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【完結】数年前に亡くなったお祖母様が冷血侯爵との結婚を勧めてくる  作者: 秋色mai @コミカライズ企画進行中


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18/20

18. 恋ってなんだろう


「困るんですか?」

「ああ」


 ベネディクト様が、目の前で跪く。私の手を取って、静かに音だけを立てた。手の甲へのキスは、尊敬と敬意。人としての、尊重。騎士ならまだしも、侯爵がするなんて。


「俺は、何度も君に救われた」


 でも、その真摯な目を見たら、拒否なんてできなくなる。そういえば、初めて会った時に、私を知っているような感じだった。きっと、お祖母様が孫自慢をしていたのだろう。でも……。


「救う……?」


 特に何かをした覚えはない。私は、私のやりたいように生きているだけ。なんなら貴族社会に適応できていないことくらい、私だって自覚している。


「アリスは、強くて逞しい」


 それはそうだろう。山ではそうでなければ生きていけない。強く逞しくなるように育てられ、育ってきた。私はそれを誇りに思っている。


「自分や大切な人を守って、日々を生きている」


 自分を守るのは当たり前。大切な人は、守れる分だけ守っているだけ。


「俺は弱いから、君に憧れた」


 私にとってはそうだけど、ベネディクト様が違うことを、私はもう知っている。冷血侯爵。ベネディクト様。優しすぎて不器用な人。


「君がいなかったら、今の俺はいない」

「随分と熱烈ですね。愛の告白みたいですよ」


 これだから、無自覚は困る。

 揶揄うようにそう言ったのに、ベネディクト様は少し考えてから、小さく頷いた。


「……ああ、そうだな」


 また言葉が足りてな……


「好きだからな」

「………………はぇ」


 まさかそれだけで自覚するとは思えなくて、反応が遅れる。

 わ、私からビシッと言ってやろうと、思っていたのに。あれ、なんか、いざ向こうから言われてみると、だいぶ嬉しいというか。

 動悸がおかしい。顔が熱い。目が見れない。

 これ、気づいてなかったのは私もだったり……。そもそも私も恋愛とかしたことなかったような。


「ん゛ん゛。……やっと気づきました? 恋だって」


 でも、もだもださせられたのはこっちだから。上がる口角を押さえて、咳払いをして、余裕そうにベネディクト様の顔を持つ。ベネディクト様はまったく警戒せずに私の手に擦り寄ってきて、やはりかわいい。ちょっと撫でてあげる。


「正直、少しまだよくわからない」

「でも好きなんですか?」

「そうだ」


 まったくもう。


「生涯、俺の隣にはアリスがいて欲しい」

「私も、ベネディクト様がいい」


 静かに見つめあって、鼻先にキスを落とした。ベネディクト様は少しくすぐったそうに目をギュッと閉じた。


「冷血侯爵と野猿が結婚ですって」

「冷血? 野猿?」

「そう呼ばれてるって、知らなかったんですか?」


 冷血侯爵と野猿令嬢は、いろんな縁が繋がって、恋に落ちた。それはきっと、何かが欠けたらダメで、何もかもが奇跡的なことなんだろう。


 ダンスホールの方から、弦楽器の音がする。どうやらベネディクト様にも聞こえているようだ。


「ここでも、音楽が聞こえるんですね」


 向こうの騒ぎはやっと収まったらしい。随分と長かった。踏まれた人たちが喚いたんだろうか。後でめんどくさいことになった時は、ベネディクト様と一緒にどうにかしよう。

 でも、今は。


「せっかくですし、踊りませんか?」

「ああ」


 ベネディクト様は頷いて、片膝をつけた状態から立ち上がる。


「んん……?」


 いざ踊ろうとしてみれば、ベネディクト様が大きすぎて肩に手が届かない。ヒールも履いてないから、余計だ。


「靴を……」


 ベネディクト様が差し出したヒールに足を入れて、しっかりと確認する。

 私は背伸びして、ベネディクト様は低く構える。不敵な笑みを浮かべる私が、黄金の瞳の中に見えた。

 相手に合わせて、ゆったりとぎこちなく。音楽とは合わなくて、ワンテンポ遅れた動き。


「……不恰好なダンス」

「だが、俺は楽しい」

「私もですよ」


 月光はスポットライトのように私たちを照らし、秋風が黄色く小さい花を散らす。

 ──── それはそれは楽しい夜だった。



 私は両想いに浮かれていて、無自覚でアレだったのが自覚したらどうなるかなんて、これっぽっちも考えていなかった。

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