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【連載版】数年前に亡くなったお祖母様が冷血侯爵との結婚を勧めてくる  作者: 秋色mai @コミカライズ企画進行中


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7/10

7. 恋人ではないです


「もっと腰を入れな! ……ってお祖母様は幽体のくせに」


 お祖母様は基本、私相手にはスケッチブックを使わない。伝わるでしょ、といった感じでジェスチャーでちょこまかと教えてくるお祖母様を横目に、カッ、カァンと良い音を立てて薪を割る。私の広背筋が発達したのは、お祖母様のスパルタな薪割り特訓のおかげ。春の薪割りで大忙しな頃に、筋肉痛にならなくなったのはいつからだっけ。


「はいはい、手袋つけて運びますから。大丈夫ですって」


 そんな季節は過ぎ去って、今は夏。薪棚で保管しているものを割って、料理とかに使う量だけで十分。

 山にある小屋……私が幼少期に育った場所は、お祖母様亡き後は私が引き継いだ。低い天井に薬草やら保存食が吊り下げて干してあって、何より狭い。椅子にクッションは付いていないし、ベッドは藁。王都に住んでいる庶民ですら逃げ出すくらいの場所だ。

 なのに、侯爵ときたら……。


「ちょ、なんですかお祖母様」


 お祖母様が肘で突いてくる。うりうりといった感じだ。この揶揄うような顔、見覚えがある。


「……はよ、突撃しろってお祖母様!」


 ギャン、と言っても、お祖母様はくすくすと笑って宙を浮く。


「確かに、悪い人じゃ、なかったけど」


 侯爵は引いたりせずに、なぜか嬉しそうだった。何度来てもそうで、私は戸惑うばかり。正直どうすればいいのかなんてわからない。

 数年前に亡くなったはずのお祖母様が幽霊になって化けて出て、貴方と結婚しろって言うんですけど。

 なんて、もういっそ全て吐いてしまおうかと思うほどに。


 そんなある日のこと。とてもモヤモヤしながら学園に行くと、何やらとてつもなく騒がしかった。耳元でハエが飛んでいるのかと思うほどで、廊下を歩いているだけでジロジロと視線を向けられる。いっそ変顔かキメ顔でもして差し上げましょうか。


「まさか侯爵が……」

「いくら見た目は妖精でも、さすがに手は出せないと思っていたのに」

「でも最近、密かに婚約を申し込む方々が増えていたと聞きましたわよ」


 ご令嬢方、随分な言い方じゃありませんか。いくら野猿を強調したいからって、普段社交界で壁の花に徹してる私を妖精とまで言うなんて。


「あのブランシェット家に?」

「特にアリスさんなんて、野猿令嬢ですのよ」

「グランウィル侯爵は王家と対立するつもりなのかしら」


 話題になると、噂というのは掘り起こされるらしい。これでお見合いラッシュは終わり……いや、そもそも最近なかったような。どうして?

 教室の席に座った途端、辺りに女子が群がってくる。本当もうなんなんですか、一体。先頭にいた何やら高慢チキそうな人が口を開く。多分高位の令嬢だ。


「ブランシェットさん、つかぬ事をお伺いしますけれど、グランウィル侯爵と婚約されていらっしゃいますの?」


 コニャック……? それは酒ですが。


「今や社交界は、あの冷血侯爵が毎週のようにブランシェット家に通っているとの噂で持ち切りですのよ。婚約者でなければおかしいではありませんか」


 こんやくしゃ……。そうじゃないけど、そうなりたいというか。なりたくないというか。私の方こそよくわからない状況なのですけども。

 高位の貴族はお暇なのでしょうか。毎日せっせか働いて、領主としての仕事をこなしている我が家を見習ってください。と言えるわけもなく。下手したら家族の首が飛ぶ。

 さて、どういなしたものか。否定したところで、火のない所に煙は立たぬと言われてしまえばそれまで。会話すらまともにできない侯爵が、噂を消すなんてことできないでしょうし……。


「その話、詳しく聞かせてもらいたい」


 急に降って湧いた声に、周りがざわつく。私は全身の毛が逆立った。

 この無駄に目立つ金髪。傲慢さを表したような赤い目。憎たらしくてしょうがないような顔。偉そうな態度。まごうことなき、第四王子殿下。


 ()()()()()()()()()


 どの面下げてやってきたのですか?

 今にも飛び出そうな右手を、左手で抑える。さすがに王族を殴ってはいけない。お祖母様は幽体だからと腕で首を絞めようとしていらっしゃいますが。ええ、そのまま鼻に指も突っ込んじゃってください。ああ、いやお祖母様の指が穢れますね。


「どうなんだ?」


 なんて耳障りな声。なんてうざったい。こっちを見るな蛆虫め。

 本当だったら口も利きたくないけれど、この聴衆と王族の前では ……。


「婚約者ではありません。祖母の縁でお付き合いがあるだけです」


 その言葉を受けて、聴衆はまたざわつく。王子、いや王家の権力を振りかざして偉そうぶってる狐王子は、にやりと笑った。なんだか、凄く嫌な予感。


「では、僕の婚約者になってもよいわけだな」


 は?


「嫌ですけど」


 間髪入れずに、地を這うような声を出してしまった。お祖母様も今にも呪い殺さんって顔してる。

 王族からの申し出を断るなんて不敬も不敬。家を抜けてもいいから、どうにかお咎めは私だけにならないだろうか。国外追放は私だけで済んで、一人で家無し金なしの野宿生活に……なったところで困らない。幼少期と何も変わらない。ああ、そうか。


「なっ!! 貴様、何を言って!!」


 今までの問題も全部解決する気がする。侯爵に対するモヤモヤが解消しなかったのは、ちょっと心残りだけど。今更取り繕ったところで。


「私は、貴方と婚約者になるつもりはないと申し上げたのです。殿下」


 六歳の時の恨みは、今晴らした。そもそもこっちから願い下げだった。さあ怒って国外追放にでもなんにでもすればいい。貴方が馬鹿にしたお祖母様直伝の野猿力でどうにかしてやるから。


 ……と思っていたのに。狐王子は、私の予想をはるかに上回る馬鹿だった。

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