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人気者の彼女を私に依存させる話  作者: 琥珀のアリス


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無理だよぉ side雪音

 翌日の日曜日。この日は特に予定がなかったので、家事の手伝いや平日に集中できなかった授業の復習をして過ごす。

 その間に何度か六華にメッセージを送ってみるが、あまり返信がくることはなかった。それでも、明日になればまた六華に会えるので、そのことを楽しみに勉強などを頑張ることにした。


 月曜日。今日も朝から六華と話すことは出来なかったが、彼女を見れただけで今は幸せを感じられる。

 そして、2時間目の授業が終わり休憩していた時、六華からメッセージが来た。


『雪音、今日家に遊びに行ってもいい?』


『いいけど、両親も仕事でいないし、大したおもてなしできないよ?』


『大丈夫。なら、今日行くからよろしくね』


『わかった』


 私の両親は共働きのため、家に帰ってくるのは夜遅くになる。

 だから、放課後に六華が来ても大したおもてなしは出来ないが、彼女がそれでも良いというのなら私は大歓迎だ。


 放課後に六華と遊ぶ事になった私は、終始機嫌が良く、雫には恋人と何かあったのかと聞かれる程だった。


 そして、一日の授業を上機嫌で過ごし切った私は、急いで帰り支度をする。しかし、そこへ雫が遊びに行かないかと声をかけて来た。


「朝比奈、今日遊びに行かん?」


「ごめん。今日は大事な用事があるから行けそうにない。また今度誘ってくれる?」


 私は大事なようがあると断り、次回に誘ってもらえるようお願いする。雫はそれだけで何かを悟ったのか、すぐに了承してくれた。


「そういう事ならしょうがないね。なら、また今度誘うから、その時に話聞かせてよ」


 ちゃっかり話を聞かせてというあたり抜け目がない。まぁ、前に今度紹介すると言ったし、その時に話せばいいだろう。

 雫が戻って行った後は急いで残りの支度を済ませ、六華のもとへ向かう。


「六華、待たせてごめんね。もう帰れそう?」


「大丈夫だよ。雪音も忘れものとかない?」


「私も大丈夫。なら帰ろうか」


 私がそう言うと、六華は椅子から立ち上がって私の隣に並んでくる。それを確認した私は、まだ学校だと言うことも忘れて、彼女の腕に自身の腕を絡める。

 無意識のうちに行動してしまったため、気づいた時には少し恥ずかしくなったが、これはこれで周りへの牽制にもなるため、腕を離すことはしなかった。

 すると、六華の方から視線を感じたのでそちらを見てみると、彼女も嬉しそうに微笑んでくれる。

 それがたまらなく嬉しかった私は、心の底から大好きだという感情を込めて彼女に微笑み返す。


(本当に幸せだなぁ。私の隣に六華がいてくれるだけで何もいらないと思えるほどに…)


 そんな事を考えていると、六華が歩き出したので私も彼女に続いて歩き、私の家へと向かった。





「お邪魔します」


 私の家に着くと、六華はそう言いながら玄関に入る。


「どうぞー」


 私は彼女が入りやすいように、ドアを開けたまま彼女のことを待って中に迎え入れた。六華が家に来るのは初めてなので少し緊張するが、ここで時間をかけて彼女を待たせてしまうのも悪いので、すぐに部屋へ向かう。


 部屋のドアを開けてすぐ、中を確認した私は少し安堵する。


(よかった。昨日部屋の掃除をしておいて。六華にだらしない女だと思われたら辛すぎる)


「椅子とかなくてごめんね。そこにクッションあるからそっちに座るかベットに座ってて。私は飲み物とか持ってくるね」


 私はそう言うと、部屋を一度出て冷蔵庫へ向かう。そして、中に入っていたサイダーと棚の中にあるお菓子を持って部屋へと戻った。


「お待たせ。飲み物はサイダーにしたけど良かった?」


「大丈夫だよ。ありがとう」


 いつもと同じ部屋なのに、そこに六華がいて出迎えてくれるだけで、私は少しだけ嬉しい気持ちになる。


(大学生になって同棲とかしたら、こんな感じなのかな)


 そんな事を考えながら、私は六華の前にあるローテーブルに持って来たものを置いた後、私も六華の隣に座る。


「それで六華。今日は急に家に来たいって言ってたけど、どうしたの?」


「たまにはお家デートもいいかなって。それに、雪音の家に来たことなかったから来てみたかったんだよね」


 彼女はそう言うと、サイダーを一口飲んで喉を潤す。


「そうなんだ。じゃあこの後はどうしようか。見ての通り、私の部屋ってあまり遊べるものとかないんだよね」


「それなら、スマホで映画でも見ようか。私はよく映画とか見るから、そういうサイトの契約してるし」


「いいね。なら何見る?」


「んー、ホラーとか?」


「……え?」


 ホラーと聞いて、私はしばらく反応することが出来なかった。

 私がこの世で苦手なものは、一に虫、二にホラーだ。

 よく、ホラーはフィクションだから怖く無いと言ってる人がいるが、撮影や題材は実際にそういった場所で撮影している場合もあるし、題材だって実在する都市伝説などを使っている。

 そんな身近にありそうで無さそうな曖昧さが、いつか現実になりそうで苦手なのだ。


「あ、ごめん。苦手だった?莉緒とはよくホラー見るから、その感覚で言っちゃった」


「だ、大丈夫だよ!ホラーにしよう!」


 苦手だが、葛飾さんとはよく見ていると遠回しに言われてしまえば、私は拒否できない。

 だって、私が六華とそういったものを見る時間を作らなければ、彼女はまた葛飾さんを誘って映画を見るだろう。

 そんな事になれば、さらに六華と葛飾さんの距離が縮まってしまうかもしれない。それだけは絶対に許せなかった。


「わかった。なら雪音、ここ座って」


 私はこれから見るホラー映画のことしか考えていなかったため、六華に言われた通り、彼女の足の間に座る。

 六華は私が座ったのを確認すると、スマホを横向きにして映画の再生ボタンを押した。


 映画はどうやら海外のものらしく、それを見た私は少しだけ安堵した。


(よかった。邦画だったら怖すぎて見れなかったけど、洋画なら海の向こうの話だし何とか耐えられそう)


 最初のうちはそう思って見ていたのだが、ストーリーが進むにつれ、私の限界値はどんどん上限に近づいていく。


(無理無理無理無理!人形が呪われてると怖すぎるよ!私の部屋のぬいぐるみたちも動き出したらどうしよう。もうやだよぉ。怖いよぉ)


 そしてストーリーも終盤に入ったころ、あまりの怖さに悲鳴を出したり、無意識に六華の腕にしがみついたりしてしまった。

 そして、ようやく映画が終わった頃には私は疲れ果てしまい、全身の力を抜いて六華に身を預ける。


「面白かったね、雪音」


「…うん。こわ、じゃなくて、…面白かったね」


 危なく本音を言ってしまうところだったが、なんとか話を合わせることが出来た。


「また今度一緒に見ようか」


「え。…あ、うん。そ、そうだね」


 またあんな怖いものを見なければならないのかと思うと顔が引き攣ってしまう。そして、少しずつ落ち着いて来たからか、腰のあたりで何やら力を込められていることに気付いて見てみる。

 すると、さっきまでは恐怖で気づかなかったが、私は今、六華の足の間に座って後ろから抱きしめられた状態だった。


 そのことを理解した私は、急に恥ずかしくなってしまい顔が熱くなる。

 急いで離れようとも思ったが、腰を六華に抱きしめられているため離れることが出来ず、私は顔を逸らすことしかできなかった。


「ひゃう?!ど、どうしたの六華!」


 すると突然、首筋に何か柔らかいものが当たる感触がして、驚いて変な声が出てしまった。

 それが六華からのキスだとわかった私は、行動の意味ついて尋ねる。


「ん?どうもしないよ」


 六華はそう言いながら、もう一度私の首筋にキスをして、ゆっくりと舌を上に這わせてくる。そして、そのまま私の耳を舐めたり甘噛みしたりを繰り返す。


「り、六華!…あっ!……んっ」


 私は、恥ずかしさとこれまで感じたことのない気持ちよさから逃れようとするが、彼女に後ろから抱きしめられているため動けない。


「ま、まってぇ、りっかぁ…みみ…よわ、い…から…」


 耳を舐められるたびに、彼女の舌から伝わる水音と快感が私の脳を溶かす。そして、抵抗する力もどんどん失っていき、少しずつその快楽に身を委ね始める。

 終いには、もっとして欲しいと口に出しそうになったとき、突然その快楽は終わりを告げた。


 六華は、右手で私を後ろに振り向かせると、軽くキスをして立ち上がる。

 そして自分のカバンを持ってドアまで近づくと、私の方を振り向き--


「またね、雪音。とても楽しかったよ」


 微笑みながらそう言って帰って行った。私はしばらくの間どうすることもできず、ただただドアの方を見続ける。

 そして、少しずつ落ち着いて来た私は、さっきのことを思い出してまた顔が熱くなる。


「もぉ無理だよぉ…。恥ずかしさと愛おしさで死にそう…」


 それからはもう六華のことしか考えることが出来ず、食事中も勉強の復習にも集中することが出来なかった。






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