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屋上の七不思議


 ガチャッ


 屋上の扉を開ける。そういえば、この三人で来るのは初めてだ。

 夜の屋上は昼間より空気が澄んでいて、さっきまでの纏わりつくような嫌な感じが吹き飛んでいく。深呼吸するとやっと落ち着いた気がする。


「顔色、少しよくなったね」

「ごめん、心配かけた」

「気が付かなくてごめん。次からちょっとでも具合悪かったら、すぐ言ってほしいんよ?」

「うん。ありがとう」

「約束なんよ」

「わかったって」


 結桜がしおらしい。誘った手前バツが悪いのだろう。行くと決めたのはあたしなので、そんな気に病む必要ないのに。


「そういえば、屋上に七番目の怪異があるって言ってたけど」

「あれ、十六夜先輩と小餅先輩?」

「んー?ホントだ!おーい、いよっちせんぱーい、もっちーせんぱーい!」


 貯水塔の下に十六夜先輩と小餅先輩が並んで座っていた。知り合いだったのか、結桜が二人を見つけると駆け足でよっていった。


「やあ」

「こんばんは、居待さん。梧桐さんがいるのは意外ですね」

「こんばんはなんよ!」

「こんばんは。結桜に誘われたんです」

「お疲れ様です。それと、隣の方は?」

「初めまして、最近転校してきた黒鳥望といいます」

「のぞだね。ぼくは十六夜彩夜璃だよ~」

「黒鳥さんですね。私は3年の小餅彩夜香と申します。よろしくお願いします」


 


「何で二人はここにおるんよ?」

「それはね」


 ヴーヴーヴー


 十六夜先輩の言葉を遮るように、3人のスマホのバイブがなる。3人同時着信、本来ならあり得ないタイミングだ。ああ、じゃあ七不思議の七番目は。


「スマホ、確認して。挨拶されたよ」

「え?わかりました」


 結桜は半信半疑、望は分かっていたのかあたしと同じように普段通りメッセージを確認する。


<やあ ぼく こっくりさん>


「こ、こここれは何なんよ!?」

「こっくりさんだよ」

「だな」

「何で二人はそんな冷静なん!?」


 いや、あたしはすでに友達だし、望に至っては怪異側だし。十六夜先輩の頭より少し上を見ると、いつものように黒い大きな手が浮かんでいた。


「こんばんは、こっくりさん」


 コンッといつもの狐の通知音が鳴ったので、すぐメッセージを開く。


<こんばんは>


 いつものこっくりさんからの出鱈目な名前からメッセージが届いていた。


「今日は人が多いから読み上げにしよう」


 十六夜先輩がiPadを操作して、テキスト読み上げの設定をしてからiPadを床に置く。十六夜先輩が持っているキーボードがひとりでにカタカタと軽快にタッチされていく。最後にターンとエンターの音が響く。


<はじめまして ぼく こっくりさん>


<いまは いよに ついてる>


<よろしくね>


 無機質な合成音声がテキストを読み上げる。文章的には普通なはずなのに、どこか不思議な感じ。

 結桜は暫く無言だったが、顔をバッと上げて大声で自己紹介をし始める。


「初めまして!うちは結桜っていうんよ!どこにいるかわかんないけど、いよっち先輩の傍にいるんよね?」


<そうだよ よろしくね ゆら>


「此方こそよろしくなんよ!」


 結桜はまたキラキラとした目で十六夜先輩の後ろを見ていたが、残念ながら今はそこにはいない。今こっくりさんは十六夜先輩と小餅先輩の間にいる。


<のぞも よろしく> 


「此方こそよろしくお願いしますね、こっくりさん」


 望の目線は十六夜先輩と小餅先輩のちょうど間、こっくりさんの手が視えている辺りを見ていた。その視線を受けてなのか、小餅先輩が少し驚いていた。


「黒鳥さんはこっくりさんが視えているんですか?」

「ええ、まあなんとなく?」

「すごい」

「それよりさ、七不思議の最後ってもしかしてこっくりさん?」


 結桜に深く追及される前に話題を変える。これ以上聞かれると望のボロが出そうだ。

 この話題転換に結桜はまんまと乗ってくれた。


「それなんよ!それで、真相は?」

「んー、多分?」


<あってるよ>


「そうなんですか!?いつの間に!?」


<はなこさんから ここに いるなら なってって たのまれた>


「初耳」


<はじめて いった いよと さやが いるあいだだけ ななふしぎ>


「そっか。じゃあ、ぼくたちが期間限定の七番目、よろしく」

「軽いですね」

「風が吹いたらとんでくよ」

「物理的にじゃないです」

「そか」


 そんな緩い会話をこっくりさんを交えながら続けていく。こっくりさんも大勢と話せるのが嬉しいのか、いつもより饒舌だった。


「こっくりさんは何でいよっち先輩に憑いてるんよ?」

「それは……」


 十六夜先輩が口を開こうとした所で、こっくりさんが手でそれを制す。口を噤んだことを確認してから、またカタカタとキーボードを叩く音が響く。


<いよが ぼくを よびだして くれたから> 


「それだけなん?」


<うん>


「いよっち先輩も?」

「うん」

「ふーん」


 結桜は納得いかないような反応だったが、それ以上は何も聞こうとしなかった。

 こっくりさんが手で制したとこからも、言いたくない理由があるのだろう。無理に聞こうとするのは野暮というものだ。


「ここのこっくりさんの噂ってどんなことなの?」

「ない」

「え?」

「私たちも今初めて聞いたもので、どんな噂になっているか知らないんですよ」

「んー先輩方、実は無い訳ではないんすよ。いよっち先輩は大概屋上にいますよね?それでよくもっちー先輩も一緒に目撃されてて、それが噂になってるんすよ」

「え゛っ」


 急に小餅先輩の顔が引きつる。あたしも少しだけ、廊下ですれ違った人たちが話していたのを聞いたことがある。詳細は分からないが、確かに二人の名前が出てきていたのは覚えている。


「ど、どんな噂何ですか?」

「んー、二人しかいないはずなのに三人分の声が聞こえるとか、屋上は施錠されていないはすなのにいよっち先輩達がいるときは何故か扉が開かないとか、たまに狐の影が見えるとか様々っすね」

「あれ、あたし十六夜先輩がいるときで入れなかったことないぞ?」


<さくは いよの ともだちだから とおせんぼしない>


「あー」

「こっくりさん?」


<だって しらないひとに じゃま されたくない>


<かげのことは ごめん ひなぼっこ したときかも きをつける>


「先輩方、こっくりさん!七不思議の噂になるなら、今のままでいいんすよ!こっくりさんもそのままでいいんよ!」


 結桜が熱くそう言うと、二人ともキョトンとしていた。こっくりさんも顔は視えないが、きっと二人と同じような顔をしているだろう。




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