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昔の夢といつもの朝



 小さい頃に怪我をしたカラスを拾った。母親に頼んで、怪我が治るまでならお世話してもいいよと言われた。

 そのカラスがただのカラスではなかったと分かったのは、お別れの日だった。





『おおきくなったら、またあいにくるね』



 満月に照らされた黒い羽は、息が止まるほど綺麗だった。



『ありがとう、さくちゃん』

『からす、さんッ……!』

『……わたしのなまえは————』








 ―ッ―ッ♪




 スマホの爆音アラームで目を覚ます。

 懐かしい夢を見た気がする。名前はもやがかかったみたいに分からなかった。ただ、あの黒い羽が生えた人の姿と『またあいにくる』という言葉だけは、今でも覚えていた。

 あの頃は、自分が視えているものが人ならざるもの、妖怪や幽霊の類いだと知らなかった。今は視えたとしてもそれを口にすることはない。



「……だっる」



 いつも通り身支度を整えて、リビングへ向かう。



「おはよ」

「はよ」

「朝ご飯、食パンでいい?」

「ん」



 リビングには七つ上の姉が、朝ご飯を食べていた。

 母はいるがほとんど家にいないので、ほぼ姉と二人暮らしだ。姉は大学4年生、今年で卒業だ。

 父は七歳の時に他界、母は色んな所を転々としているため滅多に帰ってこない。まだあたしが小学生だった頃は、家を空けても1ヶ月くらい。中学校に上がってからはその期間が長くなって、半年以上帰ってこないこともあった。だが、出張の後は2週間から1ヶ月くらいまとめて休みを取って、家族で過ごす時間を作ってくれる。そうじゃなくても毎年お盆と正月、父の命日前後は必ず休みを取って家に帰ってくる。

 まあ、母が仕事で飛び回り始めたのは父がいなくなってからなので、あたしたちの生活費や学費のためなのだろう。実際、姉は大学卒業まで奨学金なしで通わせたし、あたしの高校の学費も問題ないと言っていた。

 生活費も申し分ないが、なるべく節約するようにしている。これは姉と二人で決めたことだ。



「ほい、トーストと卵」

「サンキュ」

「んじゃ、もう行くから洗い物お願いね」

「ん、研究室?」

「そう、今日は実験の準備するから早く来いって。あのハゲ、授業の準備くらい一人でしろっつーの!」

「大変だね」

「も~ほんとにね!行ってきます!」

「いってらっさい」



 朝からせわしないこった。

 それでも、お弁当はちゃんと自分とあたしの分作っていくあたりすごいと思う。

 

 朝ご飯を食べ終わり、洗い物をする。今日の晩ご飯は何にしようか。

 朝とお昼は基本姉が作るが、夕は早く帰ってきた方が作ることになっている。だいたいあたしの方が早いので、基本的には夕はあたしの担当だ。

 帰りにスーパー寄って帰るか。



「いってきます」



 ほぼお弁当と飲み物しか入っていないリュックを背負い、家を出て鍵をかける。

 登校中、路地や物陰にはチラホラと人ならざるものがいるけど無視。それがいつもの光景。



 カァーカァー



 カラスは元気だな。今日ゴミの日だったっけ?まあ、うちは前出したばっかだから大丈夫だ。

 学校に近づくにつれて、同じ制服を着た人が増えてくる。



「おはよ~」

「はよ」

「いつもながら覇気がないよね~、朔は」

「それ、毎回言ってるけど結桜にもブーメラン」

「なっはっは~、そうだね~」

「何その笑い方」

 


 朝から失礼な挨拶をしてきたのは、小学校からの腐れ縁、もとい親友の結桜。

 結桜だけはあたしが見えたという話をしても、そうなんだと全く気味悪がらずにむしろどんなものなのかと聞いてきたくらい。それ以来ずっと一緒だ。

 態度はかなり飄々としているが、いいやつだ。



 ガララッ



「おはよ~」

「あ、結桜、朔、おはよ!」

「……はよ」

「そういえば、聞いた?今日転入生が来るんだってー」

「へ~、こんな中途半端な時期に?」

「そうなんよ!」



 結桜がクラスメイトと話し始めたので、あたしは自分の席に行った。

 別にクラスメイトが嫌いなわけではない。ただ、あたしが一方的に壁を作っているだけ。我ながら面倒くさい性格だと思う。



「さくー」

「話終わった?」

「うん、今日転入生来るんだって~」

「へえ。今4月の終わりだよ?なんで一緒に入学じゃなかったんだろうね」

「ね~。まあ、お家の事情じゃないん?知らんけど」


「席付けー。ホームルーム始めるぞー」



 担任が入ってきたので、話は中断。

 私も前を向く。因みにあたしの席は窓側の後ろから2番目、結桜が一番後ろだ。

 普通最初の席順は扉側から出席番号順だが、この学校は逆で一番最初の番号の人が窓側の一番後ろの席になる。



「今日は転入生が来ている。このクラスなら大丈夫だろうが、まあ仲良くしてやってくれ」

「せんせー、なんでこんな微妙な時期なんですかー?」

「そこは本人から聞いてくれや。ただ、無理に聞こうとするなよ?」

「先生が面倒くさいだけなんじゃないですかー?」

「それもある。あとは個人情報とかもあるからなかなか言えんのよ」

「世知辛いっすね」

「大人とはそういうものだ」



 教師が面倒くさいとか普通に言うなよ。

 

 うちの担任は適当だが、皆から好かれている。

 かといって生徒をないがしろにしないし、適度な距離を保って接してくれる。そういう所がウケているのだろう。



「じゃあ、入ってきて自己紹介してくれ」

「はい」



 ガラッ



 ドアを開けて入ってきたのは、大和撫子という言葉がぴったりな女子だった。



 カッカッカッカッ

 カタッ


 黒板に名前を書いているだけなのに、絵になっていた。それくらい雰囲気がある。



「黒鳥望です。引っ越しが遅くなってしまい、こんな時期になってしまいました。これからよろしくお願いします」


「よろしく!」

「てか、めっちゃ美人じゃね!?」

「ヤバくね!」

「おーい、静かにしろー。特に男子、盛ってんじゃねぇぞー」

「ぶっ!?教師がそういうこと言うなよっ!」



 自己紹介が終わった直後、緊張の糸が切れたかのように皆口々に騒ぎ出した。

 そりゃそうだ。入ってきたときに空気が変わった。皆が息を飲んだのがわかった。

 皆、見惚てたんだ、彼女に。





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