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エリーゼのために

 何回もリピートしながら書いてました。3分程度の曲なので皆様もぜひ聞きながらお読みください。



「次は音楽室なんよ」


 3階に着いた結桜は小声で、七不思議のタイトルコールをする。音楽室のエリーゼは演奏を中断されることを嫌がるため、ここからは騒がないようにという配慮だ。

 音楽室への廊下を歩いていると徐々にピアノの音が聞こえる。


「ピアノの音なんよッ」

「走らなくても怪異は逃げないだろ」


 結桜が興奮気味に走っていこうとしたので、裾を引っ張って止めた。ムッとした表情をされたがシーッというジェスチャーをすると、分かってくれたようで目の前で手を合わせてごめんのポーズをした。それからは速足で音楽室に向かった。

 音楽室に近づくにつれて、ピアノの旋律がよく聞こえるようになる。激しく、早く、何度も鍵盤を叩くようなメロディーが聞こえる。これ、エリーゼのためにじゃない。


「ラ・カンパネラ……?」

「さくちゃんよく知ってるね~」

「いや、たまに集中したいとき聞いたりしてたから。有名な曲しか知らないし」

「エリーゼのためにじゃないんよ?」

「ううん、多分…………」


 音楽室の扉の前まで来るとちょうど先ほどの曲が終わったようで、短い沈黙の後違う曲の演奏が始まった。テレテレテレテレテンと、流れるような静かなピアノの音が聞こえる。


「エリーゼのために、だな」

「うん」

「じゃあ、開けるんよ」


 結桜が静かに音楽室の扉を開けると、教卓横のグランドピアノの屋根蓋が全開で誰かがピアノを弾いている。うちの学校は音楽の授業中でも前屋根だけ開けて、つっかえ棒で小さく上げることもしていない。ましてや全開の時など見たことがなかった。

 結桜は目を輝かせながら、音を立てないようにピアノの方に近寄っていく。あたしたちもその後ろからそろりそろりと近づく。すると、ピアノがそれに合わせたかのように不穏な曲調になる。思わず足を止める。また元の静かな旋律に戻り、ゆっくりと最後の一音が消えるまでその場から動けなかった。


 パチパチパチ


「ありがとう」


 自然と拍手をしてしまった。その音に立ち上がった西洋風の顔立ちの女性は、ふっと微笑みお礼を言った。

 彼女の顔や肌の色は青白いを通り越して、もはや白、血が通っている色をしていなかった。衣服も透けるような白いワンピース、足は実際に透けていた。


「エリーゼさん、今日も素敵な演奏でした」

「あら、ありがとう小さなレディ」

「大きくなりました~」

「ふふっ、ごめんなさいねMädchen(メイデヒェン)

「むー」


 エリーゼさん、望を揶揄ってる?てか、こんな堂々と話してもいいものなんだろうか。あたし以外に結桜もいるし、望が怪異と知り合いってことがバレてしまうんじゃないか?いや、他の目撃者も普通に話して終わったって人もいるしセーフか?


「そちらのお嬢さん方、お名前は?」

「あ、朔です」

「結桜です!お姉さん、写真撮ってもいいですか!?」

「いいわよ。でも写るかしら?」


 結桜とエリーゼさんで2ショット、ピアノを添えて。エリーゼさんは写るかどうか心配していたが、幽霊という自覚があるのだろうか。それとも怪異だから?

 そんなことを考えながら、ふと望を見ると目が合った。電気をつけていない教室は、普段より暗いが月明りのおかげで相手の顔を判別できるくらいには明るかった。望は窓際でエリーゼさんの横に立っていたので、ちょうど望が月をバックにしている感じだ。


「どうしたの?」

「な、なんでもない」


 顔を思いっきり逸らす。

 綺麗だなって、改めて思ってしまった。顔、赤くなってないといいな。









 さくちゃんと目が合ったので声をかけると、何故か顔を背けられてしまった。

 その様子を見ていたエリーゼさんから手招きされたので近づくと、エリーゼさんはさくちゃん達から見えないように手で壁を作って小声で話しかけてきた。


「ねえねえ、望ちゃん」

「何ですか?」

「あの子、望ちゃんが言ってた子?」


 エリーゼさんが指さした方向には、なんだが耳が赤いような気がするさくちゃん。


「うん」

「会えたのね」

「………はい」


 私が頷くとエリーゼさんにふわりと抱きしめられて、数回頭を撫でてくれた後またふわりと離れていった。

 エリーゼさんには修行中も何度か会って話を聞いてもらっていた。さくちゃんのことも色々話していた。私のさくちゃんへの思いも知っている数少ない人だ。


「伝えたの?」

「………(フルフル)」

「………そう」


 エリーゼさんは何か言いたそうにしていたが、寂しそうにつぶやいただけだった。


「一つだけ、Mädchenに教えてあげるわ。人生は一度切り、よ。人間はすぐいなくなっちゃうんだから」


 エリーゼさんは私の返答を待たずにさくちゃん達の方に向き直り、別れの言葉を告げる。


「私のベートーベンを返して」


「「貴方のベートーベンは盗っていません」」


「そうね、貴方たちは違うみたい」


 エリーゼさんは私とさくちゃんを見つめてそう告げると、月光にとけるように消えていった。




 「エリーゼのために」は一説では、悪筆だったせいで元は「テレーゼのために」だったのではと言われていたようですが、否定されているみたいですね。ベートーベンの没後、彼が好意を寄せていたテレーゼという女性の遺品から発見された曲だそうです。


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