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11.怒れる宝石

 

 オデット矯正計画に乗り出した私は、まず同士を募った。私にはオデットがここに来る事を待つしかないので、できる事が限られてくるからだ。

 なので次の日、オレリアが都合よく来た事に飛びついて、早速昨日の流れと、オデットの美的感覚を矯正しようという旨を話したところで、驚きの……というか、やはりというか、逆に可愛らしい気もするような、そんな感じのオデット事情を聞かされた。


「オデット姉さまは美的感覚がおかしいわけではないんです。ただ、すごく自分の髪の色が嫌いみたいで……。

 ほら、私たち兄弟ってみんなおそろいの髪の色をしているでしょう? 瞳の色も誰とも一緒ではないし……。だから、一人だけ違うのをすごく気にしていて……」


 つまりは、醜いアヒルの子の気分な訳だ。

 勝手に疎外感を感じて、それが曲がり曲がって『汚い』というおかしな方向に行ったと。そして、汚いと思っているその色を、さらに汚くして隠すようにもじゃもじゃにしていたと。思い込みって恐ろしい。

 でも、もじゃもじゃにするくらい、仲間ハズレが嫌だっていうのが、意外と寂しがりやなんだな、と感じて可愛らしいところもあるじゃないか思ってしまった。

 でも、だからと言って、許すはずがない。あの美を冒涜しているもじゃもじゃを完璧に厚生させる事が、今一番の私の使命なのだ。


『美的感覚がおかしいんじゃない事は分かったわ。でも、オレリアだって、オデットがもじゃもじゃのままでいいとは思わないでしょう?』


「もちろん! オデット姉さまの美しさを一番知ってるのは私だもの! 今まであのもじゃもじゃに隠されて私が一人占めしていた美しさをみんなに知られるのは嫌だけど、最近精霊さまのおかげでますます美しくなってきて、それはそれですごく嬉しいんだけど、やっぱり私だけのオデット姉さまでいてほしいんだけど、でもやっぱり……」


 どうやらオレリアはシスコンだったようだ。この後、オデットの自慢話を延々と聞かされてどうしようかと思った。


「……なわけで、何をしてオデット姉さまのもじゃもじゃが綺麗になったのかと、今城中はそのお話で持ちきりなんです」


 適当に聞き流していたら、どうやらシスコン話から美容方法の話に変わっていたようだ。


『数種類のハーブとハチミツとかを混ぜ合わせたものを塗ってみたんだけど、それよりもこの泉の水を使ったのが良かったみたい。お肌も綺麗になっていたでしょう?』


「たしかに……!! もともと真っ白だったのに、最近はもう光っているのかと思うくらいに白くて綺麗で、まるで絵本の中から出てきたような……」


 そしてまたオデット自慢の時間が始まった。

 オレリアはセルジュの次にまともな子だと思っていたのに、思わぬ落とし穴だ。天然じゃなかったら家族コンプレックスになる呪いにでもかけられているのだろうか。

 さすがに、自由にさせていたらこのまま日が暮れると思ったので、無理矢理話の方向性を変えて、落ち着いたところで本題に入る。


『オデットは一言で言うと、寂しいのよ。皆とは違うから、きっと仲間ハズレにされたみたいに感じるのね。だから、そういう風に感じなくさせればいいの』


「どうやってですか?」


『そうね……。疎外感を感じているのは……やっぱり『愛情』が足りないと感じているからだと思うの。

 だから、いかにオデットを愛しているのかを伝えるのよ。その上で、そのままでいいんだって事をとにかく訴えるの。髪色なんて関係なく、家族だって事を理解させるのよ。それにはオレリア一人だけではダメ。家族全員でオデットに訴えかけるのよ。オデットは綺麗だ、自慢の家族だ……って。

 ただ、気をつけないといけないのは、オデットはとても気難しい(偏屈)から、直接的に言ってはダメ。さりげなく、それとなく、遠回しに訴えるのよ』


「わかりました!」


 まかせてください! と姉のために鼻息荒く意気込むオレリアを見て、オデットの事が本当に好きなんだな、と圧倒されつつ、その気持ちにオデットが少しでも気づいてくれればいいと思った。

 他の家族達にも、美容強化期間一日目の反応を見る限り大切にされている事は一目瞭然だし、それをオデットがちゃんと理解できれば、私がこれ以上出しゃばる必要は無いだろう……

 ……と思っていたのは甘かった。


 いつものように、のんびりと動物達とお喋りしたり、ぼんやりと空を眺めていたある日の事だった。

 キラキラした何かがこちらに爆走して来ているのが視界に映る。


 ふわふわと揺れるたびに煌めく銀色の髪、の上にはスパンコールが付いた大きなリボン。

 白く発光しているかのような肌を包んでいるのは、ビラビラと大盛りのレースのドレス、にふんだんに散りばめられた小さな宝石。

 服だけでは飽き足らず、首や腕、耳にもジャラジャラとアクセサリーが成金なんて目じゃないほど付けられていた。

 まさに歩く宝石。いや、走る宝石がこちらに向かって来ているのだ。私は発する言葉も失って、ただソレを凝視してしまう。

 この清閑な森に不釣合なギラギラとしたソレは、呆気にとられている私の前に辿り着くと、憤りもあらわに荒々しく叫んだ。


「アンタでしょ!? アンタの差し金なんでしょ!?」


 怒れる宝石、もといオデットの叫びが森に響き、近くにいた鳥が驚いて羽ばたいていった。

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