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梧桐朔の話

 朔のクラスメイト視点です。


 梧桐さんの第一印象はちょっと怖いかも、だった。


 高校に入学してからクラスで初めて会った人。挨拶をしても返してはくれるけどそっけない。唯一小学校から友達だったという結桜ちゃんとは普通に話しているのを見かけるが、それ以外とはあまり話している様子はない。話しかけられたら話すけど自分から話しかけることはない。別にクラスメイトが嫌いという感じではないけど、結桜ちゃんと一緒にいるときに話しかけるとそそくさと自分の席に戻ってしまうか、何か作業をし始める。結桜ちゃんに理由を聞くと「何を話したらいいか分からない、うちの邪魔になるからって。そんなことはないって言ってるんだけどねぃ」と、やれやれといった様子で話していた。

 梧桐さん本人はそんな感じだけど、よく人のことを手伝っていたりさりげなくサポートしていたりと小さいことだけど人助けをしている。例えば、大荷物を持っている人のものを半分持ってあげたり、さりげなく先に戸を開けていたり、体育での片づけを率先して行っていたりと様々だ。それに対してお礼を言うと「目的地が同じだったから、ついでに持っただけ」「早く帰りたかったから」など、さも貴方のためではありませんよをアピールしてくる。結桜ちゃん曰く「八割本音で二割はうちでも分からんにゃ~」と。

 結局、私の中の梧桐さんはなんかいい人そうだけどやっぱりちょっと怖いというところで落ち着いた。

 

 印象が変わったのは、三回目の体育の時間。

 いつも通りストレッチをして、少しウォーミングアップをした後マラソンをする予定だった。ウォーミングアップ中着地に失敗したのか、少し足を痛めてしまった。特に問題ないだろうと、そのまま集合場所に向かおうとしたら急に梧桐さんに声をかけられた。


神戸(かんべ)さん」

「は、はい?」

「足、怪我した?引きずってるよ」

「え、マジで?言ってよ!」


 驚いた。ペアを組んでいた友達も気が付いていなかったのに。それに、ちゃんと”かんべ”って言ってくれた。よく”こうべ”に間違えられるからダブルで驚いた。


「う、うん。でもちょっとだけだよ」

「放置しない方がいい」

「そうだね。先生!かんちゃんが怪我したから保健室行っていいですか!?」

「何?じゃあ、保健委員がつれてってくれ」

「あ、あたし連れてきます。保健委員なんで」

「ああ、頼んだ」


「歩ける?」

「う、うん。ぃった」


 変に力を入れたからか少し痛みが走った。歩けないわけではないけど、痛くないわけでもない。


「嫌かもしれないけど、ちょっと我慢して」

「え?うわ!」


 梧桐さんに抱きかかえられた。ちゃんと足をあまり動かさないように優しく。そのまま振動の少ない安定した歩きで保健室へと運ばれた。後ろ手に見た先生も茫然としていた。


 


「男子、あれやってみなよ」

「いや無理だべ」

「あれは梧桐だから許される」

「んだんだ」






「せんせー、ていないじゃん」


 保健室はちょうど先生が外出中だったようで、誰もいなかった。梧桐さんが足で椅子をひいて、その椅子に私をゆっくり降ろしてくれた。


「急にごめん。でもこの方が早かったから」

「ううん、大丈夫。ありがと」

「ん。先生来た時、すぐ足みせれるように靴下脱いどいて」

「あ、うん」


 言われるがまま靴下を脱ぐと、くるぶしのあたりが少し赤くなっていた。


「とりあえずこれで冷やしといて」

「ありがとう」


 濡れたタオルを受け取って赤くなっている所にあてる。ひんやりして気持ちいい。


「あとは先生待っとくから、もう大丈夫だよ」

「あーいや、先生来るまでいるよ」

「本当に大丈夫だよ?」

「…………マラソン、走りたくない」


 これまた驚いた。彼女は優等生というほどではないけど、授業中寝てるところを見たことがないし、内職をしているところも見たことがないくらい真面目だと思っていたから。


「マラソン嫌いなの?」

「だいっきらい。何でただただ走らにゃならんの。誰だよ、マラソンなんてカリキュラムに組み込んだやつ。絶対考えなしにいれただろ、やらされる身にもなってみろってんだ」


 こんなにしゃべってる梧桐さん初めてみた。なんか初めて梧桐さんを身近に感じた。


「ふふ、相当嫌いだね」

「うん、授業から一刻も早く消えてほしい。てか足大丈夫?」


 さっきまでマラソンに恨み節を言っていたのに、今度は一転して本当に心配そうに足のことを聞いてきた。


「あ、うん。冷やしたら少し痛み引いたかも」

「よかった」


 今度は心底安心したような顔。梧桐さんってこんなに表情変わるんだ。

 そんなことを思っていると、保健室の扉が開く音と先生の声が聞こえた。


「あれ梧桐?体育は?」

「サボり。あと、神戸さんの付き添いです」

「マラソンか、まあいいけど。神戸さんは足ひねった?痛みは?」

「かもしれないです。痛みは冷やしてればいい感じです」


 先生が足の具合を診てもらっているとき、梧桐さんは保健室にある本を手に取り読み始めた。


「軽い捻挫だと思うけど、心配だったら整形いってね。とりあえず冷やして安静にしてれば自然に治るから、体育終わるまでここにいる?」

「そうします」


 先生は冷えピタと一応固定するために包帯を巻いてくれた。梧桐さんは相変わらず本を読んでいた。


「梧桐さんは保健室よく来るの?」

「まあまあ」

「週1回は必ず来てるでしょ。ここは仮眠室じゃないのよ?」

「昼休みだからいいじゃないですか」


 なんか梧桐さんって、全然怖くないかも。










「あ、かんちゃん!足大丈夫!?」

「大丈夫だよ。あ、梧桐さんありがとう」

「ん」


 体育の授業が終わるころになって教室に戻ると、友達が心配そうに迎えてくれた。因みに教室まで梧桐さんが付き添ってくれた。歩くときも私の速度に合わせてゆっくりと歩いてくれた。お礼を言ったら、すぐに自分の席に戻ってしまったけど。


「梧桐さんってそっけなくてちょっと怖いよね」

「んー、そうでもないよ?」

「え?かんちゃんも最初はそう言ってたじゃん。なんかあった?」

「———————秘密」

「なんだそれ!」



 



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