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皇太子殿下に捨てられた私が、仮面の愛で世界を動かすまで

作者: 結城斎太郎
掲載日:2026/05/10

王都の冬は、いつも鋭く冷たい風を運ぶ。

私、リリィ・アルヴァートは、皇太子セリオン・ヴェルクスに婚約を破棄されたその日、静かに涙を飲み込んでいた。

理由は――「不倫」。私が彼に手を伸ばすと、冷ややかな眼差しの先に、別の女性の影があった。――イルザ・ヴァンデンベルグ。

華やかに微笑むその女は、まるで王都の氷を溶かす炎のように、皇太子の心を奪っていた。


「リリィ、君とはもう、話す必要はない」

セリオンの言葉は短く、無慈悲だった。その瞳には後悔も愛も、微塵も見えない。


私は、密かに決意する。

――嘘と偽りで、世界を揺るがすくらいの復讐を。


まずは、宮廷の人々を観察する。侍女や廷臣、さらには皇太子の信頼する側近にまで目を光らせる。誰が味方で、誰が裏切り者か。情報は武器。感情は道具。すべて計算に組み込む。


一週間後、私は仮面舞踏会に招かれた。イルザももちろんいる。彼女は皇太子の腕に華やかに抱かれ、笑い声を王宮中に響かせていた。

しかし、私は知っていた。彼女の笑顔の裏にある、薄い恐怖と不安。人は完璧な仮面の下で、必ず隙を見せる。


「こんばんは、イルザ」

微かに声をかけると、彼女は振り向き、私を一瞥して鼻で笑った。

「リリィ…まさか来るとは思わなかったわ」

その瞬間、心の奥で、私の策略の歯車が音を立てて回り始めた。


翌日、私は宮廷図書館で彼女の秘密を探った。

イルザは、皇太子の愛を独占するために、廷臣に賄賂を渡し、情報を操作していた。彼女の不正を知れば、皇太子の信用は揺らぐ。

私は文書を盗み出し、静かに微笑む。復讐の第一歩。


数日後、宴の場で私は巧みにイルザの計略を暴露する。

「皇太子殿下、イルザ様は王国の資金を不正に操作しておりました」

その瞬間、イルザの笑顔は氷のように凍りつき、セリオンの目に初めて疑念が生まれる。

「…本当か?」

皇太子は私を見つめる。私は冷静に頷く。


しかし、心のどこかで私は彼にまだ愛されたいと思っている自分を感じる。

復讐を選びながら、彼の視線に胸を乱される矛盾。

――愛と復讐は、同じ刃の両面のようだ。


事件が明るみに出ると、イルザは宮廷から追放される。

皇太子は私に静かに近づき、低い声で言った。

「リリィ…なぜ助けた?」

私は答える。

「助けたのではありません。世界の均衡を取り戻しただけ」

その瞳には、冷たくも鋭い決意が宿る。


冬が過ぎ、春の陽光が王都を包む頃、皇太子は再び私に向き合う。

「リリィ、君と向き合いたい。以前のように、ではなく、互いに理解してから」

私は静かに笑った。

「それは…溺愛か、復讐か。どちらかは、まだ分かりません」

互いの距離が、少しずつ縮まるのを感じる。

心の奥底で、私の策略はまだ続いている――しかし、愛の形もまた、少しずつ育ち始めていた。


王都の空は青く澄み、私は確信する。

――この世界で、私の復讐も、愛も、両方手に入れてみせる。


そして、仮面の舞踏会の夜、私は微笑む。

世界は変わった。しかし、私の計画は、まだ終わっていないのだから。


◇◇◇◇


春の陽光は王都を柔らかく照らしていた。

しかし、宮廷の空気は以前よりも重く、微妙な緊張を帯びている。私、リリィ・アルヴァートは、その空気の端をすくい取り、心の奥で冷たい微笑を浮かべていた。

皇太子セリオン・ヴェルクスとの距離は、確かに縮まった。だが、私の心の中にはまだ、復讐の余韻がくすぶっている。愛と復讐の境界線は、容易に消えるものではなかった。


ある日、宮廷の庭でセリオンと遭遇する。

「リリィ、少し話がある」

彼の声は穏やかだが、瞳の奥に何かを隠している。

「何でしょう?」

私は無表情を装う。しかし、胸の奥の微細な鼓動を感じる。

「君に協力してほしいことがある。イルザの件以来、王国内部に微妙な不満が広がっている」

彼は静かに言葉を選びながら、私の手を取りそうな距離で視線を合わせる。


私はすぐに理解した。

――これは、単なる宮廷改革ではない。私を、計略の片輪として利用しようとしているのだ。


「つまり、私を情報戦の駒に?」

冷たく尋ねると、セリオンは微笑を浮かべる。

「君はもう駒ではない。対等な相手だ」


対等…。その言葉に微かな温もりを感じつつも、私は警戒を緩めない。

「対等と言いながら、また利用するつもりですね」

「いや…利用というより、共闘だ。王国のために、君の力を貸してほしい」


私は一度深呼吸をし、答えた。

「分かりました。ただし、条件があります」

条件とは、私自身の策略を維持しつつ、皇太子に完全に依存されないこと。復讐も愛も、自分の手で握る。それが私の誇りだ。


翌日、王都の秘密会議に参加することとなった。内部の貴族たちは、私がイルザ事件で得た情報力を評価している。

「リリィ様、やはり今回の件ではあなたの手腕に助けられました」

廷臣の一人が言う。私は微笑みながら、静かに頭を下げる。


しかし、その背後で新たな陰謀が動いているのを、私は見逃さなかった。

――誰かが、再び皇太子と私を引き離そうとしている。

その影は、意外な場所から現れた。新任の女官、セレナ・ヴァルディス。彼女は皇太子に近づく一方で、私に媚びを売るような振る舞いを見せる。

「リリィ様、私もお力になれれば…」

その笑顔の裏に潜むものは、計算された嫉妬と野心。私の勘は正しかった。


ある夜、宮廷の書庫で偶然、彼女の手紙を見つける。

内容は…皇太子を孤立させ、私を排除する計画。

私は静かに封を閉じ、微笑む。復讐の火は再び灯った。


その翌日、セリオンに手紙の存在を告げる。

「皇太子殿下、セレナ女官が策略を巡らせています」

彼は一瞬驚いた表情を見せた後、真剣に頷く。

「君がいてくれてよかった…」

その言葉に、胸がわずかに熱くなる。私は冷静を装うが、内心では彼の心が揺れているのを感じ取る。


会議の場で、私は巧妙に女官の策略を暴く。

「王国の未来を脅かす者がここにいます」

彼女の計略は瞬く間に露見し、セリオンは私を信頼の眼差しで見つめる。

その視線に、一瞬心が揺れる。しかし、私は知っている。愛だけでは世界は変わらない。策略と愛を、同時に操る力こそが、私の武器なのだ。


夜、宮殿のバルコニーで二人きりになる。

「リリィ…君は本当に、俺の側にいるのか?」

セリオンの手が、私の肩に触れる。

私は視線を逸らさず、微笑む。

「側にいます。ただし、私の条件を忘れないで」


二人の間に、静かな緊張と互いの信頼が同時に流れる。

復讐と愛、策略と心情が絡み合い、まるで鋭利な剣の刃のように私たちを試す。

私は確信する――この関係は、容易に終わるものではない。むしろ、互いに磨き合う刃となるのだと。


王都の夜空に星が瞬く。

私は息を整え、冷たく微笑む。

――復讐はまだ終わらない。

しかし、溺愛もまた、確かに芽吹き始めている。


王国の未来も、私たちの関係も、まだ白紙だ。

すべては、私の手のひらの上で動く。


そして、静かな誓いを胸にする。

――この王都で、愛も復讐も、両方手に入れる。



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