50 人間達の逆襲
突如現れた集団が竜輝達のテンポを崩してしまう。次々と増えていく不安を前に竜輝は立ち直すことが出来るのか
「別の集団がもし、生贄術の起こった方へ行ったら止めようがない。お前ら、何でここに来たんだよ……」
――いやぁ…繁華街方面から弱そうな魔物達がこっちの方に来てたから、親玉があっちにいるんじゃないかって
「そういうのを聞きたいんじゃないんだよ…」
聖犬信者は深くため息をついた
――でも、今更そんなこと考えても意味ないじゃないですか。それよりあの集団ヤバいんですよ
「そんな集団に入ろうとした自分のせいだろ…?」
――みんな鎌とか鍬とか持って走って死んでいくんだよ。こんなのおかしいだろ!
「うんそうだね、じゃあ集団の中に入って一人でも多く逃げる仲間を見つけて下さい」
――分かってる、分かってるよ…でも、実は俺も化け物に一発何か食らわせてやりたい気持ちが心の奥底にあって
「その奥底の気持ちに従って、お前がおかしいと言ってた奴らみたいに死んでいくのか?もうマジで帰れ」
――いや、魔物に騙されてきたのがやっぱりどうしても許せないんだよ。でも死にたくもないんだよ。分かってくれない?
「あいつに勝つためにはお前じゃ無理だって言ってるが…」
そう言いながらも、聖犬信者は歩き出した
トラックに辿り着くとトランクを開けた。中には武器がずらりと並んでいる。彼はその中から銃を取り出した
――力を貸してくれるんですか?
「あいつの装甲は銃弾でも倒せやしない。でもこれで気分が晴れるなら使えばいいよ。無理だって分かったらすぐ逃げろ」
――ちょっと待ってくれ、これはなんだ…?
男は押しのけて武器の横においてある物を取った
「それか?火炎瓶だ。私のエネルギー装置がエネルギー切れを起こしたときに代わりに雑魚魔物を殺すための物だ。雑魚魔物用のアイテムが効くとは思わないがね」
――でもこれは変に命中率とかいらない
「あいつに一発食らわせたいなんて気持ち、いったいどこから来るのだか」
――英雄になりたい。俺の名前は実川って言います。この一撃であの化け物が死んだら「実川がやりました」っていろんな人に言ってくださいね
「殺せたらの話だな」
………………
目に見えてわかる1人の死によって集団の足は止まった
2mを超える鉄のロブ、狂気で動いていた皆の目がだんだんと覚めていく
――おい、誰かいけよ!
――あんな酷い死に方した奴の後に続けってことか?そもそも言っちゃ悪いけどさ、俺らの攻撃はあいつに効いてない
――士気下がるようなこと言うな!諦めなかったらあんな化け物でも倒せるんだから
――諦めなければ?根性論かよ…!俺はな……死にたくないんだよ、こんなことになるなんて思ってもなかった
――そりゃ攻撃は全く効いてないよ俺も行きたくないよ死にたくないよ。でもあいつを倒さないとこの国は破滅するんだろ。だから誰か…
竜輝は後ろを振り向く
「だから言っただろ、下がったほうがいいって」
集団が止まったことにひとまず安心する
「死への恐怖が伝染していったようだな、じゃあ次に竜輝が死んだらどうなるのか確かめてみるか?」
ロブの高笑いが空を響かせる
竜輝は前を向く、視界には多くの負傷者とロブ
自分だけは諦めてはならないと拳を強く握った
「あいつらの攻撃も、竜輝の攻撃もどれだけ食らおうとも何も変わりはしない」
「いいや、爆撃はお前に効いている。あの集団が近づかなくなった今再び行われる」
「砲撃者はさっき2人殺した。あの武器も弾も有限!!俺を殺せるほど予備はあると思うか?!」
聖犬が竜輝の近くに降り立つ
「確かにもう弾はない。私はこのタイミングであの集団を避難させます。……竜輝、手が震えているぞ?もう限界が近いんじゃないのか」
「いや、せめて俺くらいは諦めちゃいけない。あいつが小苗村を破壊したんだから…」
ロブが重圧を撒き散らしながら一歩ずつ近づいてくる
すると、
集団をかき分けて実川が走って来る。手にはあの火炎瓶があった
――そんな辛気臭い顔してどうした?刃物が効かないなら燃やせばいいじゃないか
竜輝と聖犬は不思議な顔でその男を見つめた
「あの火炎瓶は我々の用意した物……」
――俺はお前を焼き殺して英雄になる!!
渾身の力で放たれた火炎瓶が放物線を描く
「瓶?こんなもので俺が何になると思っているんだ」
パリンッ!!
瓶の砕け散る音と共にロブの足元に猛烈な火炎が広がった
火は瞬く間に這い上がりその巨体を包み込む
「燃える……俺の身体が…!熱い」
実川は走って集団へと走っていく
「よっしゃー!!効いてる効いてる!」
ロブの目は真っ赤に血走っていた
「効いた…だと?浮かれやがってこの小僧が…!」
怒りのままに高く跳躍した
――おい、こっちにくるな!
男の周りにいた人達は実川から急いで離れる
――おい、なんでみんなどっか行っちゃう……
自分を覆う黒い影、男は上空を見上げた
――え?なんで空に…?
バゴォォン!!
実川の身体が踏み潰される
辺りに散らばる肉片、絶句しながら集団は後退り、放射状に散らばっていく
「この熱さ…苦しさ、いつぶりだ」
竜輝は振り向いてロブの方を見る
「おかしい…あいつは鉄の塊のはずだ。なのになぜ「熱い」なんて叫んだ?」
ロブの跳躍はただの攻撃ではなく、必死に火を振り払うための「拒絶」にも見えた。魔力のないただの油の火、それを吸収できず、ロブは本気で苦痛を感じていた
「まさか…」
サソリは幼稚園児を狙って保育施設を研究所に変えた
ィザァンプの空間移動で会った異形も、女神の正体も人間
魔造の創造には人間を研究材料にしている
「外殻は鉄でも神経は通っている。あの中には人間が詰め込まれている……!」
これまでの経験から辿り着いた絶望的な発見。しかしそれこそが唯一の勝機だった
「聖犬、火炎瓶をありったけ用意しろ。魔法じゃない、物理的な炎をあいつに叩き込むぞ!!」
「火炎瓶なら多めに備えておいたからいけるはず」
聖犬は飛んで信者のもとに向かった
「そんなもので俺が倒せるはずがない…だって俺は、人智を超えた存在なんだぞ…!!」
だがロブ自身が一番知っている
魔力で出来た硬い外殻はあらゆる衝撃、魔力を吸収し攻撃を通さない。しかし、このような吸収も出来ない「物理的な攻撃」には抵抗することができないと
焦りを隠すようにロブは竜輝に向かっていく
「オラァァ!!」
バァァン!!
互いの拳がぶつかり合った
ロブの攻撃の激しさが増す中、竜輝は低抗をしない、ただひたすらに避け続けるだけ、これは単なる時間稼ぎにすぎないからだ
「今までは人間達を邪神の生贄にさせるために生き延びさせていた。だがこれ以上抵抗するようならもう……手加減は終わりだ!!」
竜輝に近寄り左拳を振った
竜輝を襲うその単純な攻撃からロブの動揺が垣間見える。身体を仰け反らせて攻撃を避けた
脚の筋力だけで後ろに1回転し距離を取った
ズシンッ!
ロブが地を踏むたびに竜輝の鼓動を揺るがす
叫びながら拳を振るい、連続で重い一撃を放った
一撃一撃を見切り竜輝は素早い動きで避ける
しかし振り切ったロブの拳は地面を割る
「この地響きはお前をやがて硬直させる。鈍くなったお前にこの一撃を放つ!!」
竜輝に向けてそう言うと、一直線に左拳を放った
この一撃だけは当たってはならない。竜輝は横に避けてかわすも、ロブのその攻撃はフェイントでしかなかった
ブゥォッン!!
脚を振り回して竜輝の腹に命中させる
地面に身体を打ち付けながら吹き飛ばされる
竜輝の身体に響き渡る痺れ、ロブの本気を思い知ることとなる
すると、上空から竜輝の名を呼ぶ声がした
声のする方を見ると、そこには聖犬の姿があった
そして次の瞬間…
パリンッ!!
聖犬が落とした火炎瓶がロブに命中
再び炎が身体を包む
「こんな物に俺が負けるわけないだろうが…!」
ロブは怒りに狂ったままに高く跳躍する
そのまま炎の纏った拳を聖犬に振るった
ドゴォォン!!
聖犬は瓦礫の山に身体を打ち付ける
「うっ…次は着地と同時に踏みつけるつもりだな……」
聖犬は立ち上がって再び上空に戻る
バァァン!!
ロブの着地によってビルの残骸が粉砕される
「逃げやがって……!」
すると、瓦礫の煙が晴れた時、そこにはロブを包囲する信者たちの姿があった
「聖犬様に続いて火炎瓶を投げ入れろ!!」
ボワァッ!!
「聖犬如きに命を捧げるとは、自分の命を軽く見ているようだな!」
ロブへ向けて聖犬信者が言い返す
「命を軽く見ているだと?お前らが言えたことか!」
「後悔しても……無駄だ」
そう言うとロブは落ちている瓦礫を簡単に砕き、凶器へと変える
「砕け散れ!!」
無数の鋭いつぶてが信者に向けて放たれる…




