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骨だけで人は走れません


「お次は生物実験室!お邪魔しまーす!」

「静かに開けろ」


 結桜が勢いよく生物室の引き戸を開けた。もう声について言うのは諦めた。結桜のテンションが上がったまま戻ってこないからもういい。ただ学校の備品だけは壊さないでほしいので、そこは注意しておく。

 夜の生物実験室はなんとなく異様な雰囲気がした。言葉でうまく表せないけど、いつも以上に静かで何となく不気味だ。懐中電灯をつけて棚を出入り口側から順番に照らしていく。


「あった」

「歯の模型と頭蓋骨の模型だね」

「………動いてはないんよ」


 結桜は心底残念と言った感じでつぶやいた。

 

「全部動くんじゃないの?」

「噂でも全部動くときもあれば、一つだけ動いたりってまちまちなんよー」


 結桜は残念さを隠そうともしない態度で返答してくれた。

 その後も他の模型やらいろいろ探したが、動くものはなかった。ただ、骨格標本だけはいくら探しても見つからなかった。


「骨格標本どこいったんだろうねー」

「もう走り回ってるとか?」

「有り得なくも………なんか声聞こえん?」


 生物室から出ようと引き戸を開けたとき、遠くからガチャガチャという音と笑い声?が聞こえた。


「ハーハッハッハッハハハハ!!」

「でたー!」

「わぁ」

「はっ!?わっ!?」


 驚きすぎて「走ってる!?笑ってる!?」の頭文字しか言葉が出てこなかった。

 だってさ、こっちに向かって骨格標本が笑いながら走ってくるんだよ?笑いのカラカラという音と、走っているガチャガチャという音が段々と近づいてくる。あたしたちの目の前を横切る瞬間。


「アハハハハハハハ!!」

「ふぇ?」

「のぞみ/のんたん!?!?」


 あの骨野郎、望攫いやがった!








「あの骨男さん、なんで私は抱きかかえられているのでしょうか?」

「久しぶりだね望ちゃん!大きくなったね!会えてうれしいよ!」

「お、お久しぶりです。それで何ですか?」

「勢い!」

「えぇ……?」


 骨男さんは元気なのはいいんだけど、突発的な行動が多いからこの学校の怪異の中では少し苦手だ。他の歯ーさんや髑髏さんは理性的な方だから話しやすいけど、骨男さんは一方的な所がある。


「そろそろ降ろしてくれませんか?」

「もう少し走りたいんだ!」


 そんなこと言われても困ってしまう。さくちゃん達心配してると思うし、今だけでもお話聞いてくれないかな。


「友達も心配するの」「のぞみ置いてけぇ!」「さくちゃん!?」

「アハハハ、嫌だと言ったら!?」

「鉄拳制裁ッ!!!」

「ライダァァ———————!?!?」

「えええええええ!?!?」

「足じゃん!!」


 さくちゃんが骨男さんに跳び蹴りしたぁ——————!?!?

 それと同時に浮遊感、骨男さんが蹴られた勢いで私を上に放り投げた。

 あ、ちょっと待って!これ落ちっ!?


「結桜!」

「ガッテン!ぐぇ」


 骨男さんに投げ飛ばされた私を、地面に激突する前に結桜ちゃんが受け止めようとしたけど受け止めきれず、結桜ちゃんを下敷きにして二人して倒れてしまった。

 

「ごめん!結桜ちゃん大丈夫?」

「ちょっと尻もちついたけど平気なんよー」

「のぞみ、結桜大丈夫!?」


 さくちゃんは酷く心配した様子でこちらに駆け寄ってきた。


「大丈夫だよ」

「うちも平気」

「二人とも、どっか痛いとことかない?」

「「大丈夫/なんよー」」


 その返事を聞いて安心したようで、手をとってゆっくり立ち上がらせてくれた。


「ありがとう」

「朔ー、うちはー?」

「ん」

「あんがとー」


 さくちゃんは私たちが何事もなく立ち上がったことを確認してから、未だ倒れている骨格標本の方へ向かって行った。


「おい変態骨野郎」

「ん〰〰〰〰ハッ!おはよう!」

「もいっぺん眠らせたろか?」

「さくちゃんいいって」


 その人(骨?)はそれが通常運転だから。


「君、良い蹴りをしているね!ただ、その蹴り方だと足を痛めるから体の使い方を知った方がいいよ!」

「そりゃどうも…………のぞみ」


 さくちゃん、そんなコイツ殴っていい?みたいな目で見てもこれ以上はやっちゃダメだよ?


「ダメだよ?」

「チッ」


 舌打ちしないの、気持ちは分からないでもないけど。

 

「でもね骨男さん、こういうことはあんまりよくないと思うんだー私」

「ごめんよ!つい嬉しくてね!」

「人に会えたことが?」

「それもあるけど、久々にのぞ」「望んでたら会えたからだよね!?」

「ん?まあ、そうだね!」


 危なかった。さくちゅんだけならまだしも、結桜ちゃんがいるから私が学校の怪異と知り合いというのを知られるのはまずい。


「もうすんなよ」

「無理だね!」

「今度やったら犬のおもちゃにすんぞ」

「もうしませんごめんなさい」

「変わり身早ッ!」

「あはは…………」


 骨男さんは昔、校舎に入ってきた野良犬に骨を舐められたり、噛まれたりして以来犬が嫌いになったちゃったみたい。

 

「じゃあ、ボクはもう行くね!」

「まだ走るのか?」

「当然さ!走るのがボクの生きがいだからね!」

「生き、がい?」


 怪異だから生きているかどうかは曖昧だけど、そこに存在しているなら今を生きていると言ってもいいかもしれない。


「ボクの骨生(こつせい)は走ることにあるからね!」

「へぇ~。では、骨生に悔いのないように!いってらっしゃい!」

「ありがとう!行ってきます!」


 結桜ちゃんが敬礼をすると、骨男さんは再びすごい勢いで廊下を走っていってしまった。その後ろ姿を見ていたら、急に結桜ちゃんが大声を出した。


「あ゛ーっ、写真!」

「撮り忘れたな」

「今から追いつくのは難しいかな~」

「ぐ・や゛・じぃー!!」

「あー少し待ってみるか?戻ってくるかもしれないし」

「う゛ん!」


 数分待っていたら骨男さんが戻ってきたので、一緒に写真を撮ってもらった。因みに骨男さんは、ハメを外した近所のおじさん的なポーズをしていた。




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