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行商の旅

一団の中ではラクレスが最年少であったが、行商人の男たちは分け隔てなく、親しく彼に接した。特に団長は誰からも愛される親しみやすいオヤジで、ラクレスのこともよく可愛がっていた。


団長「おいラクレス! あそこにあるあの丘、なんて名前か知ってるか!?」


ラクレス「風ですぐ変化する砂漠の丘なんかに名前なんかあるんですか?」


団長「ワハハハッ! そんなもんに名前なんかねぇ! 騙されたな」


ラクレス「もう 何言ってるんですか? その冗談別に面白くないですよ。あと騙されてません」


団長はこうして、度々最年少のラクレスにも気さくに話しかけた。


団長「じゃああの星座はなんて名前だかわかるか? お子ちゃまにはわかんねぇだろうなぁ〜」


ラクレス「はいはいわかりません。どうせ団長もわからないんでしょ?」


すると、依頼主の美青年が落ち着いた声でその会話に割り入った。


依頼主「あれは白鳥座ですね」


団長「え、そうなの? 知らなかったぜ」


ラクレスも団長も感心していると、彼は悪戯っぽい笑顔でこう言った。


依頼主「嘘です、僕も知りません。騙されましたね」


空が明るいうちはバカな冗談を飛ばしあって笑いながら進んだ。村ではずっと働き詰めだったラクレスにとって、この瞬間は本当に楽しくて、暇があることが嘘みたいだった。ある朝、退屈していたラクレスは、依頼主の目を盗んで、こっそりと貨物の本を読んで暇を潰した。


「なんだラクレス、お前文字なんか読めるのか? まさか同じ村にもこんなに賢い奴がいたとはな」


仲間の一人が言った


ラクレス「ああ、まあな……」


村では手に入らないような本をラクレスが食い入るように読んでいると、あっという間に夜が来た。


そして夜が来るとみんなで火を囲みながら大きな夢の話なんかをした。


貪欲な男「俺はいつか大金持ちになるんすよ! 宝石の山を見つけて、団長なんかすぐに追い越してやりますよ!」


夜の砂漠、何人かの男たちで焚き火を囲いながら、酔っ払った貪欲な男が大声で団長に話した。


団長「そりゃ楽しみだな! そのときはなにか奢ってくれよな。 ワハハハッ」


宝石商「そんなことはないとは思いますが、もしあれば私めをご利用くださいませ」


隣にいた小太りの宝石商の男がそう言うと、気に食わなかったのか、貪欲な男は彼に面倒臭く突っかかった。それを横目にみんな話を続ける。


旅人「僕は鳥みたいに世界中を自由に旅して、初めてこの世界を一周する人間になる。そんな夢があるね」


キザな手ぶりをつけて自称旅人の男が言った。


依頼主「ああ。たまに意味もなく歌い出すのは、鳥に憧れがあったのか」


旅人「全くもって違うが? あれはみんなに僕の美声を届けるためだが?」


ラクレスはクスクスと笑いながらそれを見つめた。すると今度は大柄で食いしん坊の大食漢がつぶやいた。


大食漢「俺は甘いものを山ほど食べたいな。はちみつ入りのパンとか、りんごとか」


ラクレス「そのときは絶対に僕たちも誘ってくださいよ! あと僕の妹たちとその友達もも…… 流石に多いか?」


依頼主「いいんじゃないか? 貪欲な男がいくらで奢ってくれるんだし」


貪欲な男「おいっ! 俺がいないところで俺の金使おうとすんなっ‼︎」


そのやりとりに大きな笑いが起こった。バカな男たちが、真剣なことや適当なことを楽しく語り合う。みんなそれが楽しくて、それぞれの笑い声が誰もいない夜の砂漠に響いた。そしてそれがおさまった頃、今度は団長がラクレスに聞いた


団長「ラクレス、お前は夢なんかあるか?」


ラクレスは少し考え込んで言う。


ラクレス「僕にはそんな面白い夢ないですよ」


すると、酔っ払った貪欲な男がラクレスに絡んできて言った。


貪欲な男「夢がねぇってなら、悩みの一つでも聞かせろよ! じゃなきゃこっちばっかり喋っちまうじゃねえか‼︎」


ラクレス「悩みですか? 嫌ですよ… せっかく楽しい空気なのに暗い話になっちゃいますし……」


貪欲な男「うるせえな! 暗くたっていいんだよ、俺たちみたいなおっさんは、若者の悩みを聞く義務があんの‼︎ 良いからとっと喋りやがれ」


ラクレス「じゃあ…」


あまりに彼がしつこいので、ラクレスは渋々悩みを打ち明けた。


ラクレス「最近両親が他界しまして… それから心の拠り所がないと言うか。神さえも信じれなくなって。兄としてしっかりしなきゃいけないのに、どうしたら良いのか、何もかもがわからなくて……」


ラクレスが切実に悩みを打ち明けると、静かに聞いていた貪欲な男が言った。


貪欲な男「え… 重ぉ…… 盛り上がってるときにそんな暗い話すんなよ‼︎」


ラクレスは理不尽に怒られた。


ラクレス「そっちが悩み言えって言ったんじゃないですか……」


貪欲な男「好きな女の子の話とかだと思うだろ普通!」


団長「ワハハハッ。お前は他人への配慮がたりんな。ラクレスがかわいそうだろ!」


団長は貪欲な男に笑いながらそう言うと、話を続けた。


団長「ラクレス、お前は若いんだから好きなだけ悩め! 意外と大人だって何もわからないもんだからな。でも俺はお前の両親の遺言みたいに、最後は神様を信じるべきだと思うがな」


ラクレス「そうですか… そうですね…… ありがとうございます」


ラクレスは行商人の人たちが、彼らなりに自分のことを気にかけてくれてるのを感じて、少し嬉しくなった。


旅人「でも夢はあったほうがいいよ」


旅人が、意味もなくハープを弾きながら言った。面倒臭いのでラクレスは思ったことで適当に返事した。


ラクレス「じゃあ強いて言うなら、みんな幸せに暮らせる世の中になれば良い! それが僕の夢です。最悪、妹たちが幸せならそれでいい。あと、働く時間が今の半分になって、もらえるお金が増えて、家の屋根が治ってあと……」


旅人「意外と言うねぇ……」 ハープをポロンポロン弾きながら言った。


団長「ワハハハッ‼︎ そりゃ立派で良い夢じゃないか!」


そうやっていつもみたいに団長が笑うと、今度は依頼主に話を振った。


団長「じゃあ依頼主様の夢はなんだ?」


みんなが彼の方を向いて話を聞く。


依頼主「俺は今運んでる本を、誰かに引き渡せたらそれでいい」


貪欲な男「けっ、お前の夢もラクレス同様つまんねぇな。『仕事中毒』じゃねえか。そんなのより俺の夢の方が………… 」


貪欲な男はまた人に突っかかってクドクドと自分の話をした。すこし黙って彼の話を聞くと、依頼主はイタズラっぽい笑みを浮かべてこう返した。


依頼主「確かに、俺は『仕事中毒』かもしれないけど、いい歳こいた『アルコール中毒』よりはマシですよね。ハハ」


 すると、どっという笑い声が起こった。貪欲な男は少し悔しそうだったが、なんだかんだ楽しそうでもあった。それから時間が経って、男たちはより一層大きな声で話をしていた。深夜になって眠くなったラクレスはキャラバンで寝ようと立ち上がった。まだ語り続ける団長たちに挨拶をして、立ち去ろうとすると、同じように依頼主もついてきた。


依頼主「あんな話好きのオジサンたちに朝まで付き合うのはごめんだからな」

ラクレスはそれにクスクス笑うと、二人はあくびをしながら暗くなってゆく道を歩いた。そんなとき、隣で依頼人の青年が言う。


依頼主「ラクレス…… 俺は君の悩み嫌いじゃない」


ラクレス「悩みって?」


依頼主「あの酔っ払いに悩みを聞かれたとき、『何を信じたられない、何もわからない』ことが悩みだって言ってたろ? あの答えは嫌いじゃない。いやむしろ好きだ」


ラクレス「えぇ…なんで? 重い話しちゃったなって反省してるんだけど」


依頼主「なんでだろ… 同じ悩み抱えてるからかな? とにかくお前はあそこにいた誰よりも賢いやつだよ」


ラクレス「そんなことはないだろ」


依頼主「そんなことあるんだよ」


ラクレス「……」


依頼主「まあ、それだけだから俺はもう寝るよ。あのオッサンたち帰ってくる前に寝とかないと、いびきがうるさくて絶対寝れないし」


そう言うと、依頼主はラクレスとは別のキャラバンに向かって歩いていった。


(どういう意味だったんだろう?)


ラクレスには依頼主が何を伝えようとしていたのかわからなかった。だが依頼主が悪いやつじゃないことだけはわかった。そんななか、ラクレスは眠気を感じて毛布を被る。彼はみんなと話したたくさんの楽しいことを思い出しながらゆっくりと目を瞑り、眠りについた。


この温かい一団の人々が、過酷な地でのこの旅を順調に進めていった。


フィロソフィアを読んでくださりありがとうございます! 僕は高校3年生なのですが初めて小説というものに挑戦してみました。受験勉強の合間を縫って頑張って書いた小説なので、好きになってくれたら嬉しいです!


拙い物語かもしれませんが、気に入ってもらえたのなら、『ブックマーク』と

【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると嬉しいです!


応援の言葉が執筆の原動力です!

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