救い
それと同じく、疫病により村の人口はみるみる減ってゆき、村は物乞いと、働けなくなった死にかけの病人で溢れた。それに加え、他の村が病を恐れこの村を孤立させたため、食料も資材も人間も、何もかもが不足していた。
村の全員が頭を抱えていたそんな夏の日、砂漠の周りを何日もかけて旅する、行商人の一団がラクレスの村にやって来た。彼らはこの貧しく乾いた大地では唯一裕福な人間であった。
(行商人がなんの用だ? 病に倒れそうなこの村には売れるようなものも、何かを買えるようなお金もないぞ)
ラクレスはそんなことを思いながら。彼らが村に入ってくるのを見つめた。そして行商人の一団が村中央の広場にたくさんのラクダとキャラバンを停めると、その頃にはほとんどの村人たちが物珍しさ故にそこへ集まっていた。ガヤガヤという群衆の中、ラクダから降りた行商人の団長が大声で呼びかけた。
「ラクダに乗れる男が足りない。ある村まで貨物を運ぶ手伝いができる若い男はいねえか? もちろん報酬はきちんと出すぜ」
突然の来客、そして突然の仕事の依頼に辺りがざわつく中、ラクレスが行商人たちに質問した。「何を運ぶのですか?」―「古い本だ」。「どれくらいの旅ですか?」―「一ヶ月ほどだ」。
そして最後に「どれくらいの報酬がもらえるのですか?」と尋ねる。村の人たちにとってそれが一番重要だった。するとその団長は屈託のない笑顔を浮かべてこういった。
「ワハハハッ! 驚くんじゃないぞ! 今回の依頼主様は超太っ腹! 協力してくれた家にはその家が今年の冬を越せるだけの穀物、薬草、布、木材、などなどたくさんの物品をくれるってんだ!」
願ってもない申し出だった。報酬はどれも村で不足している物資。疫病に苦しむこの村にとってそれはまさしく希望の光で、ラクレスも
(これ以外に冬を越せる方法はないぞ!)と思った。そして何人もの若い男たちが大喜びでその仕事に参加するなか、ラクレスもその仕事に参加しようとする。しかし、一瞬考えて踏みとどまった。
(いや、うちには妹が三人もいるんだ。一ヶ月なんて長い期間、放置していいはずないだろう…… それに村全体が潤えば、物乞いでなんとか冬をこせるかも……)
考えた末、ラクレスはこの仕事見送るべきかと思い、少し肩を落として、ため息をついた。すると、隣にいた一番上の妹がラクレスの腰をポンと軽く叩いて言った。
「大丈夫だよ、こっちのことは私たちに任せて。だからお兄ちゃんは行ってきな」
ラクレス「でも…… 本当に大丈夫か?」
ラクレスがそう言うと、三人は自信に満ちた表情でラクレスに微笑んだ。まるでラクレスが前に言ったように「大丈夫だよ」と語りかけているようだった。もしかすると、妹たちは自分が思っているよりもずっと成長しているのかも知れないと思った。
それを見て、ラクレスは頷き、決意を固めると、
「俺も行く」
そう言って手をあげた。
この行商人たちのおかげで壊滅寸前だった村が救われたので、大人も子供も、大喜びでこの仕事の『依頼主』と呼ばれる男に感謝を伝えた。大人たちは次々と握手をして、子供たちはその人を抱きしめた。その依頼主は大きなフードを被った顔立ちの良い青年で、多くの人に囲まれ、少し困ったような顔を浮かべながらも、照れくさそうにしていた。
皆準備に取り掛かった。ある村まで貨物を運ぶ仕事。しかしその村というのはラクレスの村からだいぶ離れていて、そこへ荷物を届けるには、同じような景色がひすたら続く、真っ白な月光砂漠を通る必要があった。
出発の朝、ラクレスは三人の妹それぞれをギュッと抱きしめて家を出た。
※((家の前の黄色い花))
ラクレスにとって、この日が村の外へ出る初めての日だった。強い太陽の日差しのなか、使い古された白い日除けのためのポンチョを被り、ラクダに飛び乗ると、仕事だとわかっていながらも、まるで偉大な旅に出るかのような気分になった。そして青い空、眩しい朝日、家の壁から生える鮮やかな花、遠くに見える白い砂漠、目に見える全てが美しく見えた。ラクレスは両親の死から少し時間が経ち、人生の新たな一ページを描くような気分になった。
行商の一団は一列になって、大きなオアシスを通り、山脈の脇を進んだのち、月光砂漠の中にある交易路を辿って次の村を目指した。あたりは一面真っ白で、砂の山が反射するまばゆい光と、朝の砂漠特有の冷たい風が彼らを祝福しているようだった。
フィロソフィアを読んでくださりありがとうございます! 僕は高校3年生なのですが初めて小説というものに挑戦してみました。受験勉強の合間を縫って頑張って書いた小説なので、好きになってくれたら嬉しいです!
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