おぅふ、ろ………?
ちょいと暴走気味です。
「はい、とうちゃーく!気を付けてお降りくださーい」
「はいよーっと」
結局顔の熱を完全に冷ますことはできずに、まだ血色がいいまま望から降りる。地に足が付いたのに、なんかまだふわふわしている気がする。
「楽しかった?」
「うん、めっちゃよかった。ありがとう、のぞみ」
「喜んでくれてよかったよ」
振り返ると普段の望に戻っていて、あの大鴉はいなかった。やっぱりあれ望だったんだーと、再度実感していると急に鼻がムズムズした。
「っくしゅ」
「冷えちゃった?」
「ん、そうかも」
「大変!早く戻ろ」
返事をする前に、望があたしの手をとって走り出す。握った望みの手はあたしよりも温かかった。
「ただいまー」
「ただいまって、今日は姉ちゃんいないけどね」
「え、帰ってこないの?」
「うん。研究が思うようにいかなくて、泊まりで実験するんだって」
「へー、大変だね」
姉ちゃんは大学の生物学科で正直何を学んでいるかはさっぱり理解できない。この前は藻をとってきて、その成分を抽出してなんちゃらかんちゃらって言ってた。卒論も生物を使った何からしく、なかなか再現性がなくてかなり四苦八苦しているらしい。
自分の腕を触るとまだひんやりとしていたので、さっさとお風呂の準備をしよう。
「さくちゃん、今日泊まってってもいい?」
「のぞみ家すぐ隣じゃん。どうしたの?」
「その、何となく………ダメ?」
どうしたんだろう?まあ特に断る理由はないな。
「別にいいよ。着替え持ってきな」
「うん!お風呂も一緒に入っていい?」
「いいよ」
「じゃあ着替えとってくるねー!」
「…………ん?」
一緒に?O・FU・RO?
お風呂にお湯がたまる音を聞きながら、さっきの望の発言を反芻する。
え、一緒にお風呂って言った?いや女同士だし、他の人たちとも修学旅行とかで入ったことあるし?問題はないよね?…………あのおっぱいと?ムリじゃね?しかもスタイルも抜群なんだよ?あたしが言うのも何だけど、胸は言わずもがなお腹も細すぎず筋肉ちゃんとある感じだしお尻も上にきゅっと上がっててなんか生物として美しいんだよ。因みに体育の着替えの時にちらっと見ただけだから!ガン見はしてない!結桜から「うちもおっさん目線で見ちゃったかもだけど、うちよりガチなんよ~」って苦笑いされたけど!
『テテテンテテテンテンテテテテテーン お風呂が沸きました』
あ、沸いた。まだ望は帰ってきていない。
よし、先に入ってしまおう。そして望が帰ってくる前に上がってしまえばいいこと。この際烏の行水だとかは気にするな。後で望に謝ろう。そうと決まれば善は急げ。
着替えはすでに脱衣所においてある。最速で服を脱いで、頭と体を洗ってお湯に浸かる。
「あー」
思わず声が出てしまうのはあるあるだと思う。相当体が冷えていたのか、お風呂がかなり心地よく感じた。
「さくちゃーん、もう入っちゃったのー?」
まずい!望が帰ってきた。しかも声が近いぞ。もう脱衣所いるじゃん。え、何で気づかなかったんお前!
「ご、ごめん!寒かったから先に入っちゃった」
「もー、私も入るー」
あ、詰んだー。
望が服を脱いでいる音が聞こえてから、数十秒もたたないうちにお風呂の扉が開く。
「そんなに冷えてたなら、言ってくれればよかったのにー」
「あ、ごめっオフゥ」
直視できません。
先に言っておきます。別に望を性的な目で見ているわけではないんです。ただね、生き物として美しい体に長い黒髪がベールみたいにかかっていてですね、そのとてもエッチィです。
「さくちゃん?」
「な、何でもないです」
すぐに視線を逸らして壁の方を見つめる。後ろでは望がシャンプーしている音が聞こえる。因みにお風呂は一般家庭のものであんまり広くはないので、誰かがシャワーの前を使っていると浴槽に入っている人は外に出るとき、その人に必ず接触しないと出ることができない。つまり、あたしは望が浴槽に入るまで動くことができない。
「ふぅ。さくちゃん、ちょっと詰めて?」
「え、いや、あたし上がるよ」
「むー、一緒に入ろっていったじゃん」
会話はしているけど、今も望の方を見れていない。あたしが立ち上がると、望がむくれた声を出しながら手を掴んできた。
「いや、一人でゆっくりしなよ」
「いいよって言ったじゃん」
「あれは、その、空返事というか勢いというか」
返事がしどろもどろになってしまった。望の声はかなり不満そうだ。
「ちょっとだけ。だめ?」
「ぐっ」
その声にチラッとだけ見てしまった。あの子犬みたいな顔で頼まれてしまった。もうこれは断れない。
「わかった」
「ありがと。じゃあ、おいで?」
ホワィ?
どうしてこうなった?
あたしは今、望の太ももの上にお尻を乗せて望にもたれかかる感じで一緒にお風呂に入っている。決して自分の意志で後ろに体重をかけているわけではない。望があたしの体に腕を回しているので必然的にそうなるんだ。そのせいで、当然あの柔らかい感触がするわけで心臓は今まで聞いたことない音がしてる。心不全かな?
「あのー、望さん?」
「なーに?」
「なぜこのような体勢に?」
「こうしないと一緒に入れないでしょ?」
「まあ、そうなんですが……」
望の足が長くて体育座りをしても膝が出てしまうので、二人ちゃんと浸かるためにはこの体勢にならないといけなかった。それは分かる、分かっていてもこの体勢はかなりドキドキする。
「ねえ、さくちゃん」
「な、なんでしょうか?」
「ちょっとだけこっち、向いてくれないかな?」
「え」
む、無理!だってそっち向いたら綺麗なお胸とお顔が真正面ですよ!そんなん頭が爆発する!
「無理」
「ちょっとだけ」
「無理だって」
「………何で?」
「う」
何でって、それ言ったらあたし変態だって思われない?脳内童貞クソ野郎だって思われない?野郎じゃねぇわ!
「ね、何で?」
「ひぅっ」
ヤバ、変な声出ちゃった。そんな耳元でしゃべらないでほしい、こしょばゆい。
「い、言わない」
「むー」
可愛く怒っても駄目です。こればっかりはさすがに望相手でも言っちゃダメだろう。
「わかった」
「わかってくれたなら」
言葉が途切れる。
あたしの頬に熱い手が触れた後、柔らかい何かが触れてすぐ離れた。思考が止まる。心臓がさらにバクバクと音を立てる。
「のぼせちゃったね。そろそろあがろっか?」
「う、うん」
望は何事もなかったかのように声をかけてきた。そのせいで、さっきのはあたしがみた白昼夢かなんか何だろうって思ったけど、あの頬の感触だけは夢じゃないぞとわたしに訴えかけてきていた。




