決断の時
突然、月光砂漠は静まり返る。男たちは考えた。突然降って沸いた生き残るチャンス。ここで契りを交わせば、彼らは腕を犠牲にするだけで、再び歩く活力を得て村に帰れるという。しかしそれと同時に、人類すべてを巻き込み、全ての人間が『己の体を犠牲に、何かを得られる力』を得るようになるという。
これは本来人間にはできない、奇跡さえ起こしえる神の業。それを全人類が使えるようになれば、人間というものの在り方が大きく変わってしまうことになる。
この日、この砂漠で、たった数十人の男たちの前に置かれたこの契約は、人間社会を根底から覆す大きな決断だった。その影響は計り知れず、この契約の結果世界に何が起こるのかは、誰にもわからなかった。長い沈黙のなか、この大きな問題に結論を出したのは依頼主ただ一人だった。
依頼主「こんな契約はやめるべきだ」
拳を固く握りしめて、なんとか振り絞るように言った。
依頼主「確かに俺たちには帰りたい場所、帰らなきゃならならない理由がある。でも、俺らの私情で無関係の人類全体は巻き込めない。これはたった数十人で結んでいい契約じゃないはずだ……」
それは己の生を否定し、今ある人間の在り方を肯定する答えだった。その言葉に苦しみ、恐怖、不安、絶望が込み上げる。ラクレスは目の前で輝く未来を殺されたような感じがした。もう一言も喋らないでほしい、一生この奇跡という夢を見ていたい。彼らのそんな思いを踏みにじるように、依頼主は重たい口を開いた。
依頼主「俺たちは…… ここで死ぬべきだ」
しかしそういう彼が、一番悲しい表情を浮かべていて、誰よりも苦しそうに、溢れるわがままを押し殺してそう言った。
だがそれがもっともな結論だった。依頼主の言った通り、もしこの契約を結んでしまったら、今のこの世界が大きく変わってしまう。それをここにいる数人で決断するのは明らかに軽率なことだった。だから皆肩を落とし、大きく息を吐くと、
「そうだな……」
そう言って依頼主の考えを尊重した。みんな本当は今すぐにでも契約を結んで家に帰りたかったが、誰にも人類の業を背負う勇気はなかった。だから誰も反対せず、生きたいという気持ちをギリギリで抑えながら、依頼主の提案に乗り、死ぬことを選んだ。
そして、それはしばらく待ったあと、彼らの態度を見て言った。
神「契約を結ばないのですね…… わかりました、なら私は去りましょう」
(これでいいんだ)ラクレスは思った。
しかし神が去ろうとしたそのとき、ラクレスの頭に、村でラクレスの帰りを信じて待つ三人の妹の姿が浮かんだ。自分は彼女たちを残して死んでしまうと思い胸が痛くなる。それでも仕方がない、これが正しい決断なのだと言い聞かせた。そんな苦しさのなか、ふと閉じていた目を開き周りを見回すと、皆歯を食いしばって、拳を震えるくらい固く握り、これまでにないほど苦しそうな顔をしていた。
ラクレス(きっとみんなの心にも、故郷で待ってる人の顔が浮かんでるんだ……)
ラクレス(これが正真正銘人生最後の希望だと知っていながら、それを見捨てるために必死に堪えているんだ……)
ラクレスの言うとおり、皆自分の大切な人、やり残したことを思い浮かべては葛藤していて、ラクレスはそれを思うと苦しくて苦しくて、居ても立ってもいられなくなった。そんなとき、彼が思い出したのは彼の両親が最期に遺した言葉だった。
「どんなに世界に絶望してもね…… きっと神様が助けてくれるから」
「だから、ちゃんと神様を信じていれば… きっと大丈夫……」
あのときの二人の弱く優しい声が、胸の中で何度も何度も何度も響いた…………
気づくとラクレスは一歩前へ走り出していた。自分が生きる為に、両親の遺した言葉と目の前の神を信じ、ここから始まる全ての責任を負う覚悟を決めて
走った。
疲れも忘れて、人生のどの瞬間よりも力強く踏み込んだ。
契約を結ばんと耐えていた男達が、ラクレスのことを見つめる。しかし、誰も止めようとはしなかった。皆本心では、生きて、大切な人に会いたいのだ。しかし誰かにその責任を負ってほしかった。
依頼主の青年は少し遅れてラクレスの後を追いかけた。二人の足が白い砂の粒をいくつも散らして、それが青い空に光を散らした。依頼主がラクレスを掴みかけたそのとき、すでにラクレスはもう神の目の前に来ていた。一秒が一日に思えるような時間の中、ラクレスはついに神の人差し指に触れこう叫ぶ。
「神よ、契約だ‼︎」
するとそれは強烈な光を放った。そして力強く翼を羽ばたかせると、再び強い風が吹き荒れ、地面の砂は天地がひっくり返ったように舞いだした。宙を舞う砂は眩しい光を反射し、あたりは再び真っ白な光に包まれる。
このとき、人間は契約を結んだのだった。歴史を変える大きな契約を……
フィロソフィアを読んでくださりありがとうございます! 僕は高校3年生なのですが初めて小説というものに挑戦してみました。受験勉強の合間を縫って頑張って書いた小説なので、好きになってくれたら嬉しいです!
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