誰かのために…
俺はそんなに出来た人間ではなかった
学校は中途半端 部活も中途半端 勉強も中途半端だった
そんな俺でも自分の死に様だけは決めておきたかった
それは…誰かのために死ぬこと
それが一番かっこいいと思っていた
それが男のロマンだと思っていた
それが中途半端な俺の最後の逃げ道だと思っていた
でも、そんな夢はある人に打ち砕かれた
自分の最初で最後の夢を
その日俺は体調が悪かった
元々目が悪い俺はいつも少し視界がぼやけていた
そしてその日はいつもより視界がぐらついていた
そんなとき
俺の目の前では一人の子供が歩道を飛び出し、蝶を追いかけていた
そして車道には1台のトラック
ここだ!と俺は思った
不謹慎な話だがこんなチャンスが来るとは思わなかった
迷わず飛び出した俺は子供を車道から歩道まで突き飛ばした
そして俺は最初で最後の走馬灯が脳裏に浮かぶ
学校ではそんなにいい思い出はなかったな 親友はつくらなかったし部活も中途半端だったから
あ、親父お袋に何も言ってねえや
親父、お袋、親不孝のバカ息子のことをゆるしてくれ
さぁ!トラックよ!そのスピードで俺を轢くがいい!
この俺の最初で最後の願いをかなえてくれ!
「そんな願いは受け入れられん」
天から声が聞こえた気がした
その瞬間俺はある一人の男に抱きつかれそのまま歩道まで転がっていった
無事だった
俺も、その男性も、あの少年も
全員無事だった
普通だったらこれで万々歳のはずだ
でも俺はそうは思えなかった
(なんでだよ…生きる意味もない俺を助けるなんて…どうしてだよ)
そんなことを思った
しかし、助けた男は俺を見るや否や
「大丈夫か?しっかし、アンタよくあそこに飛び込んだな~ハッハッハ」
「いやいや、アンタも俺を助けるために飛び込んだじゃねえか」
「そういやそうだったな。ハッハッハ」
ここでどうしようもない怒りが込み上げてきた
この何も知らないのに俺の横で笑う人間のことに対してどうしようもない怒りという名の感情だ
「アンタ…なんで俺を助けたんだ!!俺はあのまま死ぬつもりだったのに!」
「あ?アンタ死ぬつもりだったのか?」
「そうだよ!俺は死にたかったんだ!何もかも中途半端だから…いっそ誰かを助けて死のうと思ってたんだ!!」
「ざけんな…」
「え?」
「ふざけんなって言ってんだよ!!死にたかっただあ!?何寝ぼけたこといってんだ!!いいか!?この世にはな、死にたくなくても死ぬっていう奴らがごまんといんだよ!それをアンタはなんだ!?「中途半端に生きてきたから誰かを助けて死にたい」?なんだよそれ?アンタにだって大切な人間の一人や二人いるだろうが!?いなくてもいい。だったらアンタは大切な人を見つけて守るためにちゃんと生きろよ!人間だれでも人生に絶望することだってある!でもな…それを乗り越えてこそ「人間」になれるんだろうが!アンタは最後の最後まで中途半端な「人間」のまま死ぬって言うのかよ!!?アンタも男だろうが!だったら誰かを守って守って守り抜いてから死ねよ!それをこんなとこで命を粗末に扱うんじゃねえよ!!」
「るせえ…」
「あ?」
「るせえって言ってんだよ!なんだよてめえ!何も知らねえくせに勝手に謳ってんじゃねえぞ!!」
「アンタは最上級の馬鹿だな。確かにそうさ。俺は何もしらねえ。でもよ…それ以上にアンタは自分のこと知らねえんじゃねえのか?」
「あ?」
「アンタだって夢の一つや二つあったろ?好きな人の一人や二人いたろ?世界中は広いんだよ。あんたの知らねえ世界がいっぱいある」
「そんなの俺にはしったこっちゃねえよ。世界中何て知らねえバカだよ」
だったらよ
これからたくさん確かめてみろよ
これが彼の最後の言葉だった。俺を助けてくれた恩人、そしてを俺に前を向かせてくれた恩人の。
それから恩人の行方はわからない。名前も聞いてなかったからだ。でも…
あの時助けてくれたことだけは一生忘れないと、誓ったのだ