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視えたのは写しか


「そろそろ次行かない?」

「えー!もうちょっと花子さんと話したい!何なら夜通し!」


 それはさすがにやめてほしい。花子さんに助けを求めるような視線を向けると、こちらを察してくれたのか苦笑しつつ結桜に答えた。


「あーし的には嬉しいけどー、怒られる人がいるからまた今度ね。あーしは逢魔が時から丑の刻が終わるまでに呼んでくれれば、また会えるから」

「分かった!絶対呼ぶから!まだまだ話したりないんよ!」

「覚えとく」

「待ってるかんね!」


 結桜はまだまだここにいたそうだったけど、まだ屋上に行かなくてはいけないのでこれ以上ここで時間を使う訳にはいかない。皆でトイレから出ようとそちらに向かう。前では花子さんと結桜が次の予定を取り付けていて、その後ろを望、最後尾をわたしで連なって歩く。

 帰り際、何気なく手洗い場の鏡を見てしまった。

 昼間と同じはずの鏡には、胸から血を流して生気のないわたしが映っていた。


「—————ッ!!」


 ヒュッと息が詰まり、鏡から咄嗟に目を逸らす。心臓が早鐘を打つ。

 見間違いだと言い聞かせもう一度鏡を見ると、目を見開き胸を抑える今のわたしが映っていた。


「さくちゃん?」

「どうかしたんよ?」

「………大丈夫」


 大丈夫、暗いところで鏡なんて見たから変なものが視えただけ。ただの自分の勘違いだ。


「顔色よくないよ。少し休む?」

「ちょっと、つかれただけ」

「休むなら屋上にしたら?少し外の空気に触れたほうがいいっしょ」


 花子さんが少し硬い声で答える。暗にここには長居するなと、言っているような気がした。


「そうする。ありがとう」

「お大事に。まったねー!」

「またね」

「また来るんよ~」


 花子さんは笑顔で手を振って見送ってくれた。

 とりあえず屋上に行こう。十六夜先輩がいないかな~とか、取り留めのない事を考えながら屋上へ続く階段を上っていった。 







「ねえ、あたしの学校テリトリーで何してんの?」


 何も映っていない鏡を睨みつける。

 その顔には嫌悪と苛立ちがありありと現れていた。


「どっから来たかわかんないけど、あの子達の平穏を壊すなら容赦しないから」


 言い終わると、不意に鏡が光を反射した。後ろを振り返ると、ダルそうに白衣を着た中性的な大人が懐中電灯を持って立っていた。


「あっ、いづちゃんぢゃん!何々、あーしに会いに来たの?」

「ちげーよ。アイツら行ったか?」

「のっち達?さっき屋上に行ったよ」

「そうか」


 いづちゃんは短く返答した後、徐に携帯シーシャを取り出して吸い始めた。吐き出した煙はマスカットの匂いがした。


「タバコ、やめたんじゃないの?」

「止めた」

「じゃあ今吸ってるのは?」

「蒸気。ニコチンは入ってねーよ」


 いづちゃんはため息と一緒にまた煙を吐き出す。確かにタバコではないけど、あーしからしたら煙が出ているから同じようなものだ。


「学内禁煙だよ」

「硬い事言うなよ。今俺とお前しかいねぇし」

「そうだけどさぁ」


 今度はあーしがため息をつく番だ。火は使ってないから火事にはならないし、見ているのもあーししかいないのは事実だけど釈然としない。

 あーしがムッとした顔のままでいると、いづちゃんがあーしの顔を覗き込んできた。 

 

「何かあったか?」

「別に。約束したのに、タバコやめてくんないんだなーって思って」

「タバコじゃねぇ、ただの甘い蒸気だっつってんだろ。つーかそっちじゃねぇよ」

「じゃあ何?」

「アイツらに何かあったか?」


 どうしてこの人には分かってしまうんだろうか。いっつもそうだ。あーしがつまんなそうにしてたら変な話してくるし、落ち込んでたらずっと隣にいてくれるし、あの子のことだって…………。

 黒い霧に飲まれる前に頭を切り替える。


「さっきまで私怨の塊がいた」

「たまにいるじゃねぇか」

「いるけど、あれは人間からのものじゃなかった」


 人は誰しも大なり小なりの恨みつらみを持っている。たまにそれが集まって形になることがあるけど、大概そこまでの力はない。せいぜい人をこけさせてたり、暗がりから見ているだけ。そしてすぐに消える。今回のはそうじゃない。


「怪異からの私怨、それもかなり強い」

「………標的は?」

「多分、さっちー。あ、梧桐朔ね」

「梧桐か……。黒鳥は気づいていたか?」

「多分気づいてないと思う」


 のっちはさっちーの異変には気付いてたけど、何でかは分かってない感じだった。だからこそ助言をした。全く、鴉天狗の大事な人に喧嘩売ろうとするとかどんな馬鹿野郎よ。


「一応俺の方でも気にかけておく」

「お願いね」

「おう」


 いづちゃんは壁に寄り掛かって、また携帯シーシャを吸い始めた。


「戻らないの?」

「アイツらが帰ってくるまでいる」

「まだあーしと一緒にいたいって言えばいいのに~」

「うっせぇ」

「……………ありがと」

「おう」


 二人の間には、ほのかに甘い煙が漂っていた。

 




 ノンニコチンのシーシャとかでも喫煙者になるのか、密かに疑問に思ってます。


田中(たなか) 生弦(いづる):伏守高校化学教師。俺、お前、アンタ。かなり男っぽい口調、年齢不詳性別不明。口調と態度で気だるげ俺様と思われるが、相談されると真摯になって答えてくれるし、仕事はきっちりこなしているので生徒から信頼は高い。意外とオカルト好きでオカ研の顧問をしている。


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