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姉ちゃんは嬉しい!


 ガチャッバタン

 カチッ



 玄関から扉が開く音と、鍵を閉める音が聞こえた。おそらく姉が帰ってきたのだろう。時計を見ると9時を過ぎていた。


「ただいまー」

「お帰り」

「お邪魔してます」

「おろ?お友達?」


 望をみて姉は一瞬目を見開いたが、すぐにいつも通りの口調で尋ねる。

 

「はい、昨日隣に引っ越してきました黒鳥望と申します」

「ご丁寧にどうも。うちはこいつの姉の弓彌って言うんだ。よろしくね、望ちゃん!」

「よろしくお願いします」

「こいつって言うな」

「にしても、珍しいね~」


 あたしの発言は無視かい。

 姉はさっきまで望に優しい笑顔を向けていたけど、そのままの顔で此方に話しかけてきた。


「……何が?」

「ん?あんたが結桜以外の人を家に連れてくるの」

「ああ……」


 今まで結桜以外友達と言える人がいなかったし、作る気もなかったから。


「そうなんですか?」

「そうだよ~。昔から人付き合いが苦手でね~。その癖、困ってる人の手伝いをよくしてるもんだから人気はあったよ?」

「へ~」


 人付き合いが苦手なのは否定しない。

 それに誰彼構わず困ってる人の手伝いをしていたわけではない。あたしができるからしただけ、そうやってちょっと優位に立とうとする。ほら、嫌な奴だ。


「やっぱり、さくちゃんは優しいね」

「そんなんじゃないし。あたしの方ができるからやっただけ」


 本当に、あたしは善人なんかじゃない。自分がそうしたいからやっているだけ。


「そういう所が優しいんだよ」

「そうそう」

「………優しいっていうのは、あたしよりのぞみや姉ちゃんのことを言うんだよ」


 そういう小声で言うと、二人は同時に固まってしまった。 

 あたしなんかのことを優しいといってくれる二人のほうが優しいと思う。


「うへへ~。そっか~そう思っててくれたんだ~」

「もう、そういうとこだよ?さくちゃん」

「え、姉ちゃんキモい。のぞみも何で頭撫ででくんの?」

「キモいはヒドイ!」


 いや、急にだらしない顔になったと思ったらくねくねし出すんだもん。キモいって思うじゃん。

 望も望でほわ~っとした顔で頭を撫でてくる。何なんだホント。てか望、いつまで撫でてるんだろ。


「もういいから!姉ちゃん、ご飯食べる?」

「おー、食べる食べる!もうお腹がペコちゃんだよー」


 恥ずかしくなってきたので、望の手を軽く押しのけると少し残念そうに手をひっこめた。

 姉ちゃんのためにとりわけおいたおかずをレンジで温めて、みそ汁の鍋に火をつけ温める。

 

「おお!今日はハンバーグ?」

「うん、豆腐だけど」

「すっごいおいしかったです!」

「あっはっはっ!そりゃ楽しみだ!」


 望、そんなに褒めないで、恥ずいから!姉ちゃんはニヤニヤすんな! 


「あ、もうこんな時間。私そろそろ帰ります」

「お、じゃあね。お隣さんだけど、遅いから送ってってやんな?」

「言われなくてもそのつもり」


 姉ちゃんがご飯を食べながら返事をする。せめて食う手を止めてからしゃべれ、行儀が悪い。

 すぐ隣だからと言っても、油断は禁物。それに、こんな時間まで引き留めたのはあたしだし。


「さくちゃん、私は大丈夫だよ?」

「あたしがしたいだけだから。のぞみのとこの玄関まで」

「……うん!」


 何がそんなに嬉しいのか分からないけど、それを聞くのは野暮だろう。


「じゃあ、また明日」

「さくちゃん、またね!」


 結桜とも毎日交わしている言葉なのに、望に言われるとなんでこんなに嬉しく感じるんだろう。





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