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【連載版】数年前に亡くなったお祖母様が冷血侯爵との結婚を勧めてくる  作者: 秋色mai @コミカライズ企画進行中


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11. 突撃されても仕方がない



 ……私は決めた。

 もういっそ、こっちからはっきり言ってやる。後で羞恥で悶えたって知らん。慰めてもやらない。こっちが戸惑っていた分、せいぜい苦しめばいい。夏休み中ずっとモダモダするなんて御免だ。その上、新学期が始まれば、また王子たちの相手をしなきゃいけないかもなのに。


「珍しく早起きですね、お嬢様」


 深夜まで部屋のタッセルカーテンを全部三つ編みにしていて、いつもなら寝坊する朝。ジェーンがドアを叩く前に起きて、出迎えてみた。ジェーンは腰を抜かして尻もちをついて、絞り出すようにそう言った。満足だ。


「おはよう。今日は私、普通の服にしようと思うの」


 ジェーンがごくりと唾を飲みこむ。


「どこか具合でも……」

「悪くないわ。ただ、今日は山に帰らないから」


 しばしの沈黙。震えるジェーン。


「い、いやったぁーー!! お嬢様を飾り付けられる!!」


 今まで私付きメイドというのは基本的にローテーションだったというのに、ジェーンは初対面で私付きを志願し、一度も異動願いを出していない。というのも、私の顔が物凄く好きらしい。変な子だ。


「メイクもしていいですよね!?」

「好きにしてちょうだい」


 だからまあ、こっちはジェーンに任せておけば大丈夫だろう。


 はっきりと言ってやる ということはベネディクト様と求婚する ということ。その割に、私はあの人のことを知らない。

 まず、名前はベネディクト。グランウィル侯爵家の当主。これは流石に知ってる。名前で呼ばないとちょっとムッとすることも。

 濃紺の髪は太くて癖があり、黄金の目は綺麗。コミュニケーション能力が乏しく、表情筋に難がある。


「お嬢様、ちょっと上向きになってください」


 でも、かなり不器用だけど優しい。優しすぎて弱いけど、体格が良くて身のこなしに隙が無い。あれは多分剣術や体術を一通り習ってるし、今も鍛錬を続けてそう。


「お嬢様、顎を引いてください」


 あと手紙が長い。遠くから見ると三十手前くらいに見えるけど、顔をよく見るとそれよりは幼い感じはする。どちらにしろ、年の割に天然。無知。多分私が初恋。


「……のはず」

「何がです? ほら、完成しましたよ!」


 やり遂げたように額の汗をぬぐうジェーン。鏡の中の自分は……なんだか凄く普通の貴族の娘のようだった。髪は結われ、顔には何かが塗りたくられている。唇がつやつやしている気がする。


「ああもう、かんっぺきな美少女。素材がいいと楽しくて仕方がない……」

「なんかよくわからないけど、楽しそうでよかったわ」


 まあこれで、門前払いはされないだろう。貴族の令嬢らしくは見えるはず。


「お嬢様、どちらへ? グランウィル侯爵がいらっしゃるまでまだ時間がありますよ?」

「だから、突撃しに行くのよ」


 相手を知りたいのなら、相手の領域に行くべし。やっと薪を綺麗に割れるようになったベネディクト様を知っていても、侯爵のベネディクト様は知らない。だから、知りに行く。単純明快なこと。


「へ?」


 侯爵の家に、子爵のそれもただの娘が約束なしに訪問するなんて前代未聞だけど、相手はベネディクト様。まず嫌がらないだろうし、予定がないのは知っている。


「ちょ、お嬢様!? 誰か、旦那様かフレヤお嬢様を呼んで!!」


 おそらく家族で朝食中よ、ジェーン。それに、たとえ誰になんと言われようと、私は行く。これ以上モヤモヤしていたくない。


「……だって、もし私の勘違いだったら恥ずかしすぎるの」

「お嬢様が恥ずかしいって言った!?」


 私だって、本当に親愛でしかなかったら、ベネディクト様が私のことが恋愛的に好きじゃなかったら……そう思わないわけじゃない。もし真顔で断られでもしたら、大暴れする自信がある。


「お待ちください、お嬢様ァァァ!!」


 ジェーンが膝から崩れ落ちた。鍛え方が足りない。その間にさっさと家を出た。


「日が暮れるまでには帰ってくるわ」


 侯爵というのは大事な場所を任されることが多く、大事な場所というのは国境付近などを示す。山は舗装されていないから通常は迂回しなければならなかったり、それ故にまったく取引していなかったりと、隣領という感覚はまったくないものの、我が裏山の向こうは侯爵領の端っこだったりする。そして、裏山を根城とする私が、安全で近い道を知らないわけがない。我が山小屋に寄れない道なのが残念だけど。


「ここが……」


 目の前にそびえたつのは、立派な豪邸。華やかというよりは荘厳で、大きさは我が家と比べ物にならない。畑くらい広い庭に、高い塀、門番までいる。さすがは侯爵家。財力が凄い。


「でもまあ、この程度なら登れなくない」


 スカートが邪魔だけど、許容範囲。


「おはよう」

「っお、はようございます……?」


 門番は口を開けたまま放心していた。顔が赤かったけど、体調不良とかだろうか。侯爵家の警備がこれで大丈夫なのか、というのは置いといて、後でベネディクト様に教えてあげよう。きっと休ませるはずだから。


「よいしょ。うん、見事な着地」


 あっけなく入れてしまった。このまま正面突破してもいいけど、ありのままを見たい気もする。

 というわけで、今度は屋敷の外壁を登る。ガーゴイル……雨どいは掴まるのにちょうどいい。


「……あっ」

「!?」


 登っている途中で、ベネディクト様と窓越しに目が合ってしまった。

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