表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

無能と蔑まれ、婚約破棄された聖女様は隣国で『福音の天使』と讃えられ悠々自適に暮らします。一方、私を追い出した王子は偽の聖女を祭り上げてるけど大丈夫?

作者: 滅法弱者
掲載日:2026/02/18

「リアナ・フォン・バーメリア、貴様のような『歴代最低の聖女』とは婚約を破棄する!」


 宮殿の大広間で開かれた夜会。

 ヴァレリウス第一王子の怒号が響き渡る。

 

 隣には不敵な笑みを浮かべるオフィーリアの姿があった。

 聖女の家系以外で聖魔法を扱える、稀有な才能を持っている平民。

 ストロベリーブロンド色のショートボブによく似合ったドレスを身につけていた。


(平民であるはずの彼女がなぜ夜会に?)

 

 ふとした疑問はすぐに解消された。

 

「ヴァレリウス様ぁ……助けてください、怖い顔で睨まれてますぅ。聖魔法を使えるってだけで、またいじめられるぅ……」

「心配するな、これからは守ってやるぞ、オフィーリア」

「ヴァレリウス様ぁ……」


 公衆の面前で抱きしめ合う二人。

 それを見て確信しました。

 

(あぁ、ハメられた……)


 リアナは薄々二人の関係に気づいていた。

 最初は平民が王立学園に通うのが物珍しかったのだろう、休憩時間によくお話をしていました。

 次第に私との会話は減り、彼女と話す時間は増えた。

 その結果、今回の出来事を巻き起こしたのでしょう。


 王子も一人の男性。

 青春を謳歌したい時期に魅力的な女性が現れれば恋に落ちます。

 私の女としての魅力が足りなかったのでしょう、努力不足を認めます。

 

 ですが、不可解な点がまだあります。

 まるで私が彼女をいじめているかのような言動……流石に見逃せません。

 

「承知いたしました。婚約破棄、謹んでお受けいたします。……ですが、私が彼女をいじめていたと思われる振る舞いはおやめください。聖女としての沽券に関わります」

「……聖女? あぁ、忘れていた」


 何かを思い出した王子は彼女の肩に手を回し、声高く宣言した。


「――今宵をもって現聖女の任を解き、オフィーリアを新たな聖女とする!」


 国の守護者と呼ばれる現聖女の更迭が宣言された。

 すると、傍から見ていた実の父親バーメリア公爵が王子の前に進み出る。


「ご容赦ください、ヴァレリウス王子! 娘のリアナはどうなっても構いません! ですが、私の立場は何卒!」


(……お父様?)


「このような親不孝者、公爵家から追い出します! そこらで野垂れ死んでしまえ!」


 振り返りぎわに言われた辛辣な言葉。

 心優しいと思っていた父親は、いざとなると保身に走るクズ親だったのだ。


「……いや、お前は人よりも顔が整っている。しかも元聖女、悪趣味な貴族に嫁がせることくらいできるか」


 公爵の冷たい目が、それが本気だと物語っている。

 私は心の底から身震いした。

 今まで、こんなにも心無い親に育てられていたことに。

 これから辿る破滅しかない人生に……。


「ならば私が彼女を娶ろう」


 見覚えのない男性が王子達の前に佇む。

 黒髪、眼帯で変わった刺繍のダブレット、タイツを身に纏っていた。


「……あ、あなたは隣国のロデリック第二王子! どうしてこんなところに……? それに娶るとは一体?」


 異様にビクビクと震えて応対する公爵。

 顔は一段と真っ青になっていき、さきほどとは違う恐怖を感じているのは見て取れる。


「言葉の通りです。どうせお捨てになるならば、こちらで有効活用させてくれないか?」


 ロデリック王子の発言で何かを察し、顔に正気が戻ってくる。そして、今まで見たことないほど邪悪な顔でゴマをする。

 

「はい! 娘があなたに嫁いでくれるならば、誰も文句は言わないでしょう!」


 不満がありそうなヴァレリウス王子でさえ、公爵の耳打ちで納得していた。


「これからも、我が国と良き関係を築けるように頼むよ!」


 こうしてギリギリのところで拾われた私は、一抹の不安を抱え隣国に向かった。


(破滅しかない人生に希望を与えてくださった人だ、誠心誠意この人のために尽くそう!)


 一息ついた王子が呟く。


「せいぜい安心していろ、リアナ。隣国へ着けば、ボロ雑巾のように使われる毎日が待っているぞ!」


***


 聖女。

 王国を覆う結界を張り、そこに特別な効果を付与する人物である。

 特殊な家系にしか生まれない選ばれた一族。

 そこに一人の天才が生まれた。


 リアナ・フォン・バーメリア。

 歴代でも最低の魔力量で『歴代最低な聖女』と呼ばれている。

 しかし、彼女の実力を知っている者からは、こう呼ばれている、『歴代最高の聖女』と。

 人よりも少ない魔力量を補うために、魔力操作を限界まで極めた結果、魔力を消費せずに聖魔法を使えるようになった。

 これにより本来なら数百人の魔力を一人ひとり集めて行う大儀式を一瞬でこなせるようになったのだ。

 そのため、数百人規模を他の仕事に回せるので、国家の生産性増加につながった。


 一方、新しく聖女となる予定のオフィーリアが、本当は聖魔法なんて使えないとリアナは見抜いていた。

 魔力操作を極めたリアナからすれば一目瞭然で、ただの魔法を聖魔法に見せているだけだったのだ。

 だからせめて人前ではあまり使わないようにと忠告していた姿が、オフィーリアからすれば脅されていた、はたまた王子の目にはいじめていた、と勘違いさせていたのかもしれない。

 どっちみち、婚約破棄なんて未来のないやり方だ。

 オフィーリアが聖女となった暁には、当然聖魔法なんて使えず、聖女の結界に頼り切りだった兵士達は魔物に返り討ちに遭うのは必然だ。


 今頃ほくそ笑んでいる王子達は、その事実を知らない。

 たった一日の過ちが国を揺るがすとは思いもせず、今夜も床に就くのだろう。


***


 翌朝。

 隣国の王宮、執務室にて書類処理に励んでいた。

 聖女の儀式をするための道具を集める間、暇だろうと放り込まれたここは、私が想像していた余裕ある執務室とはかけ離れた場所だった。


「おいおいおい! どっか計算間違ってるだろ! 帳尻が合わないぞ! 収益見直せ!」

「パトリック男爵の軍役代納税がまだだと! またかあの野郎! そろそろ払うか戦うかハッキリしやがれ!」

「この土地でこの作物の収穫量はおかしいだろ! 明らかに誤魔化してんなぁ!」


 鬼気迫る風貌を醸し出していた。

 誰かに何かを聞く合間も見当たらずウロウロしていたら、新人だと間違われて仕事をやらされている。


(あ、頭が回るぅー!)


 本来王子の仕事であった事務仕事を手伝っていたこともありギリギリついていけたが、お昼休憩に入る頃にはクタクタになっていた。

 

「「「エンジェルタイムだ! フォーー!」」」


 お昼休憩の一時間はまともに休める唯一の時間だ。

 事務仲間の間ではエンジェルタイムと呼ばれている。

 この激務には相応しい名称だろう。


 そして、ようやくお話を聞けるようになった。


「冷酷非道のロデリック第二王子?」


 聞けば王子はある事件がキッカケで冷酷非道になってしまったらしい。


 王族殺害事件。

 王族に恨みがある家令が引き起こした事件だ。

 犯人は家令になることで予定を完璧に把握し、二人の子供を誘拐した。

 第一王子と第二王子だ。

 適当な廃墟に連れ込んだ犯人は第二王子の前で第一王子を鋭利な刃物で切りつけていった。

 犯人が捕まるころには第一王子は死亡。

 第二王子は片目を潰されたが、ギリギリ一命は取り留めた。

 しかし、それ以上に恐怖の記憶が残ってしまった。

 

 それから王子は役立たずには厳しくなり、自分の思い通りにならない無能は容赦なく首を切っていった。

 当然、人手不足で仕事も回らなくなってしまった。


(けれど、それは仕方のないことなのかもしれない)


 家令ともなれば相当に信頼されていたはずだ。

 誘拐が上手くいったのも第一王子、第二王子ともに好かれていたからだろう。


(王子が負った心の傷は計り知れない……)


 すると、執務室の扉が開かれる。

 準備を終えたロデリック王子が帰って来たの

だ。


「中々楽しめたようだな。…………何をボケッとしている、時間が惜しい、手早く済ますぞ!」

「あっ、はい!」


 事務仲間の驚いた視線を感じながら、儀式場へ向かった。


***


 この国には聖女が存在しない。

 そのため結界無しでこれまで戦い続けていた。

 日に日に増える魔物の被害は無視できないと考えていたところで、ちょうど私を見つけたらしい。


「……もし、これで結界を張れないと抜かしたなら、容赦なく首を切るぞ」


 ――儀式場の扉を開くと、そこには見慣れない光景が広がっていた。

 数百人規模の人間が状況を理解できず、たむろしていたのだ。


「ちょ、ちょっと待ってください……。なぜこんなにも人を用意したんですか!」

「……? 聖女の結界とはそういうものなのだろう?」


 王子は知らないのだ。

 魔力消費無しで国を覆うほどの結界を張れることを……。

 いや、聖女について知っているからこそ勘違いをしていたのだ。

 かくいう私は儀式を一人でするのが普通だと勘違いしてしまっていた。


「違います! 結界くらい一人でも張れます!」

「無理だろ、普通に考えて。どんなに魔力効率が良くても国を覆う結界には数百人の――」

「いいからあの人達を帰らせてください! 失敗した時は、ちゃんと責任は取りますから!」


 私は意地でも譲る気はなかった。

 理由は簡単、いたたまれなくなったからだ。

 執務室の激務を体感した私にはわかる。


(きっとあの激務はこの儀式のせいもあるのだと!)


「…………責任は取れよ」


 王子の合図で数百人の人達は、一斉に職場に戻っていった。


「…………始めます」


 静まり返った儀式場で、王子からの痛い視線を感じながら結界魔法を唱える。

 透明な壁が王国を覆っていく、それと同時に次は結界に付与する聖魔法をかける。

 一つ目は結界に触れる魔物を溶かす効果。

 二つ目は結界に近づく魔物を発光させる効果。

 三つ目は結界付近の魔物を弱体化させる効果。

 そして、神秘的な光の粒が結界に混ざって溶けていき、数分後には結界を閉じ切った。

 

「……これは、褒美をやらねばな」

「褒美ですか?」

「あぁ、お前は一人で数百人分の働きをした。これからも活躍し続けるだろう。その度、褒美をやるのではたまらない。なんでも一つ願いを叶えてやる」

「なんでも………なら一つだけ」

「言ってみろ、金か? 食か? 娯楽か?」


 私が欲しいものなんて一つしかない。 

 どんな理由であれ王子に拾われて人生が繋がったんだ。

 私の欲しいものは……王子の愛。

 それしかない。

 

「私はあなたを愛します、甘やかします。その分、私を愛してください」

「随分面倒な願いだな。……約束は出来ないが、それでもいいなら……」


***


 一年後。

 聖女が来たことにより、隣国は急成長を遂げていた。

 聖女が張った結界は魔物をまったく寄せつけず、魔物による被害がなくなった。

 これにより対魔物への資金を大幅に減らせ、民に課していた税が削減される。

 魔物を恐れる必要がなく、税も軽い。

 国の印象は向上し、移住者が急増した。

 

 しかし、それすらもオマケにしかすぎなかった。

 一番の変化は、あの冷酷非道ロデリック王子の雪解けだ。


「す、すみません! 仕事が間に合わなくて! どうか首だけは!」

「……部下の仕事を手伝って遅れたんだろう。首なんてするものか」

「へ?」


 以前ならば一瞬で首を決断していた王子は、すっかり温厚になっていた。

 それもこれも聖女のお陰だ。

 聖女と王子が逢引している姿は何度も目撃されており、王子の雪解けの一翼を担っていたのは間違いないだろう。

 ただ同時に、聖女は貴族平民問わず人気があったので脳破壊された人が出没したとか……。

 どうあれ、聖女は『福音の天使』と呼ばれて国を挙げて愛されていた。


 そんなある日。

 夜遅くに因縁深い二人がこの国へ亡命してきた。

 元婚約者ヴァレリウス王子とバーメリア公爵だ。


「助けてくれぇ! ま、魔物に殺されるぅーー!」


 衣服は泥や土でボロボロになり、もうあの日の輝きは見る影もない。


「一体どちら様でしょうか?」

「衛兵か? リアナ・フォン・バーメリアという聖女を呼んできてくれ! 至急だ!」

「……! ――かしこまりました」


 しばらくして衛兵が連れてきたのはロデリック王子だった。


「なぜロデリック王子が?」

「リアナは! 娘は一体どこだ!」

 

 公爵の憎らしい声に耳が腐りそうになる。

 こんなクズに育てられて、よくリアナのような天使が生まれたな。


「何か用ですか? リアナは今就寝中です」

「我が国が滅びそうなのだ! そうさせないためにも、リアナの聖女としての能力が再び必要となったのだ!」

「そうだ! リアナは自分の真の実力を隠していたのだ! あれほど優秀なら見捨てなかったものを……許せん! 帰ってきたら説教してやる!」


 身を以て体験して、ようやくリアナの才能に気づいたようだ。

 リアナ一人で値千金の価値がある。

 だが、それに気づかず嫁がせたのは一体誰なのか……。

 もう忘れてしまったらしい。

 

「……新たな聖女がいるのでは?」

「我々は今まであの悪女に騙されていたんだ! あの悪女、聖魔法を使えると嘘をついていたんだ!」

「王子の言う通りです! ……リアナはまだですか! 事態は一刻を争う!」


 考えなしの聖女交代を決行したのは王子自身だ。

 魔法の種類なんて調べる気になれば一瞬で分かるだろうに……。

 

「と、とりあえず、城の中に入れてくれないか? 寒いんだ」

「そうですね、リアナを起こしに行くためにも!」


 しかし、行く手を阻む衛兵達。

 歓迎する雰囲気ではなく、まるで敵を見る目で王子達を睨んでいた。


「ヴァレリウス第一王子、バーメリア公爵これ以上進まれると、()()()()とみなします」

「へ、変な冗談はやめてくれ。早く中に――」


 王子が一歩踏み出すと、一人の衛兵が剣を引き抜き薄皮一枚肌を切りつける。

 

「ひぃ! い、いきなり何を……?」

「忠告はしました。これ以上、進むことは許されません」 

「な、ならばリアナだけでも……」


 ロデリック第二王子は公爵の喉元に剣を突きつけ言った。


「リアナは『福音の天使』として国を挙げて讃えられています、他国、ましてや貴様らのようなクズに明け渡すとでも?」

「「ぴぃ、ひぃぃぃぃいーー!」」


 冷酷非道の再臨だ。

 あまりの恐ろしさに、衣服がずり落ちているのにも関わらず一目散に逃げて行った。

 国へ戻ったとしても魔物の巣窟に早変わりしているだろうに。


「……これでリアナを脅かす邪魔者はいなくなった。――絶対に逃がさないぞ、リアナ」


 リアナに依存してしまったロデリックは、もう一波乱巻き起こす…………ことはなく、そんな一面も愛した聖女リアナであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ