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頭はボールではありません


「お次は体育館!入る前に耳を澄ましてみよー!」


 体育館の扉を開けずに、皆で耳を澄ます。


 ダンッダンッダンッ


 ドリブルの音だ。こんな時間に誰か練習してる?それとも怪異が?

 ゆっくりと体育館の扉を開けると、二人の人影が見えた。


「あれ?冨樫じゃん。こんな時間に何してんの?」

「きゃっ!いっ居待と梧桐?それに黒鳥さん?なんでこんな時間に?」

「こんばんは、オカ研の活動だよ。冨樫さんこそこんな時間に練習を?」

「ああオカ研か。オレは朝起きるの苦手で、夜にコッソリ練習しに来てんだ」

「あの、その奥にいるのって…………」


 あたしが冨樫の奥にいる首なしの人(?)を指さすと、冨樫は「ああ」とまるで友達を紹介するかのようなノリで話す。


「お前らが言うような学校の七不思議ってやつだろうな」

「何でそんな平然としてんの!?首ないよ!?」

「どうどうさくちゃん。この子いい子だから大丈夫だよ」

「そうは言っても………」


 見た目のインパクトがすごい。首から下は普通にバスパンと半袖、45番のビブスを付けた人なのに首から上がない。しかも断面が赤黒いから普通にグロい。


「オレも最初ビビったけど、こいつバスケ超うまいんだよ。今では最高の練習相手だよ、な!」


 冨樫が首なし幽霊に呼びかけると、手を頭があったであろう位置で搔くような仕草をしていた。多分照れているんだろう。その反応やあたしたちが話している間もボールをお手玉みたいにして遊んでいたところから、特に害があるような幽霊には見えなかった。

 そういえば結桜がずっと静かだ。さっきみたいに飛び跳ねて喜ぶかと思ったのに、そう思っていたらいきなり冨樫の方へ飛んでった。


「冨樫!!」

「うぉ!?何だよ居待、急に大声出すなよ」

「さっせん!それより、首なし幽霊とバスケしてるとこ写真に撮っていい!?」

「お、おう、いいぞ」


 どしたんコイツみたいな目で此方を見ないでほしい。


「ちょっとテンション上がってるだけだから、気にすんな」

「そうか。あんまり暴走しそうだったら止めろよ?」

「善処する」

「頑張れ保護者」

「育てた覚えはない」

「おかん認知して!」

「産んでもいねぇわ」


 あたし達のいつものやり取りに、冨樫は呆れたように笑いながら首なし幽霊に向き直った。


「1on1な!」


 冨樫の声を聞いた首なし幽霊は、スリーポイントラインの内側に立つ。ボールを持った冨樫がオフェンス、首なし幽霊がディフェンスだ。

 ダンッダンッとリズミカルなドリブルの音が響く。冨樫がフェイントをかけて前に行こうとするけど、首なし幽霊が上手く進路を塞いでゴールに近づけない。何回か一定のリズムでドリブルをしていたが急にリズムが早くなり、キュッというシューズの音に続いて、最後にパサッというゴールの網が揺れる音、直後にボールが地面を叩く音が聞こえた。


「っし!」

「ナイシュー」

「すごーい!結桜ちゃん撮れた?」

「バッチシ!」


 パチパチパチ!


 首なし幽霊も拍手をしていて、なかなかいいプレイだったらしい。


「ありがとな。だけどお前のディフェンスもよかったぜ」


 冨樫と首なし幽霊が拳と拳同士をぶつけあう。こうしていると普通のチームメイトのようだ。片方の頭がないことを除けば。


「お前らはまだどっか行くのか?」

「おうともよ!まだまだ夜はこれからだぜ!」

「ハハッ居待は生き生きしてんな」

「冨樫は?」

「オレはー、ん?」


 首なし選手が冨樫の服を引っ張って、焦ったように時計を指さしていた。時刻は8時過ぎ、学生が出歩くには少々遅い時間だ。


「あ、時計?うっわ、もうこんな時間か!じゃあ、また明日な!」

「まったにゃー」

「じゃーねー」

「気をつけてな」

「おう!」


 冨樫がバタバタと荷物をまとめて帰っていった。

 首なし選手はその後ろ姿に手を振り、姿が見えなくなるとフッと消えた。


「あ、あの子も消えちゃった」

「ただ冨樫とバスケしたかったんだろうな」

「んーまあ写真は撮れたから問題なし!次行こ!」


 もう体育館にはあたしたちの声しか響いていなかった。



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