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5.長男との初接触

 

 あれから間もなくして、王太子が結婚したとパレードの様子を見ていた鳥達から聞いた。それはそれは幸せそうな若く可愛らしい夫婦だったという。

 指輪を見て、少しほろ苦い気分になったような気がしたけども、それよりもアレンが幸せそうだったと聞いて安心した。彼ならば、本当に良き王、良き夫となるだろう。

 今はアレンの子供が、いつかこの泉を訪れる事を楽しみにしている。

 そんな楽しみができて間もなく、城からの使者が来た。

 私への挨拶に来る間もなく、王太子妃が懐妊してしまったので、挨拶は産後にして欲しいのだとか。

 別にそれはいいのだが、もうできたのか……、早いな……。相性が良かったのだろうか……、とアレンの仕事の速さに驚きつつも、子はかすがいと言うし、これでアレンと奥さんの絆が深まればいいと思う。


 そして時が流れ、ある日街の方が騒がしいな、と思っていたら、どうやらアレンの子供が産まれたらしいとまた鳥達から聞いた。万年温暖な気候のここには四季がなく、私自身も時間に関心が無いため、どれくらいの時間が過ぎたか分からなかったが、十ヶ月は経っていたようだ。


 なんにせよおめでたい。出産祝いを持って馳せ参じたいが、昔の女が祝いに行くというのは嫌味だろうか、と思いとどまった。

 まぁ、付き合っていた訳ではないから昔の女という訳ではないが、きっとアレンの中では私と過ごした日々はめくるめく美しい日々になっていて、純情な彼にとって私は昔の女のポジションと変わらない位置にいると思う。

 彼の子供には五歳になった時に必ず会える事だし、のんびり楽しみに待っておこう……と、思っていた矢先、また使者が来て王太子妃が懐妊したので挨拶はまたお待ち下さいと言われた。

 という出来事が、翌年も、その次の年も、またその次の年も……、と続いた。


 いや、子供が産まれるのはおめでたい事だとは思うけども、ちょっと作りすぎではないだろうか。奥さん、ずっと妊娠状態ではないか。

 仲がいいだけなのか……。それとも「たくさん子供を作る」という私との約束を守っているのだろうか……。それとも、アレンが絶倫なのか……。

 そんな想像をして、小さい頃の可愛らしいアレンを思い出すと、少しやるせない気分になった。


 そして、通算五人目の子供が産まれたと聞いた年の事、一番始めの子供が私の元へやって来た。


「始めまして。僕はセルジュと申します。よろしくお願いいたします」


『……よ、よろしく』


 アレンの時に比べてしっかりしている様子に感心してしまった。アレンのアホの子っぷりを思い出すと、本当に彼の子供だろうかと思うほどだ。

 赤みがかった金髪は母親譲りだろうか。顔つきも可愛らしい感じに柔らかい雰囲気だったアレンとは違い、子供にしてはスマートな輪郭と少し釣り上がった瞳にキツい印象を受ける。

 それでも、深い緑色の瞳は確かに彼と同じ色。それが彼の子供なのだと私は実感する。

 あの小さかったアレンが子供を……と、感慨深くなる私の気分はすっかりお婆ちゃんのものだ。


 お婆ちゃんの気分になって、甘いお菓子でもあげたいところだが、あいにくこんな森の中にはそんな人工物は無い。

 なので私は小さい甘い果実を、孫ににこにこと差し出した。ところが、孫は私をお婆ちゃんどころか、穢らわしいものを見るような感じで私を上から下へと舐めるように見るではないか。

 ……え? 私、何か変な事した?


「……父上の初恋の相手だと言うから、どんなものかと思っていれば、ただのバケモノじゃないか」


 ……バケモノ……。いや、確かに人間では無いけど……、バケモノ……。


「言葉ではあらわせない美しさだと父上は言っていたけど、母上の方がずっと綺麗だ」


 あ、なんだ。ただのマザコンか。それなら仕方ない。

 それよりもそんなふてぶてしい態度をとっているが、この子は分かっているのだろうか? 王族は私に会って認めて貰わないといけないという事に。そして、私が自分がいつか王になるかもしれない国を守ってくれている『泉の精』だという事を。


 別に私を敬えって思ってる訳では無いけれど、感謝の気持ちを知らない馬鹿のために動きたくも無い。

 私がここに来てから、変な小悪党……盗賊? っぽい人間を追い出すくらいしかしていないけれど、歴代の『泉の精』の記憶を覗いてみると、戦争時には他国の侵攻を『泉の精』の力によって許した事が無い。

 今のこの平和があるのは『泉の精』の力が大きい事を知り、そして今もまだ守られているのだという事を王族ならば理解しなければいけない。理解しない人間が王になるのであれば、私は役目を放棄する。


『帰りなさい。私は、あなたを認めません』


 認めない、という事は、この国を背負って立つ事を認めないという事。それは王族である事を認めないという事になり、下手をすれば国外に追放されるのだ。

 その言葉の重要性に気づいたセルジュは、今までの生意気な態度もどこへやら。顔を青ざめさせて小さく震えだした。


 ……うわぁ、そんな顔されたら私が凄く悪者みたいじゃない。ちょっと子供相手に厳しくやりすぎたかしら?

 いやいや、大人げなくちょっとイラっとした事は認めるけど、こういう子にはガツンと言ってやらないと、甘やかすとつけ上がるだけ! ……なはず。子育ての経験なんて無いから分からないけど。

 ほら、早く謝っちゃいなさい。そうしたら今度はちゃんと大人の余裕をもって優しく諭してあげるから。


 なんて思っていたのに、セルジュは俯いたまま私の方を見ずに、フラフラと去って行ってしまった。

 ……あらら。マザコンって打たれ弱いのかしら? どうしよう、このまま行かせてしまって良かったのかしら? まぁ、すぐに国外追放なんて事にはならないと思うし……、多分。しばらく様子見をしよう。


 そうしてセルジュとのファーストコンタクトは終了した。

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