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大魚影

魚影はゆっくりと煙の方に移動し始めた。


ヴェルケはそれに合わせて今度はオールで漕ぎ始めた。


黒い煙に十分に近付いた次の瞬間


バシャ!!!


物凄い水飛沫と共にナマズのような醜い顔が緑色の水中から姿を現した。

それと共に物凄い悪臭がフィロ達の鼻を突いた。


「銛を突き刺せ!!」


荒れ狂う水飛沫の舞う中でヴェルケの怒鳴り声が聞こえた。


ミゲルはパッと飛び跳ねると銛をバカでかいナマズの目に突き刺した。


「フギャーーーーー!!!!」


ナマズは叫び声を上げると目に飛びついた奇妙な物体を振り払うためにミゲルごとザブンと海の中に潜った。


「クソ!もぐった!」

ヴェルケが怒鳴った。

「フィロ!コレを!」


そう言って彼がフィロの足元に投げて来たのは何か硬い箱型の物だった。


「そいつは音波放出装置だ!!!」

ヴェルケが辺りをキョロキョロ見回しながら叫んだ。

「海に投げ込め!そうすりゃあ、アイツはそれに反応してそれに食い付くはずだ。」


その時、ボートから少し離れた海面からアフロヘアーがヒョッコリ顔を出した。


「早く!投げろ!!」

ヴェルケに急かされてフィロは装置をアフロヘアーとは反対の方向に放り投げた。


ポチャっと辺りに心地のいい音が反響した。


ミゲルは船縁に手をかけると素早くボートによじ登った。

そして次の瞬間、装置は緑色の海中に引き摺り込まれた。


「ひゃー。一丁前が台無しじゃないか。」

ビチョビチョに濡れた戦闘服を脱いで、下着姿になったミゲルが言った。この状態でもなんとかタバコのライターを付けようと苦戦している。


「タバコより計測器は?!」

ヴェルケがライターを引ったくった。


「ちゃんとあるぜ。まったく......浄化剤の意味は無かったってことだ。」

そう言いながらミゲルは紫色の血がついた銀色の円筒を突き出した。

横幅は30センチメートルであり、太古に使われていた物らしく所々錆び付いている。中央には赤い文字で[ガイガーカインター]と書かれていた。


「北日軍の奴ら......。あの薬のせいで変異がどんどん加速してやがる。おまけに魚も水質も以前より澱んでいる。」


「大体こんなのになったのは太平洋の向こうにあったアメリカとかいう国のせいじゃないか。ニホンに核兵器を持ち込ませて.......。」


「確かSky Arrowていう[AVDRS\アヴドロス]だろ。」


「そいつのせいで大災渦が.......。」


二人が意味のわからない事を喋っている時、フィロの喉が急にカッと熱くなった。

まるでナイフを突き立てたような熱さだ。

フィロが吐き気を覚えた時


「ウッ!!」


物凄い目眩が襲い、フィロはグッと目を瞑った。

何かムラムラした物が腹からクワッと上がって来た。

フィロは口元を必死に押さえたが、そのうち耐え切れなくなり


「オェエエエエ!!!」


吐いてしまった。


「おい!大丈夫か?!!」

ヴェルケの声がぼんやり聞こえた。


もちろん自分の汚物を見たくは無いが人間とは好奇心が抑えられない生物だ。

フィロは薄く目を開けた。


視線に飛び込んで来たのはグロテスクな見た目をした汚物でもなく、白っぽいベチョベチョした痰でもなく、真っ赤な血で染められた自分の手だった。


「放射線にやられたな!」

ミゲルが慌てた様子で立ち上がった。


フィロはそんな声はよそに自分の手をボーッと見つめていた。


-昨日もそうだった。だけどこんな量じゃなかった。

やっぱり日に日に自分が衰弱しているのが分かる。

皮膚の細胞を貫いて遺伝子を木っ端微塵にする目に見えない恐ろしい放射線.......。

「これが承知の上で入ったんだろ。」

そう自分に言い聞かせるも返ってくる返事は


「このまま放射線の餌食になりたく無い!!!俺の明日はどうなるんだ!!え!??なんか答えろ!!!お前が己の未来をどぶに捨てたんだ!!!」


その度に言った自分は思うのだ。



「.....未来なんか嫌いだ........明日なんか来なければ良いのに............もう来ないでよ......。」


「大丈夫か?!おい!」

ヴェルケが体を揺さぶった。

その揺れで口の中に溜まっていた残りの血が流れて来た。


「とにかく帰.......。」

ミゲルの声が聞こえたと思った瞬間、フィロの意識は下へ落ちていった。


下へ......


下へ.....


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