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人気者の彼女を私に依存させる話  作者: 琥珀のアリス
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私だって嫉妬するよ?

 雪音のお見舞いに行ってから三週間ほどたったある日の放課後、私はカフェで雪音と向き合い、無言のまま険悪な雰囲気が流れていた。


「ごめんね、六華。私、告白されちゃった…」


 そんな雰囲気の中、最初に話し始めたのは雪音だった。


「ふーん。…で?」


「で、でも!ちゃんと断ったから!私は六華の彼女だし、他の人になんか興味ないもん!」


「そう」


 何故こんなことになったのか。それは今から二週間ほど前まで遡る。





 雪音が風邪を引き、私がお見舞いに行った日から一週間の間は本当に幸せな時間を過ごすことができた。

 私たちは人がいないところを見つけては、場所など関係なしにいつもキスなどをしていちゃついていたし、計画も本当に順調だったので、そろそろ最後の第4段階に移ろうと考えていた。


 しかし、一週間が経ったころから少しずつ雪音の付き合いが悪くなっていった。

 学校にいる時はいつも周りに人がいるようになり、放課後も友人たちに連れられてどこかに行ってしまい一緒に帰れなかった。


 そんなある日、私は帰っている途中で忘れ物に気づいたので急いで教室に戻ると、誰かいるのか中から話し声が聞こえた。


『ここの問題はこうやって…』


『あぁ、なるほど。じゃあこっちも?』


『そうそう!』


(この声って…)


 中から聞こえてくるうちの一人は、よく聞き慣れた声で、間違えるはずのない愛しい人の声だった。


 私はバレないように少しだけドアを開けると、中をゆっくりと覗いてみる。


「瀬名君は飲み込みが早いね!」


「いやいや、朝比奈さんの教え方が良いからさ。おかげで次のテストはいつもより良い点が取れそうだよ」


「そんな事ないよー。お互いテストに向けて頑張ろうね!」


(やっぱり雪音だ…)


 教室にいたのは雪音ともう一人、いつも彼女の周りにいる友人の男だった。

 どうやら二人は勉強をしているようで、雪音が男の方に教えているようだった。


(ふーん。そういうことね)


 こういうことは別に今に始まったことではない。雪音は基本的に面倒見が良いし、友人たちとの付き合いで勉強を教えることだってあった。


 だから今回もそれだろうと思い、いつものように嫉妬を心の奥にしまいこみ気にしないことにした。


(大丈夫。いつものことだから。それに、こういう時のために計画を立てて雪音を落とし込んできたんだから…)


 私は今見た事を見なかったことにし、その日は忘れ物を回収せずに家へと帰った。





 それから一週間。私は雪音とその周囲の人たちを観察するようになった。

 すると、あの男はいつも雪音の近くにいて積極的に話しかけ、放課後はどうやってかは分からないが、二人きりで勉強を教えてもらっているということが分かった。


「なぁ、お前ら最近一緒にいないようだけど、なんかあったん?」


「別に。雪音が友達とやる事があるみたいだから、今はあまり時間が合わないだけだよ」


「なーほーな。…ずっと思ってたんだけど、六華は嫉妬とかしないわけ?」


「してはいるよ。ただ、毎回毎回してたらメンタルが保たなくなるから気にしないようにしてるだけ」


 雪音は中学時代から男女問わず人気があり、こういう事はよくあった。

 最初の頃は毎回嫉妬もしていたが、いくら雪音に言っても彼女は友達も大切だからと聞き入れてはくれなかった。


 だから私は、彼女と付き合えるのならば仕方ない事だと諦め、嫉妬したとしても我慢するようになった。


「それに、テストが終わればまた前みたいに戻るでしょ」


 そうやって自分の気持ちを騙して隠しながら過ごしていたある日。私が許容できない場面を目撃してしまった。





 数日後。その日は朝から胸騒ぎがしていた。私にとって何か良くないことが起きると直感で感じていた私は、いつも以上に雪音のことを見ていた。


 しかし、放課後まで特に何も起こらなかったので、気のせいかと安堵していた時、私は一番見たくないものを見てしまった。


(…は?どういうこと?)


 莉緒と話し込んでしまい、帰るのが遅くなってしまった私は、莉緒と二人で廊下を歩いていた。

 そこで私が見たのは、どうしてそうなったのかは分からないが、あの男に抱きしめられている雪音の姿だった。


「なぁ、あれって…」


「見えてるから。言わなくていいよ」


 今までは勉強とかだけだったから何とか許せたが、さすがにあれを許すことはできそうにない。


「ちょっとこい」


 私はそう言われ、莉緒に手を引かれながら人気のないところに連れて行かれる。


「六華、落ち着け。恋人が他のやつに抱きしめられてるのを見て怒るのは分かるけど、さすがに顔に出しすぎだ。それに手もそんなに握りしめるな。血が出るぞ」


 莉緒は私の握りしめられた指をゆっくりとほどきながら落ち着くように言ってくる。

 私は一度深呼吸をして気持ちを沈め、さっき見た状況について整理していく。


(男の背中で雪音の顔は見えなかったけど、少なくとも雪音が抱きしめ返している様子は無かった。なら、男が無理やり?それとも何かの拍子に抱きとめられたとか?…ダメだ。現時点じゃ判断がつかない。ただ…)


「…絶対に許さない」


「だから落ち着けって。また顔に出てるぞ」


「…ふぅ。ごめん、ありがとう。てか、そんなに顔に出てた?」


「あぁ。今にも殺しそうなくらいな」


「ふふ。さすがに殺しはしないよ」


 ただ、簡単に許すつもりはない。誰のものに手を出したのか、あいつには分からせる必要があるだろう。


 そして、それは雪音もだ。女の子が相手ならスキンシップの可能性もあるから我慢できる。

 しかし、異性に対して簡単に私以外に体を許したあの子には、お仕置きをする必要があるだろう。


「そうと決まれば帰ろうか、莉緒」


「あいよ」


 こうして私は、今まで我慢してきた嫉妬の炎に身を任せて行動するのであった。


(ふふ。私は言ったよね、雪音。嫉妬をしたときは私を見てって。それは私が嫉妬した時に雪音のことを見続けてきたからだよ。ただで済むと思わないでね…)





 以上がこの三週間で起こった出来事であり、私たちが険悪になった理由である。

 そして、ついに件の男が雪音に告白をしてきたというわけだ。


「まぁ、話は分かったよ」


「じ、じゃあ!」


「でもさ、私見たんだよね。雪音が抱きしめられてるところ」


「…え?」


 今でもあの場面を思い出すと、あの時の怒りがよみがえってくる。


「少し前の日の放課後。抱きしめられてたよね?」


「みて、たの?」


「バッチリとね」


「違うの!あれは瀬名君が突然抱きしめてきたからびっくりしただけで、すぐにやめてもらったよ!」


 雪音は必死になってあの時のことを説明し、私の誤解を解こうとしている。しかし--


「そうなんだ。…でもね、雪音。ぶっちゃけ、そうなった経緯とかはどうでもいいんだ。

 私が許せないのは、その男が勝手に私のものに触れたっていうことと、雪音が油断して抱きしめられたっていう結果だけなんだから」


 私がそう言うと、頑張って弁解をしていた雪音の表情がどんどん絶望の色に染まっていく。


「だからさ。申し訳ないけど、しばらくの間私に近づかないでくれるかな。今回ばかりはそう簡単に許せそうにはないんだよね。だから、お互い少し距離を置いた方がいいと思う」


 私から拒絶されたことがよほどショックだったのか、雪音は今にも泣き出しそうな顔をしながら俯くと、僅かに肩を震わせ始めた。


「今回は私がお金を出しておくから、落ち着いたら帰りな」


 最後にそう言い残すと、雪音のことを気にも留めずに席を立ち、支払いを済ませるとお店を出て家に帰るのであった。





 夜になると、私はとある人物にメッセージを送る事にした。


『こんな時間にごめんね。情報を集めてほしい人がいるの』


『お任せください!誰の情報が必要ですか?』


『私と同じクラスの瀬名隼人の情報をお願い』


『了解です!一週間ほどかかりますがよろしいですか?』


『大丈夫だよ。お願いね』


 これであの男の情報を手に入れることも出来そうなので、まずは男の方から対処する事にする。


「邪魔者にはさっさとご退場いただこうかな。あの子へのお仕置きも控えてるわけだしね」


 私は今後、雪音に対して自分が誰のものなのか、私以外に体を許したらどうなるのかを分からせるため、計画を立てていくのであった。






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