20. 結婚を勧められてしまった
私がぼーっとしている間に、話が全部進んでいた。
目の前には婚約に関する書類とサイン。ハンカチで目元を拭い続けるお父様。心底安心した様子のお母様。
「よかった……本当に良かった……」
「アリスだけはずっと心配だったの」
そこにお姉様方が入ってきて、お父様の肩を叩く。
「穀潰しにならなくて何より。よくやったわ」
「私も半年以内に式を挙げるから、その後にしてちょうだい」
その言い方はないんじゃないかい、といった感じでお姉様の隣で苦笑しているお義兄様、実際に言ってやってくださいよ。
「お姉様も結婚するんですか?」
「私はアーちゃんと違って、ちゃんと一発でお見合いが成功して、婚約者がいたもの」
「お姉様の運が良かっただけでしょう」
私なんて初手が王子で、その後もロクな人がいなかったんですから。幽霊のお祖母様がいなければ、大変なことになってたんですから。
「そんなことないわポテンシャルの問だ……この音は、アーちゃんの婚約者様でしょうね」
来客を知らせる鐘の音が聞こえる。メイドたちがバタバタと慌てて動き……はぁ。
玄関に向かえば、ほらこれだ。
「……勘弁してくださいよ」
自覚したベネディクト様は、物凄く重い。それはもう重い。大変めんどくさい。私の甘酸っぱいはずだった初恋を返してほしい。
「プレゼントはもういいですから!!」
「違う。身につけて欲しいだけだ」
隙さえあれば自分の色の服や宝飾品を贈ってきて、どうしても着なければいけない時は着て欲しいと頼み込んでくる。確かに私はこだわりがないけど、だとしても多すぎる。毎回玄関をプレゼントボックスで埋められてしまっては困る。
「これは牽制か何かですか?」
「そうだが?」
「開き直らないでください」
牽制する相手なんてもういないのに。抜け殻のようだった王子は、あの妃候補だった令嬢に慰められているし、誰も冷血侯爵の婚約者に手なんて出さない。御身大切だ。
「そんなに過剰にならなくていいのに」
「アリスは自分の魅力を理解していない」
「興味ないですから」
この間なんて、ベネディクト様が私の瞳の色のペンダントを眺めているところを見かけてしまった。そんな見たいなら、買う前に私を呼べばいいのに。全く本当にどうしようもない。会いたければ会いたいといえばいいし、不安なら不安だといえばいいのに。
優しくて不器用なのが暴走しておかしくなってる……。
「婚約指輪はまだできないらしい」
「別にすぐ必要なものでもないでしょう」
宝石がついているのは嫌だと言ったら、シンプルなプラチナにしてくれた。汚れても磨けばいいし、助かる。結婚指輪はまた別で作るらしいけど。
「とりあえず、山ですか、うちですか?」
なんだか最近では、侯爵領からうちの裏山までの道を整備しているらしい。確かに山が恋しくなるだろうから助かるけども。愛の重さがあっちこっちに行きすぎている。
「汚れてはいけない服だ」
「はいはい、じゃあどうぞあがってください。紅茶くらいは出しますから」
嫁いでしまえば、この行動も治るだろうか。学園を卒業するまであと半年もあるんだけど。
珍しく困った様子の私を見て、お祖母様がケタケタと笑う。
……そう、まだ大きな問題が残っていたりもするのだ。
「グランウィル侯爵家の問題も、王家との因縁も、私の結婚相手問題も解決したんですけど、なんでまだいるんですか? お祖母様?」
もはや頭だけとかいう一見すればホラーなのに。これ以上心残りもないでしょう。もうスケッチブックを書く手すらないのに。と思ったら、なんか手が伸びてきてる。でもこの手、お祖母様のものじゃ……。
「え? 何?」
何やら急いだ様子で、口パクで何か言ってるお祖母様。なになに……。
あ・お・お……。
「なんだ、そんなことか」
お祖母様の視えないベネディクト様が、不思議そうな顔をする。
「さっさとあの世へお帰りください、お祖母様」
その一言で、お祖母様は手に連れて行かれて消えた。最後に手だけ戻ってきて、手を振ってくれた。
「どうかしたのか?」
「いいえ。お祖母様があの世に戻っただけです」
あまりにも普通に言ったものだから、一度納得しかけてから驚くベネディクト様。別に、なんてことはないんですよ。
「ねえベネディクト様」
「ん?」
「結婚式は万霊節にしましょう」
万霊節、死者の日。それは亡くなった人を偲ぶ日。
「そうしたら、お祖母様がお祖父様と一緒に参列できるでしょうから」
「……ああ、わかった」
孫の結婚式も見たかったに決まっているでしょう。
って、なぁんだ。そりゃ、結婚を勧めてくるくらいなんだから、知ってますよ。
ここまで読んでいただきありがとうございました。完結です。ブクマ、リアクション、コメントなど励みになりました。
| ᐕ)お疲れー、アリスおかしいだろー、侯爵もおかしいだろーくらいの軽い感じでポチッと評価していただけると喜ぶ秋色だったりします。
ではでは、またどこかでお会いできたら嬉しいです〜




