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「あーあ。にしても難儀なもんだな、あいつ」
マリンが珍しくまともなことを言う。
(確かに。このままだとミツキは…)
アフノイドには人間の恐怖、それも生存本能に直結するほどのかなり強いものが必要だ。
したがってパイロットには極度の恐怖症を持った者が選ばれ、当然だが克服は忌避されている。
(それも覚悟の上だけどね…)
ユナ自身もできればこんな事したくない。
だが、大人たちにいいように使われている間はどうしようもないことだった。
少なくとも故郷で体を売るよりはマシだ。
「ま、あたしはクモなんか平気だけどね」
かくいうマリンは極度の道化恐怖症だ。
そのため彼女の機体には派手な赤と白のペイントでピエロが描かれ、武装は巨大なハンマーを使用する。
カコは沈黙恐怖症で、戦うときはヘッドホンをつけ、無線はすべて画面に文字起こしされている。
「そういえばユナ、あ―」
ブチッ。
「おはよう、諸君。こちらはコマンダー。今日の任務を伝える」
気がつけば午前六時を回っていた。
毎日、この時刻になると、軍のメインチャンネルに強制的に切り替わり、その日の課題を伝えられる。
「第八十七フィアーズ武装偵察小隊。エデン十一区における敵部隊の掃討に当たれ。使用火器は無制限。民間人および友軍の情報なし。任務終了時刻は本日二三〇〇時。早急な遂行を要請する」
感情のない声は淡々と続けた。
「なお、任務終了時刻を超過、もしくは敵前逃亡が認められた場合、無人爆撃機B-33による核爆撃がなされる。留意せよ」