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22.白銀の獣

 

 オレリアが結婚して数年が過ぎた。結婚相手は本当にオデットへの未練は無いのか不明だが、子供もでき幸せだとオレリアが言っていたので、問題は無いのだろう。

 アレンとアドリエンヌの他の子供達も殆ど結婚しており、その子供達ももうちらほらと私に挨拶に来るようになった。

 オデットはその後、結局好きな人もできず相変わらず“ヤリ逃げ”を繰り返し、一昨年めでたく父親が不明な子供を産んだ。

 予想されていた事だが、権力欲しさだとか、単純にオデットの事が好きだからとかで、父親は自分だと名乗りを上げる人間が続出したとか。それの対処法がまた呆れたものだった。


「子供の父親は、さる遠い国の王子。病気のせいで余命僅かだと診断され、治療法を探して隣国に訪れていた時に知り合った。結局、彼の方は隣国にて息を引き取ったので、私の妊娠は彼の方も知らないし、彼の方の国も知らないのでこのまま我が国の王太子として育てる」


 そんな事をいけしゃあしゃあとのたまったのだと言う。オデットの壮大な嘘を久しぶりに聞いた。勿論、あまり信じられはしなかったらしいが、女王の言う事は絶対!! ばりに理不尽に権力にモノを言わせて黙らせたらしい。反乱が起きないのが不思議だ。


 そしてオデットが子供を産んだのが去年の事。オデットに連れられて、満一歳になった王子様はもうここに頻繁に来ている。五歳になったら泉の精霊に会う~とかいう王家の決まりごとなんて、オデットにとってはあって無いようなものだ。

 このオデットの息子――コンラッドがまたとてもパワフルな子で、少し目を離すと泉に飛び込むわ、高速ハイハイで森の奥に消えるわ、泉に遊びに来た熊に戦いを挑もうとする(ように見えるくらい突っ込んで行く)わで、アレンの子供達とはまた違った意味で将来が不安な子だ。

 今日もまた、オデットが髪のお手入れをしている間にどこぞへと消えてしまっている。お腹に蔦を巻き付けて木に繋いでいたのだが、見事にもぬけの殻だ。それを見たオデットは「あ~、木に繋いだだけじゃダメなのね~」とひと事のようにのほほんとしている。この森では危険が少ないとはいえ、母親なら多少は心配しろと言いたい。

 そんなオデットに嫌味ったらしく、息なんて出ないからため息を吐くフリだけして、動物達にコンラッドを連れてくるようにとお願いした。すると、なんだか動物達の様子がおかしい事に気づいた。

 そわそわと落ち着かず、好奇心と恐れが入り交じる感じ。何か変なものが侵入して来たのだろうかと思うも、害意を感じるものの気配は森の中から感じないので放っておく事にした。


「きゃー!! きゃっきゃっ!!」


 わんぱく王子様のご機嫌な声が聞こえた。はいはい、動物達との触れ合いが楽しいんですねー。今日はどの子に連れて来て貰ったのかしら? 狼さんの背中に乗って? それとも熊さんに抱っこされて? それか狸さんにくわえられて引きずられて? ……って、えーーー!? それライオンさーーーん!?


「ちょ、ちょっと、精霊様……。小さいけど、あれ、ライオン……? いや、本で見たのとなんか違う気が……? この森にあんなのいたんだ……?」


『え……? いや、私も初めて見る子だけど……?』


 一見猫にも見えるライオンの子供のような動物が、コンラッドをくわえながらこちらへ近付いて来ていた。

 ライオンもどきがコンラッドを無造作に地面に置く。コンラッドがまた高速ハイハイでどこかに行こうとするのをオデットが未然に止め、ライオンもどきはというと、何故か私の膝の上に顔を乗せて寛いでいる。

 コンラッドがまだ暴れ足りなくて「だー!! だー!!」と不機嫌そうに叫んでいるのを横目に、私はとりあえずライオンもどきの喉をこちょこちょしてみた。ゴロゴロと喉を鳴らしている。可愛い。見た目は少し不思議な姿をしてはいるが、やはり猫科だろう。

 猫のような顔。耳は三角で頭の上にツンと立っている。そこだけ見れば大きい猫……ライオンの子供のようだけれど、違うのは身体。というより、毛の色と生え方だろうか。

 馬のたてがみのように長い毛が背中を一筋に通っており、そこから繋がる尻尾は猫のように細いものではなく、どちらかというと犬のようにふさふさしている。その全身を覆う毛の色は、まるで出会った頃のオデットのような薄灰色で……。

 ……。


「何してんの?」


『うん、汚れてるっぽいから、洗ってみようかな~って』


 ライオンもどきを泉で水洗いしてみる。水につけても嫌がるそぶりすら見せず、むしろ心地良さそうに私になすがままにされているライオンもどき。汚れは頑固だったようで、なかなか綺麗にならなかったが、思った通り少しずつ色が薄くなってきている。

 根気よく洗って、終わってみると……。


『見て、オデット。この子の毛の色』


「……見事な銀色ね」


 水分を吸い取り乾いた状態にしてあげると、その銀色は太陽の光を受けて、キラキラと煌めく美しいものになった。


『命名、オデット二号……ってどうかしら?』


「却下」


『じゃあ、オデット・改』


「とりあえず私から離れなさいよ」


 それは無理というものだ。薄灰色から銀色になるなんて、まんまオデットじゃないか。泉の中の意思をすくい上げる不思議な力も、もしかしたら持ってるかも? なんて、そんな偶然ある訳ないか……と思っていると、ライオンもどきが私を“呼んだ”。


「でぃー……な」


 人間の言葉で、ハッキリと。

 世界でたった一人しか知らない私の名を、呼んだ。

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