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議論

「水がもうありません」


小さい声だったが、それは一団の皆に確かに聞こえた。一瞬のうちに笑い声が止み、あたりが静寂に包まれる。じゃれあっていた人たちも全員固まって、男を見た。そしていくつもの視線を浴びた彼は、突然泣き叫びながら声を上げた。


「水が……あと四日も探索できるほどありません‼︎」


叱られて大泣きする子供のようなその叫びが、行商人たちの心に響いて、行商人たちは、再び恐怖に包まれた。夏の月光砂漠で水を失えば一日も経たず死に至る。しかし村に着くまでにかかる時間は、四日かそこら。最悪の結末が彼らの脳裏によぎった。一度は死を見て、そこから救われ、歓喜したのも束の間、状況は何も変わっていなかった。目の前には再び死があった。広大な月光砂漠に飲み込まれるような気持ちになって、その場の全員が固唾を飲む。そして静寂のなか、貪欲な男がその男の胸ぐらを掴んで怒鳴りつけた。


貪欲な男「面白くねぇ冗談言うんじゃねぇ‼︎ 予備の水があんだろうが‼︎」


しかし、それを跳ね返すように水運びの男は答えた。


泣き叫ぶ男「今回の旅は荷物が多くて通常よりも水を運べなかったこと、人数が多くて水の消費が早かったことが原因で、もう水はほとんど残っていません‼︎」


再び沈黙が広がって、二人の荒い息だけが響く。その場は徐々にざわめきだして、不安はどんどんと増して行った。


(明らかに冗談じゃないな……)


ラクレスも、他の全員にもそれがわかった。団長と数人の男たちが、男のキャラバンに乗り込み大きな壺の蓋を開ける。しかし、そこにはほぼ何も無いと言って差し支えないほどのわずかな水しかなかった。


「おい嘘だろ、こんなので村が見つかるまで持つのか?」

「だ、大丈夫だきっと。団長もそういうに決まってる」



そんな声が上がって自然と注目が団長のもとに集まる。団長はキャラバンから出てくると、じっと地平線を見つめて言った。


団長「本当のことを行ってもいいか?」


先ほどと違って笑いを堪えている様子はなく、いつになく真剣な面持ちで、ゆっくりと大きな息を吐くと、こう続けた。


団長「ダメかもしれない」


その言葉に全員の胸が痛くなる。焦りが一気に込み上げてきて、貪欲な男が団長に尋ねる。


貪欲な男「だ、団長…… それは村に着く前に俺たちが死ぬって意味ですか……?」


団長は黙って頷いた。これが行商の旅を最もよく知る男の結論だった。ざわめいていた男たちは、絶望に満ちた叫び声を上げ、パニックになりながら言い合いを始めた。


「なんでもっと水を汲まなかったんだ!」

―「可能な限り汲みましたよ……」

「知るか、そのせいで俺たちが危険に晒されてるんだぞ‼︎」

―「経路に誤差を産んだあなた達にも責任があるでしょう⁉︎」

「どうすんだよ‼︎ 明日で死んじまうかもしれねぇんだぞ⁉︎」


そんなとき、団員の声をかき消すように依頼主が言った。


「静かにしろ、言い争っている暇はない‼︎ 俺たちに残された時間は脱水で死ぬまでの約一日。つまり明日の昼までに村がみつからなければ全員ここで死ぬんだ。時間が惜しい。人生最後の一日は、生きるために使うべきだ。とにかく早く歩き始めて、村を探すんだ」


彼だけがこの状況で唯一冷静さを保っていた。確かにそうだ、まだ死が決まったわけじゃない。運がよければ、一日以内に村を見つけられるかもしれない。そのわずかな時間に嘆いている暇はない。


「ああ、全くその通りだ。ここで言い争う暇はない。一刻も早く移動して村を探そう」


団長が言った。二人の言葉に、落ち着きを取り戻した一団は言い争いをやめ、村を探すことに意識を向けた。ただ、それにしても一つ大きな問題があった。それにいち早く気づいたラクレスは皆にたずねる。


ラクレス「でも移動するって言ったって、どこに進むんですか……?」


大急ぎで移動の準備をする男たちは、一瞬止まって考えた。そして少しの間のあと、団長が一番に口を開いた。


「東だ。地図に誤差があったと考えると、東に進むのが妥当だ」


しかし何人もそれに続く。


貪欲な男「いや星の読み違いを考慮するなら、どう考えても西だろ⁉︎」

旅人「地形が変わったと仮定するなら、南に進むべきじゃないかい?」

宝石商「何を言ってるんですか⁉︎ 現在の緯度から考えて北上すべきです‼︎」


どこに進むべきかでそれぞれの意見が割れた。どの意見にも理由があったが、確証はない。


依頼主「早く決めろ!」


 それぞれがそれぞれの意見を信じて譲らない。がしかし無理もない、なぜならこの決断によって己の生死が決まるからだ。皆自分の決断に殺されるのは許せても、他人の決断に殺されるのは許せない。


「もう西でいいだろ⁉︎」

「その方角に進むなら俺はついていかない」

「あぁ俺もだ」

「しかし、全員で共に行動しなければ状況はさらに酷くなるぞ‼︎」


やがて議論は怒鳴り合いへ発展していった。その間何も決まらず、誰も動かないまま、数十分が経過した。


ラクレス(マズい…… このままじゃ、時間を浪費してここで死ぬ)


男たちが団結する様子はなく、結論の出ない話し合いのなか、焦りと苛立ち、そして着実に迫り来る死の恐怖だけが増していく。そんなとき、その議論に終止符を打つように依頼主の青年が語り始めた。


「お前ら……」


たった一言。その一言と彼のたたたずまいに宿った凛々しさがその場の注目を一点に集めた。


依頼主「この無駄話のために死にたいって言うなら死ねばいい…… だがな」


言い争っていた男たちは黙らされる。そして静かな砂漠の中、依頼主は全員の視線を全て集めて言い放った。


依頼主「俺はここで死ぬわけにはいかない」


依頼主「『何を犠牲にしても』必ず村へたどりつかなければならない。」

依頼主「だから議論でもクジでも殴り合いでもなんでもいい。早く方角を決めて、進むぞ」


彼がそう言うと、少しの間沈黙が流れた。そしてそれを黙って聞いていた団長が心を動かされたように言った。


団長「そのとおりだ…… 俺たちにはなんとしてでも帰らなきゃいけない理由がある……」


それに続いて何人もの男たちが応える。


貪欲な男「そうだよ! 俺にはまだ叶えてない夢があんだ!」

旅人「僕には行きたい場所がある…」

大食漢「まだ食べたいものがある!」


そしてラクレスにも、もう一度会いたい家族がいた。


ラクレス「彼の言う通りだ、早く決めて進もう。そして何を犠牲にしてでも家に帰ろう!」


ラクレスがそう言い。男たちが言い争いをやめて、前に進み出そうとしたそのとき、空を見上げていた団長が叫んだ。


「うおおっ! ヨッシャアァァッ‼︎ 助かった‼︎」


フィロソフィアを読んでくださりありがとうございます! 僕は高校3年生なのですが初めて小説というものに挑戦してみました。受験勉強の合間を縫って頑張って書いた小説なので、好きになってくれたら嬉しいです!


拙い物語かもしれませんが、気に入ってもらえたのなら、『ブックマーク』と

【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると嬉しいです!


応援の言葉が執筆の原動力です!

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