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「おーいユナ、さっさと準備して」
遠くから呼びかける声にユナは我に返った。
ちょっと名残惜しいが、マグカップの中身を全部飲み干し、作業に取り掛かる。
「セリ、こっちは起動して大丈夫?」
「もちろん。天気晴朗、雲白し。敵影は見えず!」
瓦礫と廃墟の間に巧妙に隠された野営地は小隊とその荷物を隠すのに最適だった。
ユナは身軽な動きで瓦礫の上を飛び移り、灰色のほろで覆われた「荷物」に向かった。
[A.F.N.O.I.D.02]―戦間期改良型汎用作業機マル二型。通称アフノイド。
立ち上がればビルの三階に相当し、移動速度は時速六十キロほど。
火器は戦車の滑空砲並の威力で、ヘリも切断できるチタンソーを持つ。
ミサイルポッドには一ダースのヘルファイアが詰められている。
今となっては大昔、第七戦間期における主要戦力だ。
もちろんお世辞にも綺麗とは言い難い。
関節部分の奇声は動かせば動かすほどひどくなるし、脚部は鉄板が溶け、汚泥で黒く汚れている。
頭に二つ並んだ大きなサーチライトは今だに過熱するし、火器類もすべて実弾だ。
しかしディーゼルエンジンの腹に響くような駆動音はやはり心が躍る。
ほろを外すと巨大なロボットが姿を現した。
猫背にごつい肩回り。頭には巨大なサーチライトが目玉のごとく二つ並んでいる。
立ち上がったオオカミのようなフォルム。
まさに化け物を具現化したような見た目だ。
しかし、もっとも大きな特徴はこれの操作方法にある。
そしてこれこそが開発者が変態と言われる要因だった。
なんとこれの操縦には人間の恐怖を必要とするのだ。