優しさの悪夢
一旦ここで一区切りです。次から学校の不思議編になるので、また期間が空きます。
くらい。真っ暗だ。
暗闇は嫌いだ。あの闇の中から、いつアイツらの目が出てくるか分かったもんじゃない。だからこそ、高校生になっても真っ暗で寝ることができない。
自分の体を見ると、手や足が随分縮んでいた。どうやら小学校低学年くらいまで体が縮んでいるらしい。
「………………グス」
誰かが泣いている。音がする方へ目を向けると、黒い羽が生えた女の子がうずくまっていた。どうやらあの子が泣いているらしい。
慰めてあげなきゃ。
暗闇の中をあの子を目指してひたすら足を進める。
足は動いているはずなのに、全然あの子に近づかない。じれったくて思わず泣きそうになった。まいったな、精神まで幼くなっているみたいだ。
必死に足を動かしているのに、手が届かない。手を伸ばしたところで届くはずはないけど、伸ばさずにはいられなかった。
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「………………うぅ……」
「さくちゃん?」
朔ちゃんの唸り声で目を覚ます。
スマホを見ると午前二時、どうやら昨日はあのまま眠っていたみたいだ。
「…………ッ……」
苦しそうな声が聞こえたので、ガバっと体を起こしてさくちゃんを見る。さくちゃんは眉を寄せて何かに向かって手を伸ばしていた。なぜか私は自然とその手を取っていた。
「あ………」
自分でやっといて驚いた。無意識だったから。でも、今この手を離しちゃいけないと思った。
握った手は少しだけ汗ばんでいた。先ほどより幾分か表情は和らいだけど、まだ眉間にしわが寄ったままだ。
「さくちゃん」
声をかけてぎゅっと手を握ったけど変わらない。
貴方は何でそんなに苦しそうなの?どんな夢を見ているの?
起こそうとして肩をゆすっても起きてくれない。まるで夢魔に眠らされているみたい。ただ、ここにそんな気配はないしそもそも入ってこれないはずだ。いくら夢の中ではそれは変わらない。だとしたら、これはさくちゃん自身が生み出した夢に苦しんでいる。
考えろ、どうしたら彼女は安心できる?守るって決めたんだ。さくちゃんの体だけじゃなく、心も。
私が悩んでいると、不意に握っていた手を朔ちゃんの方に引かれる。突然だったので、そのまま上半身が朔ちゃんのベットの上に倒れこむ形になってしまった。ふわっと香る朔ちゃんの匂いに少しクラッとした。って駄目だよ!さくちゃんは今夢にうなされてるんだよ!邪心よ、消えろー!心頭滅却、無念無想、明鏡止水!
「ふぅ…………」
何とか落ち着いた。
まださくちゃんの眉間にはしわが寄っている。
「さくちゃん………」
またどうしようか悩んでいると、朔ちゃんの目から雫がこぼれてきた。
泣いてる。
そこからは無意識だった。朔ちゃんの布団の中に飛び込んで、自分の胸の中に閉じ込める。大丈夫だよ、私がいるよと精一杯の気持ちを込めて。
いつまでそうしていただろう。胸の中から規則正しい寝息が聞こえてきた。眉間のしわはすっかりなくなっていた。
よかった、悪夢は終わったみたい。私は安心して、そのまま朝まで眠ってしまった。
今日は大丈夫だろうか。
朔は家族が誰もいない日に一人で寝ていると、高確率で悪夢を見ている。母は家にいないことがしょっちゅうだし、うちは最近卒研で夜いないことが多くなってきた。朝方、こっそり家に帰ってきたときにうなされている朔を見ると酷く申し訳ない気持ちになる。手を握ったり、頭を撫でてあげたりすると良くなるけど、うちが来るまで苦しんでいたのだろうと思うと居たたまれなくなる。
時刻は午前4時、望ちゃんが泊まったらしいけど寝ている朔の変化に気が付いてくれるだろうか。
徹夜で重たい体を引きずりながら、速足で家に帰る。妹の寝顔を見たら、お弁当を作って少し寝たらまた大学に戻ろう。朔はうちがこんなに心配しているなんて知らないだろう。でも、うちの唯一の妹だ。心配しないわけがない。
「ただいま」
超小声で帰ってきたことを伝えて、静かに扉をしめる。
朔を起こさないように忍び足で部屋に向かい、扉の前に立つ。苦しそうなうめき声は聞こえない。望ちゃんがいるからだろうか、とりあえずほっとした。
「おはようございまーす」
寝起きドッキリはしないが、徹夜テンションなので勘弁してほしい。
まず目についたのはお客様用の布団、そこには誰もいない。次にベッドに目を向けると、望ちゃんが朔に抱き着いて寝息を立てていた。朔も心なしかいつもより穏やかな顔で眠っている気がする。
「ぷ」
なんかこうしてみると妹が二人に増えたみたいだ。
あ、写真撮っとこうかな。帰ってきたら母さんに見せてやろーっと。
自分の分と妹のお弁当を作り終えて2時間ほど仮眠をした後、シャワーを浴びて少しまったりしていると妹の部屋から絶叫が聞こえた。
「わあああああぁ!?!?」
「いったあああああ!?!?!?」
「わぁああごめん!!!」
「ふっは」
朝から何してんだ、あの二人。




