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何度か息を大きく吸い込むと、ユナは意を決して目隠しを巻いた。
同時にハッチが閉まり、ガシャンという金属音がする。
何もない、無の暗闇が訪れた。
鼓動が跳ね上がり、首筋を冷たい汗がすべり落ちる。
胸が苦しくなりはじめ、胃がチクチクと痛んだ。
早く!早くして!何かが迫ってくる。
(何秒経ったんだろう?一秒ってこんなに長かったっけ。)
遠くで誰かが呼んでる。
確証はない。
ただ、呼ぶ気配がする。
体の中から何かが抜けていくのが感じた。
(だめ!そっちに行ったら…戻れなくなる!)
パニックになるのを必死にこらえながら手探りで天井のレバーを引いた。
真っ暗闇の中で何かがうごめき、形を変えていく。
早く!まだ光は見えない。
ユナは暗い階段を歩いている。
そんな気がした。
上っているのか下っているのか分からない。
一つ確かなのは誰かが近づいてくる。
早く!
白い顔は笑っていた。
目玉と口。三つの穴が追いかけてくる。
飲み込まれる!飲み込まれる!のみこま…
ジジッと音がして機械の手が見えた。
何度か目を瞬いてみる。よかった。
目の隅で無数のコマンドが流れ、起動手順を表示していく。
ユナには何のことかさっぱりだったが、少なくとも白い顔も階段もなかった。
(やれやれ。ほんとに大仕事だったよ…)
“飛び込む”とはよく言ったものだ。
ユナはちらりとそう思った。だが、妙に納得がいった。
恐怖の深淵へ飛び込む。それだけ自分たちのやっていることは無鉄砲で危険で先が見えないのだ。
ユナは目隠しをわずかにずらし、少し光が入るようにした。
まだ、心臓はドキドキしているし、額には大粒の汗が浮いているのが分かった。
しばらく深呼吸を繰り替えし、呼吸が落ち着くのを待ってから無線のスイッチを入れた。
「フィアー03。準備オーケーよ」
人間は程度の差や種類こそ様々だが皆、恐怖を抱えている。
しかし人間の叡智に勝るものはない。
かつて人間は火を克服し、明かりやエネルギー源に変えた。
細菌を克服し、薬をつくった。
それと同じように恐怖を克服し、兵器をつくった。
神経接続ユニットと小さな目隠しが、わずか十六歳の少女と全高十メートルの二足戦闘機を結びつける。