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ここからが大仕事だ。それと意識しなくとも、鼓動が早くなっているのが分かった。
ユナは何度か深呼吸し心を落ち着かせると、ポケットから細い布切れを取り出す。
何度やってもこれだけは慣れない。
毎回、このロボットの製作者を恨むのもこの時だ。
ほんの一瞬だ。起動してしまえば、右脳がカメラと同期して黒い視界が半分減る。
ただ、右側は暗いままだ。
「あ…カコ~?もう少しかかりそう?」
「どうしたの03?なにか不具合でも?」
(いや…そういうわけじゃなくって…)
ユナは握りしめた目隠しと通信ディスプレイを交互に見た。
黒い画面には無機質な“Sound ONLY”の文字が浮かんでいる。
「その…」
ユナは口を開きかけてすぐにつぐんだ。
ここではみんな、弱音や泣き言はなしと決めていた。
したがって、ここでカコに甘えるのも得策ではない。
(いつからこんなこと言うように…)
「ううん。何でもないよ」
数秒前の自分をいさめながら、起動ボタンを押す。
(よし、罰として後でガレキ周り三十週追加だ)
一人で走るのはそれほど嫌いじゃないし。
操縦桿の横の赤いランプが点灯し、準備万端だと告げる。エンジン、火器、レーダー問題なし。
後は最後の点火剤だ。これでアフノイドは起動する。
「03、ダイブ・オン」