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第6話 雪の礼拝堂

雪は細くなり、風だけが白い谷を渡っていた。

 アルトレーンの郊外、北東の鉱山道。

 街を離れて一時間も歩くと、そこはもう“人の時間”が途絶えた場所だった。

 崩れた岩壁と、黒ずんだ柱の残骸。

 その奥に――雪に沈むように、古びた石造りの礼拝堂があった。


 「……これが、“雪の礼拝堂”。」


 リヴィアが息を呑む。

 白の中に沈む外壁は、どこか青く光って見えた。

 近づくと、石の継ぎ目に微弱な魔力が残っている。

 まるで誰かが、つい昨日までここで祈っていたかのように。

 ベルネは銃を構えたまま、慎重に扉を押した。

 錆びた蝶番が軋み、冷気が吹き出す。

 中は静寂だった。

 崩れた天井の隙間から雪が落ち、光の粒が漂っている。

 床には、焦げた魔法陣の残骸。

 中心部に、円形の魔導炉が埋め込まれていた。


 「……まるで時が止まっているな。」


 ベルネの声が低く響く。

 アーロンが周囲を警戒しながら歩き、瓦礫をどけた。


 「中佐、これを。」


 壁際の石板を指差す。

 そこには、魔法式の刻印が複雑に絡み合い、部分的に焼け落ちていた。

 リヴィアが膝をつき、手袋を外して指でなぞる。


 「旧王国式の制御陣……構造が二重。炉の安定化ではなく、“封印”を意図してます。」


 「封印?」


 「ええ。……暴走を“止める”ためのものです。」


 ベルネが灯りを近づけた。


 「この下の刻みは……文字か?」


 「ええ、けど――劣化が進んでます。少し触れますね。」


 リヴィアは指先で、埃を払うように表面を撫でた。

 その動作は穏やかで、どこか祈るようでもあった。

 やがて彼女は小さく息を吐く。


 「……判読不能です。焼けた跡のようですね。」


 ベルネが懐中灯を向ける。


 「そうか。……最初から消えていたのか。」


 リヴィアは小さくうなずき、視線を落とした。

 彼女の横顔は静かで――何も見なかった者のようだった。


 その沈黙を裂くように、床下で「カチリ」と音がした。


 微かな震動。

 魔導炉の中心に、残滓のような光がゆらめく。

 リヴィアが振り返った瞬間、炉の表面から青白い火花が散った。


 「反応波が……上がってます! 自動再起動――!」


 「離れろ!」


 ベルネがリヴィアの腕を引き寄せる。

 次いで、鈍い爆音。

 崩れた天井の雪と石片が一斉に落ちてくる。

 光が、裂けた。

 ――十九年前の“封印”が、再び息を吹き返した。

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