天使
北日軍の科学責任者サムイル・”セルゲイヴィッチ“・ヴァイマン教授はまるで虎のように笑っていた。
今彼が手渡された報告書にはまったくバカけた事が書かれていたのだ。
「天使だって?!ハハハハハハハハハ!!!」
彼のニホン語は流暢でロシア人のハーフという事を除けば完璧なニホン人だった。
「本当です!」
マリー・J・シャウベルグ。このドイツから引っ張ってこられた29歳の生物学者は赤面しながら叫んだ。
「こんな、ほら話は幼稚園児でも信じないぞ。」
サムイル教授はさらに詰め寄った。
「い......生け取りに.....したんですぅ.......。」
マリーは俯いてしまった。もうこれは負け確定だ。虎の餌食になるしかあるまい。
「生け取りだと?」
突然、サムイル教授の圧力が緩まった。彼もこれは意外だと思ったらしい。
「はい.........。ホッカイドウ上空でレーダー網に引っかかり、F35戦闘機が撃墜しました。現在は治療を受けて良くなりましたが......。」
「なりましたが?」
サムイル教授は身を乗り出した。
「その......“羽”を取られたんです。」
「羽?」
「はい。撃墜した後に落下した地点がカラフトで........。我々が墜落地点についた時には羽は、もぎ取られた状態でした。おそらくロシアの仕業でしょう。」
マリーが説明した。
「ともかく天使の本体は明朝、ニイガタに到着します。」
「空輸かね?」
「はい。輸送機で輸送します。」
「わかった。」
サムイル教授は窓の外を眺めた。
「..........綺麗な星空だな。」
窓の外では水上滑走路の範囲を表すブイが点灯しており、車輪の代わりにジェットスキーをつけたF35戦闘機が堤防に横付けにされていた。
あの堤防だって大災渦の前までは鉄筋コンクリート製のビルの屋上だったのだ。
全てあの大災渦のせいだ。
大災渦......。
ザ・メインストルムとも呼ばれた人類が犯した最大の罪であり神が下した決断......。
事の発端はSky Arrowという[AVDRS\アヴドロス]列島警戒防衛報復システムをオキナワに設置したのが始まりだ。
20XX年。八月九日18時20分
Sky Arrowの自動感知システムにエラーが発生。西側諸国の領土に核ミサイルを発射した。
皮肉にも目標にはニホンも入っていた。
八月九日20時57分には世界中が混乱に巻き込まれた。
アメリカの自動報復装置も作動しロシアへ自動的に報復を開始した。
こうして大災渦は始まったと伝えられている。
神は決断したのだ。人類を地上から抹消する事を。