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【オデットの日記】

 

【エビュール暦三百八年 輝月の五十三日目】


 今日は最悪だった。

 木から落ちるわ、ウサギを追いかけてたら川に落ちるわ、変な生き物に呪いをかけられるわ……。

 ああ、明日から一週間あの変な生き物と一緒にいなきゃいけないなんて……憂鬱。



【エビュール暦三百八年 輝月の五十四日目】


 泉の精の歌っていた歌が、頭の中でずっと響いている。

 お尻を出した子いっとうしょう……なんの呪いだ。

 でも、その後の子守歌っぽいのは聞いていてとても気持ちよかった。

 おひるねの時にはまた歌ってもらおう。



【エビュール暦三百八年 輝月の五十五日目】


 信じられない。

 この国を守っているくせに、この国のことをなんにも知らないなんて。

 最近、まわりの国が騒々しいっていうのに、興味もなさそうに……なんて精霊だ。もっとしっかりしてほしい。



【エビュール暦三百八年 輝月の五十八日目】


 今日は、歴史を覆す事実が判明した。

 三百年ずっと同じだと思っていた泉の精が、もう二十代目くらいになっていたらしい。

 どういう仕組みで代替わりするのか聞いてみても、それも興味無さそうに知らないと言うだけ。こんなヤル気の無い精霊にこの国を任せていいのかと不安になった。



【エビュール暦三百八年 輝月の六十日目】


 腹立たしい。

 この一週間、あの精霊が私の髪で何をしているのかと思えば、綺麗にしようとしていたらしい。よけいなことを。

 こんな、白くて気味が悪い髪をどんなに綺麗にしようとしても、よけい不気味さが際立つだけじゃない。



【エビュール暦三百八年 水月の三日目】


 なんか……おかしい。

 みんなが私をやたらチラチラ見てくる……。

 なんというか……珍獣を捕獲しようとしているみたいな……いったいなんなの?



【エビュール暦三百八年 水月の五日目】


 お父様が半笑いで私の髪の毛を褒めてきた。気持ち悪かった。



【エビュール暦三百八年 水月の八日目】


 最近、やたらみんなが私の髪の毛を褒めてくる。半笑いで。なんなの? バカにしてるの?

 お母様以外の人間をめったに褒めないあのセルジュ兄様まで私を褒めてくる……。遠回しに嫌味を言われてるんだろうか?



【エビュール暦三百八年 水月の十三日目】


 最近、露骨すぎる。私を見るたびに「綺麗」という単語をまぜてくる。

 今日の晩ご飯の時なんか「オデットの美しさに乾杯」ってお父様……なんの嫌がらせ?



【エビュール暦三百八年 水月の二十五日目】


 もうたえられない。

 無視をすればするほど、みんなの言動が激しくなってくる……。

 そんなに私のこの髪が異質だって言いたいの? そんなの分かってるのよ。私が一番分かってるんだから。もう、ほうっておいてよ。



【エビュール暦三百八年 水月の二十六日目】


 ワケが分からない、あの精霊。

 『助けてあげる』なんて、優しく言ったかと思えばいきなり泉に投げるなんて。一瞬でも油断したのがくやしい。

 言ってることもなんのことだかサッパリだった。正直、子供に対する言動じゃないと思う。

 あげくの果てに、『ウジウジすんな!』なんて、さんざんグダグダと説教みたいなこと言っておいて、最後にそれは無いと思う。なんておとなげ無い精霊だと思った。

 そう思ったら、なんだかおかしくなってきて。必死に笑いをこらえてたのに、お父様のことを『絶倫』だとか。セルジュ兄様のことを『ハゲ』だとか。セルジュ兄様がハゲちゃったのを想像しちゃって、もう、おかしくてこらえきれなかった。


 なんだか、思いっきり泣いて、叫んで、笑って、ってしたらスッキリした。

 スッキリした後あの精霊が目の前に来た時。

 世界が変わった気がした。

 透明なあのからだの向こう側の世界が、キラキラしていて、とても綺麗な世界に見えた。


 ホントに変な精霊。

 無気力かと思えば変なところでヤル気になるし。子供にたいして、たしなめるとかそんなんじゃなくて本気で怒るし。

 『精霊』なんて、そんな高尚なものに思えない。どっちかっていうと……生臭い。そう、俗臭がぷんぷんする。

 あれはきっと、自分を一番に優先させる類のヤツだわ。

 でも、それがいっそ清々しく感じる。うわヅラだけの偽善的な人間よりもよっぽど安心する。


 そんな変な精霊を見ていたら、なんだか今まで悩んでたことがバカバカしくなった。むしろ、何に悩んでたかすら一瞬分からなくなった。


 これからも、ウジウジすることがあったら、あの精霊に会いに行こう。

 また泉に落とされるかもしれない。そうしたら私はまたあの精霊を殴ろう。きっと、あの人は私を受け入れてくれる。

 そしてまた、私を笑わせてくれるんだ。

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