C-チップ
電車に乗ると、フィロ達は手直の席に座った。
そこでフィロは奇妙な光景を目にした。
車内には人が点々と乗っているのだが、その全員がボーと空中を見つめているのだ。
時々、手をちょっと動かすだけで、まったく動かないのだ。
虫でも飛んでいるのかと思ったが、羽音さえもしない。
「C-チップだな。」
ミゲルがフィロとテンに説明しだした。
「人間の脳に埋め込んで使用するスマートフォンみたいな物だ。確か中脳に映したい情報を伝えると、本人にしか見えない画面が現れるらしい。詳しい仕組みは機密にされているけどな。」
「すっごい、うろ覚え。」
テンが突っ込んだ。
「しょうがないだろ。なにしろ情報が少ねえし.........。WITGの奴らなら知っているかもしれんが......。」
「よし。着いたぞ。」
一同がニシキ博士と一緒に降りた場所は絵に描いたようなスラム街だった。
綺麗な建物が立ち並んでいた空港周辺とは一変し、砂埃まみれの家が立ち並んでいた。
「ここに本当に友達がいるの?」
テンは相変わらずニシキ博士に手を握られている。
「ああ。すぐそこだ。」
こうしてアスノヨゾラ哨戒班が向かったのは裏路地にある如何にも怪しいシャッターの前だった。
ニシキ博士はシャッターの横に付いているドアを3回叩き、少し間を空けてから2回叩いた。
「誰?」
「ニシキだ。」
最後に名前を言うと鍵が外れる音が聞こえ、ドアが開いた。
「ニシキだ!!おねーちゃーん!!ニシキが来たよ!!」
中なら顔を出したのは二十代ぐらいの若い女性だった。
Tシャツに作業ズボン、カーキ色の作業作業エプロン。頭には赤いスカーフを巻いていた。
「久しぶりだな。ソフィー。」
ニシキ博士はソフィーと呼ばれた女性の頭を撫でた。
アスノヨゾラ哨戒班の中で1番背が高いニシキ博士がソフィーと同じ年頃とは思えなかった。
「この人達は?」
「コイツらはちょっと用事があるから連れてきた。エリーフの所に案内できるか?」
シャッターの中は工房のようになっていた。コンクリート製の壁には釘が打ち付けられており、大小様々の銃が掛けられていた。
真ん中には作業机が陣取って、その上で何か組み立てている女性がいた。
「おい。エリーフ!!」
ニシキ博士が怒鳴った。
「お前の幼なじみが来たぜ。」
エリーフと呼ばれた女性はパッと顔を上げた。
しかしその顔ときたら、ソフィーと全く同じなのだ!
服装もエプロンがモスグローンの事とスカーフの代わりにゴーグルという事を除けばソフィーとは瓜二つだった。
「来たか、誰にもつけられていないな?」
「大丈夫だ。エリーフ。」
そう言うとニシキ博士はフィロ達に向き直った。
「この二人は私が知る中で最高のガンスミス。エリーフ・シュピーゲルトーンと
ソフィー・シュピーゲルトーンだ。」
エリーフとソフィーの二人が並ぶとフィロは一瞬どっちがどっちか分からなくなった。
こんなに瓜二つの人が存在するだろうか。
体型、輪郭、眼の色から髪の色、身長から全て同じだ。
「さて、ニシキ。要件は何だ?うちの店に迷惑がかからない方が良いが.....。」
エリーフが腕組みをしながら言った。
「それは大丈夫.......。」
そこでニシキ博士はパッと工房の一角を見た。そこだけ機械などの影で暗くなっている。
「他に誰かいるな?」
「ああ。後でサプライズとして言おうとしていたけど.......バレちゃったから仕方ないか。」
ソフィーは暗闇からまた別の女性を引っ張り出してきた。
服装として工房の人間じゃない事は分かった。
「ベルじゃないか!!」
ニシキ博士は驚いだように言った。
「やー、ニシキか。はろー。」
ベルと呼ばれた人物はアスノヨゾラ哨戒班の方に向いた。
「こんにちわー。ウチの名前はローラ・ベル・ヴォルカでーす。趣味はシンセサイザーでーす。よろしゅー。」
その声は如何にも面倒くさがり屋な、まるで伸びた麺のような感じだった。
「ベルはこう見えて凄腕のクラッカーだからな。」
ニシキ博士が言った。
「えー。べーつーにー、ウチはただの無名ボカロPだからー。」
ベルは照れているつもりのようだが、フィロには面倒くさがっているようにしか聞こえなかった。
「良いじゃん。」
ソフィーはベルを小突いた。
「それじゃあ、本題に戻ろう。」
エリーフが言った。




