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第3話 検証、そして魔力の補給

 ◆

「『エンチャント・フレイム』!」


 ゲームと同様に魔法を唱えると、手にした片手剣が炎を纏った。良かった、魔法は問題なく使えるな。私はそのまま、剣をブンブンと振り回す。フルダイブした世界でも、剣の重さや触感は再現されていたが、やはり今の方がよりリアルだ。そして、エルフの筋力では、大剣の様な重すぎる武器は持てそうにない。


(武器……そういえば、装備!アイテムボックスは使えるのか?)


 スマホでの画面拡大(ピンチアウト)の要領で空間を指でなぞると、ウィンドウ画面が空中に出現した。これもゲームと同じシステムだ。つまり、画面を切り替えれば……。


(よし、アイテムボックスは無事だ!無事なんだけど……いかんせん、中身が貧相だな……)


 中にあるのは、買い替え前の装備、それとHP回復用ポーションが数本。MP回復ポーションを初めとする有用なアイテムは、昨日のイベントで使い切ってしまった。


(待てよ……プレゼントボックス!イベントの抽選が間に合っていれば、何か使えるアイテムがあるかも!)


 一縷の望みを賭けて、プレゼントボックスを確認する。運営からの贈り物は一度このプレゼントボックスに送られ、この画面で受け取り処理を行わないとアイテムボックスに保管する事が出来ない。


 中身は先ず、ハズレ枠の銅装備と鉄装備がそれぞれ数十本。次にガチャチケットが20枚にSSレア(最高レア)武器との交換チケットが2枚。そして換金用の銀貨と金貨、銀塊に金塊だ。

 う〜ん……無いよりは絶対にマシだが、今すぐ使えるアイテムが無いのがなぁ……。そして普段は有難いガチャチケットや交換チケットが、この場においては役に立たない紙切れなのが悲しい……。どこ探しても、ガチャ画面がないのだから使い道が無い。まぁ、ティッシュの代わりぐらいにはなるか?

 他には、当たり枠の『オリハルコンの弓矢』、『ミスリルの鎧』、『アダマンタイトの大剣』か。私が装備できるのはミスリルの鎧だけだ。他二つは私もルーナも装備できない以上、宝の持ち腐れである。

 こうなったら、街を目指すしか無いな。街に出ない事には、ハズレ装備や換金アイテムを売る事が出来ない。


「よし、差し当たっての方針は決まった。街を目指し、手持ちのアイテムを換金し、活動資金と拠点を確保する!」


「承りました、アイリス様」


「それで、だ。念の為にルーナ、君もこの世界で魔法が使えるか検証して欲しい。右も左も分からない世界だ、君の力も存分に頼らせて欲しいんだ」


「それは……大変嬉しいお言葉なのですが……」


 ルーナは身体の前で指を合わせながら、モジモジと身体をくねらせている。


「どうしたんだ?」


「私、MPがありません……。今は空っぽです……」


 私はすぐさま、ウィンドウ画面をスクロールして、ステータス画面へと移動する。確かに、ルーナの魔力量が『0』になっていた……。


(しまったぁぁ!イベント戦でMPを使い切ったのか!)


 ボス戦で使って貰った強力な支援魔法、あれの所為でルーナの魔力が空になってしまったのだ!

 私もMPをだいぶ消費していたが、『神樹の滴』という『種族スキル』を習得している。プレイヤーはアバターに選んだ種族によって、その種族特有のスキルを獲得できる。私が獲得しエルフの種族スキル『神樹の滴』は、草原や森林といった植物系フィールドに居る時、自動でMPが少しずつ回復するパッシブスキルだ。運良く草原に転移したので、眠っている間に魔力がほとんど全快となったのだ。


「マズいな……今は魔力ポーションが無い。ルーナの魔力を補給する方法が無いぞ……」


「アイリス様。一つだけ、方法がございます」


「本当か?なら、すぐに実践しよう!この世界はまだ分からない事だらけ、君も魔法が使えた方が良いに決まっている!」


「その……厳密には、アイリス様から『魔力を分けて頂く』形になり、自らの主人(あるじ)に対して大変不躾で無作法な申し出をする事になってしまうのです。もし、ご不快でしたらば、今の申し出は却下して頂きたく存じます」


 ルーナは、心底申し訳なさそうに言葉を紡いだ。


「何だ、そんなことか。今は緊急事態、私の魔力なんて安い物だ」


 実際、この場では無料で沸いて来るので安い物だ。

 それを聞いたルーナは、表情を明るくさせた。


「では、マスター。失礼致します」


 そういうと、ルーナは自分の顔をずいっとアイリスの顔に近づけた。彼女は大理石の彫刻を思わせる様な美しい手でエルフの金髪を撫で、その手を後頭部へと滑らせる。そして彼女はアイリスの頭を抱き寄せ、


「……んむっ」


 エルフの剣姫の、唇を奪ったのだ。


「んぐっ!?」


「……ちゅる……ちゅうぅ……」


 ルーナの舌が私の口内に入って来る。頬の裏、前歯の裏を撫でた後、彼女の舌は私の舌に辿り着く。待ち侘びた様に、私の舌へ絡みついた。まるで迷子の子供が母親に抱きつくように、甘える様に纏わりつく。


「んむっ……んんんッ!」


 口の中いっぱいに、甘い味が広がった。彼女の舌は、私の口にある唾液を余す事なく味わっている様だ。官能的な快感に、脳が、理性が水飴の様にドロドロに溶けていくのが分かった。


(振り解くべきなのだろうか……?ああ、でも、頭がふわふわして、考えがまとまらない……。力が……抜け……)


 突如として、身体を浮遊感が襲う。遂に足に力が入らなくなり、ルーナに抱き抱えられたのだ。


「んッ……ぷはぁッ……!アイリス様の魔力、美味しゅうございました……♡」


「はぁ……はぁ……。ルーナ、一体何を?」


「お忘れですか?私の身体には、サキュバスの遺伝子が用いられている事を」


 そうだった。確かホムンクルスの身体は、『組み込んだ遺伝子の特徴を反映させる』って設定があったな。ゲーム内の図鑑に書かれていた、単なるフレーバーテキストの筈だったが、この世界ではその設定が『現実』の物になったのか。


「私の場合、創造主であるアイリス様限定ではありますが、先程の様に口付けを通して魔力の補給をする事が出来ます。逆に、私の魔力をアイリス様に分け与える事もできますわ♡」


「そ、そうでしゅか……」


 脳内に滞留する甘い刺激の所為で、呂律が回らない。彼女に支えられたままウィンドウ画面を開き、ステータスを確認した。彼女のMPは『54/240』と表示されており、かなりの魔力を回復できていた。


 だが、付随する代償、もといご褒美は大きかった。今まで感じていた罪悪感すら、忘れさせる程に甘い感触、だ。


(とんでもない事をしてしまった……。まさか、趣味でやっていたゲームでこんな事が起こるなんて……)

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