9 正義の仮面
竜輝はネットで、「国会前でデモが行われる」というのを聞き、マナと様子を見に行った
リュウガに恐怖を植え付けたロブが竜輝を探しているというのに…
「こういうところに魔物は現れやすい」
「デモをやっても認知されなければ何もないのと同じ。認知されたとて、その人達の心に響かなければ何も変わらない。魔物達はそういった"どうせ何も変わらない"という思考のもとデモを嘲笑いに来る」
「それはどうかな?そもそも認知させないためにこのデモ自体を壊しに来るんじゃない?」
「それは確かにありそうだな。根本的にデモには強大な力があるから、拡散されればされるほど魔物側にとっては脅威になるだろうし」
200人程の総理大臣辞職デモが国会前で行われていた
「こっちはお前のせいで生活が困窮してんだよ!政治家の為の政治は終わりだ!」
「みなさんデモお疲れ様です。私も政治家をしているのですが恥ずかしくて仕方がないです」
「私なら確実に国を変えられるはずです。名前だけでも覚えて帰って下さい。米沢と言います」
「あなたみたいなしっかりした人が総理大臣をしてもらいたいよ本当に、応援してます」
「ありがとうございます」
「是非選挙の時は投票を、みんなでこの国を変えましょうね」
この政治家はそう呼び掛けていた
しかし心の中では違った…
「国を変える気なんてさらさらない。だがこの国民の怒りは利用できる。このデモに便乗してどれだけの票を集められるのか見物だな」
デモに参加して同情を買い、票を集めていた様だ
「みんな、倒すべきはあいつではない魔物なんだ。どうにかして気付いてくれ」
「それは無理だよ。どうしてもそれは無理だと思うよ」
「だからこそ私達でやらないといけない」
「そうだよな。確かに魔物に媚びてる政治家たちもムカつくけどさ、あいつらは歳も短いから生贄にならなくてもすむけど、俺達はまだ何十年と生きるんだぞ」
「それはそうだけど…」
すると、竜輝の肩をトントンと誰かが叩く
「すいません、道を尋ねていいですかね?」
「道?いいですけど、どこに行く予定なんですか」
「ある古民家カフェに行きたいんですけど、マップの見方がよくわからなくて…」
「だいぶ複雑な道だな。まぁついて行くくらいなら大丈夫ですよ」
横断歩道を渡り、薄暗いビルとビルの間の路地裏に入っていく
ここがマップの示す近道だそうだ
「すいません、こんな暗いところに来させてしまって」
尋ね人は低姿勢で言った
「全然大丈夫だよ。本当にこんなところで合ってるんならな」
「というと…?」
ガシッ!!
竜輝は左手でその尋ね人の首を掴んだ
「人間の皮をかぶった魔物、だいぶ精密に作られているようだな」
「俺をこの路地裏に連れて不意を突こうとでも思ったか?だが残念だったな、ここがお前の墓場になることだろう」
「なんでバレた…?!だがバレたのなら仕方がない」
すると、だんだん尋ね人の姿が魔物の体に変わっていく
「擬態だと…?」
「だが関係ない。オラァァ!!」
バゴンッ!!
竜輝は右手でその魔物の顔面を殴ると、勢いよく吹き飛んでいった
ズザザ……
「くっそ…」
「わざわざ騒ぎにならないようなところに連れてきてくれてありがとうな、魔物さんよ」
「これが俺の本気だとでも思ったか?」
「笑えるのは今のうちだけだ…逆に自分が追い詰められていることも知らずに」
「じゃあお前の本気を見せてみろ」
「俺の能力はここでは発動しない」
「適当なことを抜かしやがって、ただの時間稼ぎにしか過ぎないぞ!!」
「時間稼ぎが出来ればそれでいいんだ!いでよロブ!」
次の瞬間、緊張感がピシッと走った
「竜輝、下がって!」
「何かが来る…」
ドーーン!!
2人の目線の先に謎の黒い巨体が現れた
衝撃波が彼ら2人を襲う
「サイ、よくやってくれた」
「人間であり魔物でもある彼は、こういう時に助かるんだよ」
ロブの低い声が辺りに響いた
「なんだ、なんだこいつは…こんなやつ一度も見たことがないぞ」
マナはロブに対して言った
「そりゃあな、俺はお前らを殺すために生まれたのだからな」
「サイ、お前はもう自分の場に戻っていいぞ」
サイは再び人間態に戻って路地裏を抜け出していった
「それならどんな能力か確かめさせてもらう。くらえ火炎弾!」
先に竜輝が攻撃を仕掛ける
「ふっ、来たか」
手のひらを広げて前に突き出し、その魔法を吸収する
そしてロブは吸収した炎を拳にまとい殴りかかってきた
バゴーン!!
竜輝はその攻撃を避けたが
その一撃によって地面がえぐれてしまう
「次はお前の身体に当てる」
「くらえ光牙!!」
マナは背後から忍び込み、光り輝く牙で襲いかかった
マナの鋭い牙がロブに当たるも、ロブの纏う装甲によってダメージは1つも入らない
「なんだこの身体…?私の攻撃が全然通じない」
ロブは瞬時に後ろを向き、聖なる力を吸い取る
「弱い。はあっ!!」
バーン!!
マナは打撃をくらって吹き飛んでいった
「邪神の復活は魔界が復活することを示す。そのためにも人間は生贄にならなければならない!」
「魔界?」
竜輝は不思議そうにつぶやいた
マナは竜輝に近寄って言う
「魔界はこの地球から何光年も離れた星のことだ。私の住んでいた天界との戦いによって両方とも破滅したがな」
「今回邪神が復活すれば、今まで以上の力を持つと予測できる。例えお前が聖獣になろうとな!」
ロブはとにかく暴力的に拳を振りかざす
振りかざすたびに出来上がる地面の窪みが、竜輝達に恐怖を感じさせる
防御するのも不可能な程の圧力、必死に避けるしか無かった
「戦え!!」
ロブの叫びが耳に響く
そのまま打撃を竜輝に与える
竜輝は壁にぶち当たり、口から血を吐き出してしまう
「立て…直さないと…」
「魔法を覚えてイキがってるからこうなるんだよ」
「だが私の打撃を食らってもまだ立てるというのか。ふっ、これは面白い」
タッタッタッ…
急いでマナは竜輝のもとに駆け寄った
「大丈夫竜輝?」
「一応…」
「今の私達があいつを倒すにはどうすればいいと思う?」
「そうだな、倒せはしないと思うけど、やるとしたら一か八か方法がある」
「マナには少し戦ってもらう必要があるけどマナがそれでいいって言うなら」
「もちろんいいよ、注意を引き付ける感じね」
ロブは戦闘態勢にはいった
作戦を考えている竜輝のもとに飛びかかる
ドガーーン!!
「コソコソとしてるんじゃねぇぞ…!くそ、あいつら消えやがったな」
「私はこっちだ!」
マナは高く跳び、技を放とうとする
「聖なる矢」
マナの周りにある光り輝く矢がロブに向かっていく
「懲りない犬だ。私の装甲に傷すらつけられないくせにな!」
ロブは聖なる矢を全て弾いて正面から飛びかかってくる
マナは小柄な体型を利用して素早く行動、空中にてロブの攻撃を避け続ける
「追いかけっこは楽しいか?!こちとら遊びじゃねぇんだよ!」
「避けるのも一苦労だ…だが時間さえ稼げれば…」
ズザッ…
それは一瞬のことだった
ロブが吸収した聖なる矢がそっくりそのまま返されてしまったのだ。それがマナの脚にかすんでしまう
マナは宙から落ちていってしまう
ドサッ…
「力のなき者に俺は倒せない」
ロブは不敵な笑みを浮かべながら落ちていくマナを追いかける
マナはすぐさま姿勢を正し、真っ直ぐ来るロブの拳に合わせて横に避ける
瞬時に背後に回り、ロブの背中を踏み台にして高く跳んだ
時間稼ぎのためにロブから離れては離れ、竜輝に近寄らせないように仕向けた
「もう時期竜輝がやってくれるだろ」
竜輝の準備が完了した
手のひらを合わせ開く、開いたところから溜めていた炎エネルギーが球となって増幅していく
「当たるか吸収するかの2択、吸収すれば吸収量を大幅に超えオーバーフローを引き起こすだろう。これが俺の一か八かだ!」
バシューーン!!
「なんだ…?」
後ろを振り向くと、ロブはあわてて手を前にし、吸収の構えをとる
「ふっこれのための時間稼ぎか、馬鹿馬鹿しい」
ロブの腕に全ての炎が纏っていく
想像以上の魔力がロブの身体にみなぎっていくと、ロブの身体が赤く変色しだす。体内温度も上昇していき出す
そして
ボスッ…
空気の抜けるような音がした。そして次の瞬間、音を立てて爆発が起きた
ドガーーン!!
「逃げるぞ!これ以上は戦えない、俺らには…手が負えないんだ…」
闇を正す正義感は負け、ただ死から逃れる為だけに走った
爆発の煙から姿を現すロブ
「あいつらも分かっているとは思うが、この程度ではやられない。まぁ怖気づいたことだろう」
「しかし、中々に大きな爆発音になったな。人が来る前に去るとしよう」
………………
急いで小苗村に戻った竜輝達
「なんて強さだ…あんなのどうやって倒せばいいんだよ」
ただでさえ強かった魔物四天王に加え、新たな脅威であるロブが現れた
それは紛れも無く竜輝を恐れさせた
その日の夜――
竜輝は布団に横たわりながら天井をぼんやりと見つめていた。
あの圧倒的な力、あの破壊の衝撃。あの場から逃げることしかできなかった自分。
思い返すたびに、心の奥がずしりと重く沈む。
この日の記憶を忘れるかのように竜輝はとにかく眠りについた