七不思議はあくまで噂話
結桜が本校舎1階の生物実験室に丸を付ける。生物実験室は体育館のちょうど反対側の端に位置している。因みに本校舎2階に化学実験室もあるが、そちらには噂はない。
「三つめは1階理科室の動く骨格標本!これは一つだけじゃなくて、複数動いてるのを目撃されてるんよ」
「複数?」
「おうさ!ある人は歯の模型が独りでにカチカチしてたって言うし、またある人は頭蓋模型がしゃべってたって言うし、またまたある人は骨格標本が走ってたって」
「待て待て待て」
「何?」
「骨格標本が走ってた?どこを?」
「1階の廊下を全速力で」
「なんだそりゃ」
思わず望に視線を送ると、頷きながら苦笑いしていた。
え、あんの?マジで?骨格標本って骨だけなんだけど走れんの?怪異だから関係ないのか。
「まあ、あくまで噂だから」
「お、おう」
「そうだよね~」
望の反応から全部本当なんだろうな。ヤバイ、ちょっと行きたくなくなってきた。
行くのが少し憂鬱になってきたところで、結桜が多目的校舎2階の美術室の隣に丸を付ける。
「四つ目は美術準備室のカキコさん!」
「お、名前がついてるのか」
「イエス!ここからは名前がついてて、いかにも七不思議って感じなんよ!」
あ、なんか結桜のテンションが上がってる。今までも王道っちゃ王道だったけど、固有の名前がつくとさらに七不思議感が増すから嬉しいみたいだ。
「カキコさんは額縁に入れられた一枚の絵なんだけど、毎日微妙に変わっていて未だに完成はしていないって話」
「誰かがこっそり描いてるんじゃね?」
「それは無理。そのキャンバスは壁にしっかりついとるし、上にはアクリルケースがかぶさっててて外すことも上から書くこともできないはずなんよ。なのに絵は毎日少しずつ変わっていく、不思議っしょ!」
「ふぅ~ん」
「反応うっす!何がご不満で!?」
「いや、今までのよりなんかインパクトに欠けるなって」
むしろ今までのが動き過ぎたのか?まあ、普通の七不思議ってこんなもんか。
「朔にそんなことを言われるとは!じゃあ、もいっこ補足!カキコさんの絵は文化祭の時だけ全く違う絵になる!んで文化祭が終わると元の絵に戻っている!どうだ!」
「どうだって言われても………」
実物を見てないし、そもそもここの文化祭は2年に1回だから検証が難しいと思うのだが。
「ぐぬぬ………!だが、今年は文化祭の年だし検証してやろうじゃないか!」
「え、そうなの?」
「さくちゃん、年間行事見てないの?」
「めんどくて見てなかった」
「今年の文化祭は楽しくなるぞー!」
うおー!と燃えている結桜は無視しよう。
そっか、文化祭か。今まで、そんなに楽しいって思ったことはなかったな。
「文化祭、楽しみだね」
「………うん、まあ少しは」
望が一緒なら、今までよりは楽しいって思えるのかな。
望に目を向けて少しだけ微笑むと、彼女も気がついて小さく笑ってくれた。
「二人してさ~」
「「何?」」
「ぅんにゃ、何でもないんよー」
ホントに何だよ。
結桜は若干ニヤニヤしながら次に進もうと、多目的校舎3階の音楽室に丸を付けた。
「五つ目は3階音楽室のエリーゼ!あたりが真っ暗になった学校、3階の廊下を歩いていると誰もいないはずの音楽室からピアノの音が聞こえる。気になってその音がする教室を覗くと、中世貴族のような女性がエリーゼのために弾いてた。その姿を見たその人は驚きのあまり、大きな音を立ててしまったんよ。すると、演奏が止まりその女性がこちらに近づいてくる。彼女は透けていて明らかに生きた人ではなかった。そして女性は『私のベートーベンを返して』と言う。何も答えなかったり、知らないなど間違った返答をすると両手を折られるってのが、ここの噂なんよ」
「今回は随分物語調だったな」
「ちょっと雰囲気を出したかったんよー」
「で、回避方法は?」
「彼女に『貴方のベートーベンは盗っていない』というと、『そうね、貴方は違うみたい』と言ってそのまま消えるらしい」
「ふーん」
いかにも学校の怖い怪談って感じだ。返答を間違うと理不尽に被害を受けるところとか。
「うーん………」
「のぞみ、どした?」
「あ、いや音楽室のエリーゼさんは演奏を中断されるのを酷く嫌うけど、手を折ったりするような人じゃないよ?」
「んーそれに関しては先輩から聞いた話だから、うちもよく分かんない」
「そっかー」
「あ、今思い出したけど、その演奏を静かに最後まで聴いた猛者がいて、普通に演奏がよかったんで拍手をしたら『ありがとう』って言って消えたって話もあったんよ」
「悪い怪異じゃないのか?」
「多分ねー。あくまで噂だから、広がりやすいように怖く盛ることもザラにあるから真偽は不明だにゃー」
まあ、怪談なんてそんなもんか。伝わっていくに少しずつ変化して、誰かの作り話がまた誰かの作り話になって出所も誰が語ったのかすら曖昧になっていく。そして、最終的にその作り話だけが独り歩きする。こうして考えると、人の噂話も怪談も大して変わらないのかもしれない。




