水音
「なあ~~お前今までで怖かったことは無いか?」
「今までで怖かったこと?」
「心霊体験でも何でも何かあるだろう」
「心霊体験ねえ~~」
友人と宅飲みしてる時の事だ。
僕は酔った友人に変な質問をされた。
「俺さあ~~また幽霊を見たんだよ」
「御気の毒」
「だから同じ仕事をしてるお前も見たことないかな~~と」
「ああ~~」
うん。
納得。
友人は霊感を持っている。
何でも死んだ祖父の火葬された骨を食べてかららしい。
意地汚い。
「お前と違って見らんわ」
「だよな」
ガクリと項垂れる。
そもそもだ。
友人が見えるからと僕が見える訳ないだろう。
何故か心霊現象が多い場所に縁が有ると言ってもね。
「だろう」
「はああ~~」
そうとう滅入ってるみたいだ。
お気の毒。
とはいえ霊など見えんし。
「あ」
「見たのか?」
「いや見てないけど怖かった事がある」
「何が有った?」
「そうだな~~」
あれは何年前の事だろうか?
その当時の僕は長崎市に調理師として就職していた。
二万七千円の安アパートを借りて。
本来なら家賃三万円の所を大家が安くしてくれた。
風呂と洗濯機付でトイレはポットン式だが。
調理師の仕事をしてるから御飯の心配が無いから十分だろう。
まあ~~正確に言えば見習いだが。
朝は九時から夜は十一時まで。
休みは月に二回有れば良い方。
仕事の量が多いわりに見習いなので給料は十万しか貰えなかった。
なのでやる気も起きないのは当然だった。
当然だが疲れが酷く休みの時は寝込んでいる時が多かった。
そんな時だった。
深夜の目を覚ました時の事だ。
音がした。
水の音だ。
ポタポタ。
ポタポタ。
ではない。
ザアアアア~~。
ザアアアア~~。
という音がした。
音の出所が分からなかった。
ザアアアア~~。
ザアアアア~~。
枕で耳をふさいでも聞こえてくる。
どこから?
わからない。
煩い。
そう思いながら僕は耳をふさぎ寝た。
次の日。
何も聞こえなかった。
やはり気のせいか。
そう思い仕事に行った。
深夜。
家に帰り眠ろうとしたら音がした。
ザアアアア~~。
ザアアアア~~。
音が何処からかした。
水音が。
どこだ?
わからない。
寝ようとした。
でも水音が大きい。
昨日よりも大きい。
何だ?
何なんだ?
嫌な汗が出る。
寝よう。
酒を飲んで寝た。
何とか寝れた。
更に次の日。
何も聞こえなかった。
やはり気のせいか。
本当に?
……。
気にしたら駄目だ。
そう思い仕事に行った。
眠い。
くそ。
深夜。
家に帰り布団を敷いている時だ。
音がした。
水音だ。
また。
ザアアアア~~。
ザアアアア~~。
音が何処からかした。
水音が。
どこだ?
わからない。
寝ようとした。
でも水音が大きい。
昨日よりも大きい。
何だ?
何なんだ?
嫌な汗が出る。
寝よう。
酒を飲んで寝ようとした。
だけど水音がして眠れない。
ザアアアア~~。
ザアアアア~~。
と更に大きくなっていく。
どこからだ?
どこから?
まるで地の底から聞こえてくるような……。
地の底?
何もない筈だ。
何も。
ここは山の上のアパートだ。
下に何もない筈だ。
そう何も。
無い筈だった……。
「それで何が有ったんだ?」
僕の話に息をのむ友人。
「何も無かった」
「何も……」
僕の言葉に息をのむ友人。
「原因は有ったけどね」
「原因は何?」
「トイレのウン〇の汲み取りの時に剝き出しになった水道管を役所が壊しただけ」
「おい」
友人のツッコミに目を逸らす僕だった。
いや思い出せんし。
怖い事なんて。
「あ……怖い事が有ったわ」
「何?」
「まあ~~水で溢れたウン〇が便所から出ようとした」
「何それ凄く怖い」
「だろ」
うん。
あれは怖かった。