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切れかけたランタンを消し、ユナはうんと伸びをした。眠っている間に縮こまった体を伸ばす。
軍から支給されたパーカーは夜の寒さを凌ぐのに向いていなかった。
「はい、朝食のココアだよ~。熱いから気を付けて」
気の利いたカコが赤いマグカップを差し出す。この子は部隊内で一番明るくて気が利く。
陰湿な戦場でも彼女のおかげで全員が平静を保っていられた。
「ありがとう」
白い湯気の立ち上るカップにちょっとだけ口をつけ、中身をすする。
ほんのりと甘く、温かい液体がゆっくりと喉を通り、全身に広がっていく。
「…はあ」
他のみんなも徐々に目覚め、身支度を始めていた。どうやらユナが二番手だったらしい。
「どう?今日はよく眠れた?」
「うん…まあまあかな」
ユナはココアをすすりながら続けた。
「起こしてくれてありがとう」
「ううん、気にしないで。わたしだって早起きしたいし」
カコは嬉しそうに髪を揺らした。
「あ、でもほんとに大丈夫なの?だってユナはいつも一番遅く寝て、一番早く起きてるけど…」
「今日は二番だった」
「んも~。そういう問題じゃなくって…」
悪戯っぽく笑って見せると、カコはぶうっと頬を膨らませた。
「居眠りはダメだからね!」
「はいはい」
ユナは笑いながら、そっと自分の首筋に触れる。すると思ったとおり、冷たい汗が吹き出していた。
すぐさまばれないように袖でぬぐう。
(やっぱり。)
内心、カコには非常に感謝していた。
正確には思い出せないが、汗の量からしてまた悪夢を見ていたのだろう。
過去のトラウマは人間にとって様々な形で現れる。
夢の中に現れたり、何かをきっかけに思い出したり。
いきなり蘇るフラッシュバックなどたまったもんじゃない。
自分は暗闇がダメなのだ。
もちろん少しでも明かりがあればまだマシだ。
けれど何もない、明るさも影も色も何もない真っ暗闇は本当にダメなのだ。
その中に入り込んだ瞬間、自分を忘れ、奥に潜む何かに乗っ取られ、息が詰まりそうになり、頭がくらくらする。
異常に動悸が激しくなり、おそらく二秒と持たない。