夜空の散歩
ストックが今回で切れたので、一旦毎日投稿お休みです。学校の七不思議に入る前にもう2,3話入れるか考え中。
夜の散歩、あたし一人なら絶対しない。
最初は断ったけど望から「少しだけ」と、あの子犬のような顔で頼まれてしまったので了承してしまった。靴を履き玄関を出ると、望はエレベーターで下の階はなく上の階のボタンを押した。
「下に行くんじゃないの?」
「うん。ちょっと見せたいものがあるんだ」
「そう………」
それ以上は追及せずに、そのままエレベーターで上へ向かった。
チーンと扉が開いたので外に出ると、望はさらに階段を目指して歩き出した。あたしもその後ろを無言でついていく。
ついたのはマンションの屋上だった。一応解放はされているが、たまに業者が点検などに来るくらいで住人はほぼ来ることはない場所だ。
「んで、見せたいものって何?」
「ちょっと待ってね」
望は深呼吸をして「よし」とつぶやいた後、突然強い風が吹き黒羽が舞った。
咄嗟に自分の目を覆う。風が収まってから目を開けると、望がいた場所には大きな鴉がいた。
「きれい…………」
漆黒の闇の様に黒い羽、尾羽までピシッと綺麗に揃っていて月明りを浴びてキラキラとまるで星の様に輝いていた。そしてその中に浮かぶ黄色い目が、それをただの闇ではなく生物足らしめている。体毛と同じ色の黒い嘴は少し丸みを帯びていて、美しさの中にあるちょっとした可愛らしさを感じた。
「さくちゃん」
「あ、な、何?」
望に声をかけられるまで目が離せなかった。言葉が出なかった。
「どう、かな?」
「あ、うん!すっごくカッコいいし、超綺麗!羽がキラキラしてて星みたいで、目もお月様みたいで、えっと、なんていうかもうメチャクチャ綺麗!カッコイイ!」
全然言葉になってない。自分にもっと語彙力があればと思ったのは初めてかもしれない。
「そんなに褒められると照れちゃうな~」
「本当はもっと褒めたいぐらい!」
「あぅ………えっと、怖く、ない?」「全然!」
これだけは即答できる。普通はこんなおっきな鴉がいたら怖いって思うかもしれないが、全然そんなことは思わなかった。それはその鴉が望だと分かっているからというのもあるけど、それ以上に魅力的だったから。
「———————そっか!じゃあさ、次は私の背中に乗ってくれるかな?」
「うぇ?」
「夜空のお散歩に出かけよう!」
「こ、これ本当に大丈夫?」
「うん!しっかり掴まっててねー。あ、最初は首に抱き着いてたほうがいいかも」
「こう?」
腕を望の首に巻き付ける。望がビクッとなったので、慌てて緩めた。
「ごめん!苦しかった?」
「う、ううん大丈夫!羽ギュッとしててもいいから!しっかり掴まってて!」
「わ、わかった」
望の声がちょっと上ずっているのは気のせいだろうか。
言われた通り首に抱き着いて、羽を手でギュッと掴む。今度は特に反応がなかったから、痛くはなかったみたいだ。
「じゃあ行くよ!お空の旅、一名様ご案なーい!」
少しだけ助走をつけて一気に飛び上がる。
あまりの速度に反射的に目を瞑ってしまう。頬に感じる少し冷たい風と、翼のバサバサという音でどんどんと上へ上へ上っているのを感じていた。
「さくちゃん、目開けて」
望に言われて目を少しずつ開ける。
「わぁ……」
そこには、星の海が広がっていた。その海にまん丸の月が浮の様に浮かんでいる。小さい雲は諸島のように何個か集まっていた。
「これが私の見せたかったもの、だよ」
「すごい…………すごいよ、のぞみ!こんな綺麗な星空初めて見た!」
「わわ、興奮しすぎ。落ちちゃうよ?」
「ああ、ごめん」
無意識に手足をパタパタと動かしていたらしい。こんな景色を見て興奮しない方が難しい。望に言われて大人しく手を元に戻したけど、心だけはぴょんぴょんと兎のように跳ねたままだった。
「今日は満月で、空気も澄んでたから綺麗だろうなって思って」
「うん、ホントに綺麗」
暫く、望の羽音と風を切る音だけが流れる。二人とも口は開かなかったけど、全然嫌じゃなかった。むしろ、この星の海にあたし達だけという特別感があって心地よかった。
「ねえ、さくちゃん」
「なぁに?」
「よくさ、月は手が届かないから綺麗、なんていうよね」
「あー、まぁそれはあるだろうね。でもさ、月に憧れた人類はついに月に行くことができたよね。そこで終わりじゃなくて、今でも定期的に人は月に行っている。手が届いた今でも、月は魅力的なんだ。だからさ—————」
「手が届かないから綺麗なんじゃない、それ自体が好きだから綺麗だって思うんじゃないかな」
あれ?なんか柄にもないこと言っちゃったなこれ。うっわなんか恥っず、急に恥っず。うん、あれだ、この星空が綺麗すぎるからいけないんだ。雰囲気に当てられただけなんだ、そういう事にしておこう。
「———————ふふふ、意外とロマンチックなこと言うんだね」
「うぁ、やめて。今それ指摘されると恥ずかしさで死にそう」
「えー?私は素敵な考えだったと思うよ?」
「やめて、マジでやめて」
ヤバい、このまま恥ずかしぬ。メッチャ顔あっつい。夜風じゃ冷ませないくらいあっつい。
「じゃあさ、私も手を伸ばせば届くかな?」
「うー届くんじゃない?ずっと好きだったらきっと」
「…………そっか」
「のぞみ?」
「ううん、何でもない。寒くなってきたし、そろそろ戻ろっか」
「あ、うん」
その望の様子がちょっとだけ気になったけど、その時のあたしは部屋に戻るまで顔のほてりをどうにかしないとというのでいっぱいいっぱいだった。




