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女の子だった。

フィロは物凄い爆発音で目を覚ました。

地面が呼吸したような鈍い音が明け方のトウキョウに轟いた。

音は緑色の水を伝い、虚な建物の間を飛ぶように反響した。


第16前哨基地は小さなはしけにコンテナを乗っけたような水上基地だ。

大災渦の時に唯一生き残った物だ。その時までは海上自衛隊の移動基地だったらしい。


フィロが目を擦りながら自室から出るとミゲルが双眼鏡片手に走って来た。


「新米!起きているか?丁度いい。今向こうの方に何かが落ちたんだ。一緒に来い。」


ミゲルに連れられるままにフィロは昨日のようにボートに乗せられた。

そこには、もうヴェルケと女性が乗っている。


「君がフィロ君か?」

女性が握手を求めた。

「私は考古学者の綸子・ニシキだ。よろしく。」


「なあフィロ。お前だいじょうぶか?」

ヴェルケが心配そうにフィロを見た。


フィロは頷いた。


「なら行くぞー。」

ミゲルが元気よく言い放った。


その日は晴天だったが、青い空を塗りたくるように黒煙がシブヤの方から登っていた。


「多分北日軍の奴らだろう。」

ミゲルはポケットに手を入れたかと思うとリボルバーのような変わった拳銃を取り出した。

「コイツはキアッパ・ライノのライセンス生産品。一二年式回転式自動けん銃だ。」

そう言うとフィロの方に放り投げた。

フィロは慌ててこの銃器をキャッチした。


「大日軍の奴らがごまんと持ってやがる代物だ。今から墜落地点に行くから護身用に持っときな。」


フィロは拳銃を胸ポケットにしまった。


「もうすぐだ。」

ニシキ博士がブローニングHP拳銃に弾を装填しながら言った。


飛行機の残骸は沈澱した古い瓦礫の島周辺に散らばっていた。


「こりゃあ酷いな。」

ヴェルケはエンジンを止めた。

ボートは日に光を浴びて光る緑色の海面を切るように進み、瓦礫の島の前で止まった。


「おかしいな。遺体がないぜ。」

ミゲルがボートから降りながら呟いた。


ヴェルケやニシキ博士、フィロも島に上陸した。


辺りは黒くなっており、変な匂いが充満していた。


「やっぱり北日軍の輸送機だったらしい。」

ニシキ博士が端が焦げた残骸を拾い上げた。

そこには桜をあしらったマークが微かに書いてあった。

「なんでこんな所に飛んで来たんだろう?」


「なんかを輸送していたんじゃないか?武器とか。」

ヴェルケが辺りをウロウロしながら言った。


「その割には武器が少ねえ。」

ミゲルはどこから取って来たのか分からないがHK433アサルトライフルと数個のグレネードを見せ付けるようにした。


フィロは手じかの鉄板を持ち上げてみた。

鉄板の下には何か筒状の物が転がっていた。


筒状の物をグッと引っ張り出すと、フィロはビックリした。


なんとそれはRPGだったのだ。


ヴェルケがこちらを見て目を丸くした。

「RPGじゃないか!」


ミゲルやニシキ博士もフィロの見つけた“殺傷兵器”の周りに集まってガヤガヤと話し始めた。


フィロはしばらくRPGを持って話に耳を澄ましていたが、突然またあの目眩が襲った。

今度はもっとひどい。物がグニャグニャと曲がっているように見える。

あのムラムラした物が今度は前と比べ物にならないほどの勢いでクワッと上がって来た。

RPGをニシキ博士に預けると猛スピードで島の反対側にある大きな残骸の反対側に走った。


ここなら安心して吐ける。


そう思った次の瞬間、目眩も治る事が起こった。


緑色の水面が揺らいだかと思うと何か白い物が海底から上がって来た。

最初はボロ切れかと思ったが、段々水面に近づくにつれてその形が取れて来た。


人間だ。それも16歳ぐらいの女の子だ。


仰向けの状態で浮かんで来た彼女は白いワンピースを着て髪の毛は透き通るような白色でショートヘアだった。


ー死んでいるのか?


フィロはジャブジャブと水の中に入って島の岸の方に引きずって行った。

起きる気配は全く無い。


島のなだらかな岸に引っ張り上げると、脈を測ってみた。


生きている。

血管がヒクヒクと動いているのが鮮明に分かった。


どこから来たんだ?


まずフィロは一眼見てロシア系ではないと確信した。彼自身が日系ロシア人だからだろう。


ならヨーロッパ系か?


ミゲルはスペイン人、ヴェルケはドイツ人だが違う。


アジア系?


ニシキ博士は日系中国人だ。だけど違う。


その時彼女は目をゆっくり開けた。色はまるで深い海を思わせる青色だった。


フィロは驚いて後退りした。


「ここは..........。」

その声は透き通った着飾ってない綺麗なものだった。


「おい!!フィロ!ソイツ誰だ!!」


突然背後から怒鳴り声が聞こえた。

振り向くとミゲルとヴェルケが立っていた。

ミゲルは例のアサルトライフルを構えて、ヴェルケはグレネードを片手に持っている。


「北日軍の奴か?」

アサルトライフルの銃口が女の子の方に向けられた。


「それか捕虜かもな。」

ヴェルケが付け足した。


「まあ待て。相手は女性だ。」

二人の後ろからニシキ博士が現れた。


「話し合おうじゃないか。男はもっと女性に紳士的に接するべきだ。」


「今はそんな場合じゃないだろ!」

ミゲルが怒鳴った。


ニシキ博士はグッと顔をミゲルに近づけた。


「ばかやろう。大災渦の前は女性の立場が男どもより低かったんだよ。」

押し殺した声がミゲルを圧倒した。

「私も男に付けられた深い傷をおっているんだ。そんな秩序はこの“無秩序”の世界に持ち込んで何になる。」


ミゲルは銃口を下に下げた。


ニシキ博士は前に向き直るとフィロと女の子の方に歩み寄った。


「フィロ君は離れてくれ。」


フィロは言われた通りにミゲル達の方に戻った。


「ったく........。あれだから俺は博士を嫌っているんだ。」

ミゲルがボソリと呟いた。


「そうかなぁ。僕はタイプだと思うぜ。」


「タイプだって.......ん?」

ミゲルがヴェルケの方を向いた。


「お前なんか喋った?」


「え?」


二人は同時にフィロを見下ろした。


「なにか?顔になんか付いている?」

フィロが口を開いた。


「うわあああああああああ!!!」

ヴェルケは叫び声を上げた。


ミゲルも目を見開いて口をポカーンとあけたまま突っ立っていた。


「どうして.......あれ?」

そこでフィロもハッと気付いた。


「「「喋った!!!!!」」」


「お前喋れたのか?新米?」

ミゲルは驚きを隠せてない様子だ。


「僕も知らないよ!」

フィロも信じられないようだ。

「いきなり出来たんだ!!」


「緘黙じゃなかったのか?!」

ヴェルケはパニックになりかけていた。


「なんか急に糸がほぐれたような感覚がして.......そしたら喋れた。」


「なんじゃそりゃ。」


そう言ったのも束の間


「え?!!!天使!??」


今度はニシキ博士が叫び声を上げた。


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