48 静かな暴走
消えたスゥイルをリュウガ達3人で倒さなければならなくなった。だがスゥイルは生贄術を受け、特殊な遠距離攻撃を手にした
リュウガ達の運命やいかに
ビルに挟まれた大通りを歩くリュウガ達
誰もいない繁華街は本来なら音と光で溢れているはずが、息を止めたように静まり返っていた
大通りを歩いた先にはメインタワーが立ちそびえている
「メインタワーの壁にスゥイルの爪跡らしきものがある」
河井は1人で左側に進んだ。数mを進んだ突き当たりにあるビルに飾られたネオンがところどころ切れているのが分かる
ネオンの右角を曲がると、左側にシアタービュー広場が見えてくる。そしてその広場前には魔物の死体があった
河井はリュウガとマナを呼び止め死体のもとに駆け寄った
死体に手を置こうとしたその時、左側、広場の方から禍々しいオーラを感じ取った
河井が視線を上げた先――
奥向かいのビルに取り付けられた巨大なモニター、そして、ビルに挟まれたこの広場
そこにいたのは紛れもないスゥイルだった
「ス…スゥイル!!」
リュウガの叫び声でスゥイルはゆっくりと体をこちらへ向ける
リュウガの存在を確認すると、スゥイルは手を伸ばし爪をリュウガに向けた
「来る…!」
リュウガは横に転がった
ボゴン…!
後方のビルに刻まれた無数の傷跡
リュウガは歯を食いしばった
「やっぱりか、あいつの攻撃は手の先にある対象物にあたる」
「河井は下がった方が良い!」
そう言うとマナは魔力を溜め込み、自身の周りに光弾を生成させた
「スゥイルよ、鎮まりなさい!」
向かってくる光弾、スゥイルは1つ2つと切り裂く
マナの存在も確認すると、スゥイルは爪に魔力を纏わせ斬撃を放った
マナは華麗に飛び越える
対抗してマナも斬撃を放った
斬撃同士がぶつかり合い爆破、それでもスゥイルからの攻撃は止まる気配がない
マナは高く跳躍し、特大の一撃を放った
スゥイルは爪を前に構えその斬撃から身を守る
バーン!
爆発が起き、スゥイルの姿が黒煙に包まれた
「今のスゥイルは目に見えるものだけを襲う暴走状態。今のうちに叩き込むぞ」
2人の戦いから距離を取っていた河井
ビルの陰で息を殺し、ずっと狙撃の機会を待っていたが標的が確認できない
しかし煙から伸びるスゥイルの手、それはマナの方向を向いていた
ミチ…
逃げ遅れたマナの脚に傷がつく
姿勢を崩し、地面を滑るように倒れる
スゥイルが腕を大きく薙ぎ払い、煙を霧散させる
倒れたマナを仕留めるべく、再び照準を合わせようとしたその時、スゥイルの視界の右端に影が走った
振り向くとそこにはリュウガの姿。至近距離まで近づき勢いよく刀を振り下ろす
ガァンッ!
スゥイルはその攻撃を受け止めた
「お前を必ず…助け出してみせるから」
スゥイルの心に一切の変動はない
全身の重みを爪に込めて押し込みリュウガを弾き飛ばす
さらに爪に魔力を溜め、瞬時に追撃を試みる
リュウガは刀で斬撃を防ごうとするも、以前より増している威力を防ぎきることは出来ず、地面に深々と叩きつけられる
すぐさまスゥイルの左手が倒れたリュウガに向けられる
リュウガの衣服が裂かれ始め、皮膚に傷が刻まれていく
10、20と、最初についた傷はさらに深みを増し始める
危機的状況、遠くからタイミングを計っていた河井がスナイパーライフルを構える
「的は動かないから正確に当てられる。くらえ!!」
パァン!!
繁華街に響く銃声
スゥイルは伸ばしていた腕をゆっくり下ろした
向かってくる銃弾をじっと見て至近距離まで来たところを切り裂く
すぐさま河井を狙おうとするも距離が足りず腕を下ろす
再度リュウガの方を見るも、すでにその場にはいなかった
「みんな、こっちまで来ればスゥイルの射程外だよ」
河井は2人に手招きをした
河井のところに集まるとマナは言う
「だいぶ厳しいけど、勝てないわけではなさそう。暴走しているというのは利点にもなり得る」
「ところで、このままいってスゥイルは助かるのか?」
焦ったようにリュウガは言った
「あの術はまだ未知なところが多すぎる。生贄を吸収して力に変えているから乖離することができればいいけど…」
「その方法は一体どうすればいいんだ…」
「正直諦めるしかないと思う。だから私はもう殺す気で行くよ…」
対処法が見当たらないまま焦りと共に時間が過ぎる
スゥイルの足音がだんだんと近づいてきた…
「とにかく足止めして、爪を向けられないように拘束したりすれば勝機はあるかもしれない。でも助けたいならそれなりに覚悟はするんだぞ」
「分かった…(あいつにとっての助け…、待てよ、俺は勘違いしていたかもしれない)マナ…!」
マナは行ってしまった
「やれるだけやるしかないか…」
リュウガは刀を握り直し、覚悟を決めた。
マナが囮となり、猛スピードでスゥイルを翻弄する
スゥイルが腕を振るうたび、マナの横切るビルが破壊されていく
「もうその手には効かない」
マナの周りに光弾が生成される。スゥイルの遠距離攻撃を避けながら放った
1、2発は命中するが、そこからは全て避けられる
次第にマナの光弾が光線へと変わっていった
対するスゥイルは腕を下ろし、魔力を爪に凝縮させた
光線を斬撃で迎え撃つ気だ
ビルの破壊がなくなったのを見てマナは立ち止まった
光線を放ちながら近づく
「マナのやつ、なんか強そうなの隠してるじゃん。よし、たたみかけるぞ」
光線に意識を向けているスゥイルの背後へ回り込むようにリュウガは地面を蹴った
一気に距離を詰め、背後から刀を振り上げる
だがその瞬間、スゥイルの肩が微かに動いた
スゥイルの右腕が魔力で包まれる
振り向きざまに放たれた円状の斬撃が、周囲の空間ごと切り裂いた
リュウガとマナ、2人まとめて襲いかかる
「がはっ……!」
リュウガとマナ、二人は同時に衝撃に吹き飛ばされる
だがリュウガには強い意志があった。全身の痛みを感じながらも、彼はゆっくりと立ち上がる
「俺のせいでスゥイルは復讐ができなかった。そしてもうあいつに残っているものは何もなくなった。あいつは死を望んでいる。もし死が救済になるなら、俺はそれのために本気を出す」
それに応えるかのようにスゥイルも本気を出す
両腕を上げ、リュウガに標準を定めた
「来るなら来い…!!」
覚悟を決めるも、凄まじい傷が瞬時にリュウガを襲った
血飛沫が舞い、身体中に深い傷が刻まれ続ける。それでもリュウガの歩みは止まらない。死を覚悟した者の走りに迷いはなかった
「リュウガ…無茶して」
立ち上がり、マナは魔法を放った
攻撃が当たると、スゥイルの姿勢がわずかに崩れる
意識が遠のく寸前、リュウガはこの最期の一瞬に全てを懸けた
「いけぇ…!!」
体重を乗せて刀を投げた。リュウガも姿勢が崩れ前から倒れる
独自行動した刀がスゥイルに向けて飛んでいく
だが、スゥイルはそれを冷静に弾き飛ばす
刀は空中で回転した
再び刀は軌道を変えるも、スゥイルは魔力を溜め込んだ姿で待ち構えている
「無防備すぎる…か」
リュウガの身体が徐々に脱力していく。魔力が途切れだし刀の軌道が鈍る
地面に落ちるようとしたその寸前
バァンッ!!
遠くから聞こえる銃声
ブチャッ…!!
スゥイルの体を弾丸が貫いた
バンッ!バンッ!
キンッ!ブサッ!
爪を弾き、もう一発は肩を貫く
スゥイルは膝をついて倒れた
「河井…!」
リュウガの目を見開く
後ろを向くと、遠くから親指を立てる河井の姿が見えた
刀が再び強みを増していく。空中で落下しようとしていた刀が再び輝きを取り戻す
背後からスゥイルの心臓をめがけ吸い込まれるように、刀がその背を貫いた
ブサァッ!!
「ガハァッ…!」
血を吐きながらスゥイルの身体が止まる
「これで終わりだよ、スゥイル……」
安心しきってリュウガは気絶して倒れた
死んだはずのスゥイル
すると彼の身体から淡い光が溢れ出す
それは攻撃的な魔力ではない。ただそれは体温の感じる光だった
溢れ出る光と共にスゥイルの姿は以前の姿へと戻っていく
生気が戻っていき立ち上がるとスゥイルは悲しそうな顔で光を見た
「戻って来い…戻ってきてくれ、お願いだから」
その光は赤子の姿に変わると何も言わずに天に昇っていった
嗚咽混じった声で泣きじゃくるスゥイル
後悔しようもしきれない状況、生まれて初めての涙を流した
涙を拭って周りを見るとようやく状況を理解した
横たわるリュウガを見つめ、静かに呟く
「リュウガ!まさか俺を止めるために…?くそっ!なんで俺は何も守れないんだ…!どうして俺はこんななんだ」
「大丈夫だよ…リュウガはただ気絶してるだけだから…」
片足を引きずってマナが近づいてくる
「暴走していてもリュウガはずっと助けたいって言ってたよ」
「リュウガはどうしたら助かる?こんな傷、気絶で済むのか」
「私が回復するから、リュウガのことは心配しないで大丈夫」
「リュウガの回復次第、俺も戦いに協力させて下さい。俺から大切なものを奪ったマカルを殺す。これが復讐ってやつだ」
スゥイルの問題が解決したものの、まだロブという問題が猛威を振るっていた……




