どれかなんて自分が一番わからない
「あ~」
「のぞみって髪長くて綺麗だよね~。乾かすの大変じゃね?」
「んー?いつもは妖術でちょちょいっと乾かしてるから」
「え、じゃああたしの今してるこれ要らなかった?」
「そんなことないよ!さくちゃんに髪乾かしてもらえるなんて、役得以外の何物でもないよ!」
「そっすか」
「そうだよ!」
そんな必死に言わんでもええて。そのまま髪が完全に乾くまで、ドライヤーで望の髪を梳いていた。気分は美容師だ。
でも本当に綺麗だよなー。サラサラだし、艶もあってそれこそ鴉の羽みたいに綺麗だ。野生のカラスも光に照らされると、緑にも赤にも青にも見えるのでかなり綺麗だ。
「なかなか時間かかった」
「ありがとう。さくちゃんの手が気持ちよくて寝ちゃうかと思った」
「お、おう。あーっとのど乾いてない?なんか持ってくるよ」
望さんや、お風呂上がりの火照った顔でそんなこと言っちゃいけんですぜ?思わずドキッとしちゃったじゃん。
「え?私も手伝うよ」
「いいっていいって、何がいい?」
「んーじゃあ麦茶!」
「はいよー」
なんかお風呂に入ったから熱いのか、望のせいで熱いのか分かんなくなってくる。
ちょっと落ち着くために、冷蔵庫で冷やしておいた麦茶をコップに入れて一気に飲み干す。
「ふー」
冷たい麦茶が火照った体に染みる~。
少し落ち着いたので望の分と自分用にもう一杯注いで、望が座っているソファに戻る。
「ほい」
「ありがとう」
望は麦茶を受け取ってすぐにコクコクと飲み始めた。喉が渇いていたのかすぐに飲み干してしまった。
「ぷっはー!」
「いい飲みっぷりだねお嬢さん。もう一杯どうだい?」
「いただきます!」
「はは、りょーかい」
望からコップを受け取ってお代わりを持ってくる。
再度コップを受け取った望は二口程飲んでから、コップを机の上に置いた。
「もういい?」
「ううん。今度はゆっくり飲もうと思って」
「そか」
あたしも一口飲んでから、コップを机に置いた。
ゆったりとした空気が流れる。テレビも特に見たいものがなかったので、ニュース番組が流れている。特にすることもないので、ぼーっとテレビを見ていると段々と瞼が下がってくる。
「さくちゃん眠い?」
「んー、かも?」
時計を見ると10時半。普段この時間帯に眠くなることはないが、今日は色んなことがあって疲れたのかもしれない。
「あ、望用の布団出してないや」
「さくちゃんのベッドで一緒でもいいよ?」
「え゛っ」
眠気でぼやける思考が一瞬ではっきりした。
え、望と同じ布団で寝る?ヤバイ、いろんな意味でヤバイし眠れる気がしない。何がヤバいかは知らん!とにかくよくないんだ!
「布団準備してくるからちょっと待ってて!」
「え?さくちゃん?」
望の困惑した声が聞こえたがそれを無視して、逃げるようにお客様用の布団を自分の部屋にもっていき整える。今なら布団早敷き大会でベスト10には入れるだろう。そんな大会があるかどうか知らんけど。
その後は各々寝る支度をしてから、二人して布団に入る。因みに私は自分のベッドで、その下に敷いたお客様用布団に望が寝る形だ。電気を消そうとしてふと手を止める。
「ちっちゃい電気つけててもいい?」
「大丈夫だよ。こう見えてもどんな明るさでも寝れるのが特技だから!」
「ふは、胸張っていう事?」
「うん!」
望から了承を得たので、いつも通り常夜灯を付けて寝る体勢に入る。すると布団を準備する前の眠気がこんばんはしてきたのか、すぐに瞼が重くなってきた。
「のぞみ、おやすみ」
「お休み、さくちゃん」
望の声を聞き終えるか終えないかくらいで、あたしの意識はすーっと落ちていった。
「すぅ…………すぅ…………」
頭の上から朔ちゃんの寝息が聞こえる。
私はまだ眠くはなかったので、今日の自分の行動を振り返ってみることにした。
…………なんかわがままばっかだ。夜のお散歩は結果的に朔ちゃんも楽しんでくれたからよかったものの、かなり強引だったかもしれない。いや、それ以上にお風呂は駄目だったよね。なんであそこまでしちゃったんだろう?いくら鴉の姿が受け入れられてテンション上がったからって、い、一緒にお風呂って!いや、さくちゃんもさくちゃんだよ!
『手が届かないから綺麗なんじゃない、それ自体が好きだから綺麗だって思うんじゃないかな』
『じゃあさ、私も手を伸ばせば届くかな?』
『届くんじゃない?ずっと好きだったらきっと』
あの質問、朔ちゃんはただの月に行けるかどうかの質問だと思って答えていた。けど、私にとっては”月が綺麗ですね”の解答の延長線の言葉。我ながらかなり遠回りな質問だと思ったけど、こんなこと直接言えるわけがない。でもさ、あんな答え聞いちゃったら期待しちゃうじゃん。
それでテンション上がっちゃって、お風呂でもかなり攻めたことをしてしまった。朔ちゃんずっと動揺してたし、心臓がすっごくドキドキしてたのだって聞こえてた。私が体や髪を洗っている時も、ずっと顔を逸らしてたけど耳が真っ赤だった。自意識過剰かもしれないけど、意識してくれてるって思ってもいいんだよね?
「ふー」
頭を冷やそう。
本当は今回の夜の散歩も、お泊りも全部私の朔ちゃんへの思いを確かめるため。鴉の姿を見せたのは一種の賭けだった。あの姿で一瞬でも怖がってくれたら、君への思いは永遠にしまっておくつもりだった。お風呂もエッチな気分になっちゃうかどうかの確認だった。案の定止まらなくて、ほっぺにキスまでしてしまった。その後も、朔ちゃんの一挙一動を気にしてしまって君から目が離せなくなった。
私は朔ちゃんのことを恋人として好きなの?
その疑問には誰も答えてくれない。私ですら答えは分からない、分かっちゃいけない。でも、この胸がギュッとなる感覚は何だろう。
私の姿で怖がってくれればよかった、普通の友達と同じ距離感で接してくれればよかった、あんな優しそうな顔で微笑んでくれなければよかった、あの時助けてもらわなければよかった。
——————————————貴方に、会わなければよかった。
ハッとしてその思考を振り落とすように頭をブンブンと振る。会わなければよかった、なんて嘘でも思っちゃダメだ。朔ちゃんのおかげで強くなろうって思えたんだ。ちゃんと戻って妹にも謝って、また頑張ろうって思えたんだ。
「はぁ…………」
頭の中がごちゃごちゃだ。
チラッと朔ちゃんを見ると、あどけない顔でスヤスヤと眠っていた。まったく、こっちの気も知らないで呑気なもんだよ。こんなにも頭の中がかき乱されるのは、朔ちゃんが特別だから。
そうだ、ただ君のことが”トクベツ”好きなだけなんだ。恋とか愛とかそういう言葉にしなければいい。そうすれば、この胸の痛みも軽くなるから。




