分ほどの大きさ。それでも片手でドラゴンを引き倒した。私の氷杭もほとんど無意味。


(すごい)

(残り五分でやっつけなきゃいけないらしいから)

(このブラック、五分しかもたないの?)

(いや、そんなことないだろ。さっきまではブラックに時間制限がついてたけど、今はドラゴンについてる)

(え?)

(さっさとやっちまわないと、王都半分吹っ飛ぶんだ)


「飛ぶ」


背から翼が出た! 金属っぽい。これも凶器になりそう。


(ぎゃああ、速いーー)

(おまえもこのくらいじゃないの?)

(自分でやるのと、人にやられるのは全然違う。そうか、怖いんだ。ごめんよ、ソヤンクワのおっさん。でも、きっとまたやっちゃうけど)

(悪だな、おまえ)


「地上で攻撃すると被害甚大だから、高度を上げて放り投げて撃つ」


(おう、了解)

(そういわれても、見てるしかできないよ)

(破片とか下に落ちないか?)


「燃やし尽くす。爆音と光は漏れるだろうが」


遥か下に王都が見える。そこから外れるように、しばらく飛んだ。


「やる、ぞ」


(兄貴、いきなりだね。そういうとこ好きだよ)

(時限爆弾抱えてるんだよ。早いほうがいいよ。瑞樹兄ちゃん、怖さ知らないでしょ)

(知ってるよ。おまえと知識共有してたから)

(意味が……)


ブラックは、二匹のドラゴンをさらに高みへと投げ飛ばし、


「天上天下無双無念っ」


 槍が炎に包まれる。そして、ブラック猛進。一匹目は中庭のドラゴン、デイの牽制で火流撃が殆ど残ってなかったと思う。弾けて消滅。猛追した二匹目、天井のドラゴンは、爆裂し、視界を、真っ白に…… 


まずいんじゃない? 


そうでもないだろ 


破片が落ちたかもしれない 


誰の意識かよくわからなくなって……



「虹の守護神プリズム 現世招来!」


竜樹兄ちゃんの声と、


『 開 門 』


真樹姉ちゃんの声を聞いた。





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